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順調に伸びはじめた米国の高度/高速通信
〜さまざまなインフラで多様なサービスが芽生える〜
(2000.10)


 わが国でも郵政省の電気通信審議会等で高速インターネット等の高度高速通信の普及策が真剣に取上げられるようになってきたが、米国の場合はどうか。

■FCCがまとめた米国の高度通信の現状−−順調に普及進む
 最近FCC(連邦通信委員会)は、高度通信の大掛かりな現状調査を行い、この8月にその結果を「高度/高速通信サービスの利用現況」と題するほぼ200頁にのぼる調査報告書にとりまとめ、発表した。
 「米国では高度通信がおおむね順調かつタイムリーに普及しつつあり、昨年末現在で280万の高速および高度サービスの加入者があるが、市場の推移に任せたままでは低所得層、少数民族、僻地等での普及に懸念が生じている」-------これがその報告書の結論である。
 この報告書では、米国での高度/高速通信の普及の現状とその問題点、さらにはFCCをも含めた政府当局の今後の施策のあり方についての提言が述べられている。また、電話線を基礎とするDSL、ケーブル・テレビジョンを利用するケーブル・モデム・サービス、MDSやPCS等の固定無線サービス、衛星サービスなどの新しいサービスやインフラについての概説もある。

■1996年電気通信法の先見性
 わが国では最近やっとITの重要性が認識され、予算編成等でも重要施策として裏打ちがはじまったところだが、米国では1990年代半ばに情報通信を21世紀の中軸産業として位置付け、経済成長や国内の雇用の増進のために果たす役割が鮮明に認識され、そのために政府、民間部門がなにをなすべきかが真剣に論議され、具体化の努力が傾注されてきた。

 1996年電気通信法は、ベル系地域電話会社の長距離通信への進出を一定の条件で認めるとか、規制の洗い直しとか、きわめて重要な政策的イニシャチブを打ち出したまさに画期的な立法であったが、さらに、いわゆる「黒電話」などの基本的な通信サービスの普及に的を絞ったこれまでの『ユニバーサル・サービス』から大きく数歩を踏み出して、「(高速インターネット等の)高度通信機能をすべての米国市民が安価に利用できるよう政府は最大限の努力を傾注せよ」という具体的な政策課題をも提示し、FCCには毎年その進展状況と普及の障壁などの問題点を議会に調査報告するよう義務づけた。FCCは既に昨年、第一回の報告書を公表しており、今回はその第二回目にあたるが、今回はとくに大規模な調査を行っている。

■FCCの高度/高速通信に対する基本姿勢−−規制を避け市場の成り行きに任す
 FCCはインターネットについて、これまで、まだ生まれて日も浅い産業であることを主たる理由として、規制は避け、自由な成長を見守るという姿勢を一貫してとってきた。これに対して、電話を中心とした電気通信は、独占時代から伝統的に厳しい規制のもとに置かれてきた。その後大幅に競争が進展したにもかかわらず、料金認可等一部で従前からの「報酬率規制方式」から「プライスキャップ方式」(料金上限規制/インセンティブ規制)方式に移行するなど若干の手直しは行われてきたものの、依然としていまだに多くの規制のもとにある。最近、インターネット電話のように、従来からの電話と利用形態が類似しているサービスが出現してきても、FCCはそれがインターネットを利用しているというだけで、規制の対象から外している。電話会社側はこれを「片手落ちだ」としてインターネット電話も同様な規則に服させるべきであると主張している。こうした矛盾をFCCは、「基本サービス」と「高度サービス」という区分でこれまで糊塗してきた。「基本サービス」は規制するが、「高度サービス」は市場での自由な推移にまかせ、創意工夫でのびのびと発展させるというわけである。FCCはデータ通信についても同様に「規制差控え」(forbearance)の姿勢をとり、インターネットやデータは高度サービスだという論理でしのいできた。

 FCCは、携帯電話の一種であるPCS(Personal Communications Services)の免許に際しても、多種多様な新技術、新方式が自由に発展する風土を創ると称して、PCSの定義を故意に緩やかなものとし、あらかじめ技術基準等を定めて規制の枠をはめることを差控えてきた。その結果、ポケットベルの高度版や、日本のPHSのようないわば簡易型からセルラーとまったく類似したものまで、幅広いPCSサービスが認可されてきた。そのため相互接続などで問題が生じたケースもあったが、FCCは「事業者やサービスの勝敗は、規制が決めるのではなく、市場が決める」という態度をかたくななまでにとってきた。高速インターネット等の高度/高速通信についても、FCCはこれと同様な姿勢を継続している。

■多様な高度/高速サービス−−FCCは固定無線の将来に期待
 FCCは「高度/高速サービスの定義は時代とともに進化する」としながらも、今回は「双方向とも200Kbpsを実現できるサービス」を「高度通信」サービスと定義し、さらに対象の枠を拡大し「すくなくとも一方向だけは200Kbpsを超えるサービス」も「高速サービス」として定義している。報告書によれば、米国では、ケーブル・テレビジョン、DSL、地上固定無線(セルラー、MDS等)、衛星等を用いた実にさまざまな高度/高速サービスが芽生えつつある。たとえばDSLサービスでも、Pacific Bell, Atlantic Bell等のベル系地域電話会社はもとより、Covad, Rhythms, NorthPoint等の競争的市内事業者(CLECs)も続々とサービスを開始しており、相互が競争するだけでなく、MediaOne/AT&T, Time Warner等の大手ケーブル・テレビジョン事業者のケーブル・モデム・サービスとも競争を展開しつつあるとしている。FCCとしては、固定無線方式の将来の役割に多くを期待している。

 多様な新サービスが厳しい競争でもまれながらも、着実に根付きつつあるといえよう。  もっともFCCの楽観的な報告に対して一部の新聞等は、大半はケーブル・テレビジョン利用の高度/高速サービスであり、わずかにDSLがこれを追っている以外は実際はほとんどゼロに等しいとし、ケーブル・テレビジョンは実質的な地域独占をよいことに料金値上げが頻発しており、低料金での普及には懸念があると批判している。

(特別顧問 木村 寛治)
e-mail:編集部宛>nl@icr.co.jp

(入稿:2000.10)

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