トップページ > トピックス[2000年] >

トピックス
海外情報

米国での通信事業者の合併

(2000.8)


 1996年電気通信法が、従来の各事業分野間の防火壁による仕切りを取り払い、一定の条件はつけたものの、「長距離通信事業者と地域通信事業者」、「通信事業者とCATV事業者」間の相互乗り入れを認めてから、米国では大型の合併/買収が相次いだ。

買収事業者 買収対象 買収価額 当事者間
の合意
FCCの認可等
SBC* (元Southwestern Bell;テキサス等) Pactel* (サンフランシスコ、ロサンジェルス等) 1兆8360億円 1996.4 1997.1
SBC* Ameritech* (シカゴ等) 7兆5600億円 1998.5 1998.5
Bell Atlantic* (大西洋岸中部/ワシントン等) Nynex* (ニューヨーク、ボストン等) 2兆2680億円 1996.4 1997.8
Worldcom(長距離事業者) MCI(長距離事業者) 3兆9960億円

1997.11 1998.9
AT&T(長距離事業者) TCI(CATV最大手) 3兆9960億円 1998. 6.

1999.2
Bell Atlantic* GTE(非ベル系地域事業者最大手) 7兆0200億円 1998. 7 2000.6.

AT&T MediaOne(CATV大手) 4兆8600億円 1999. 4 2000.4
Qwest(長距離事業者) US West* (西部山岳地帯) 3兆7800億円 1999.7 2000.3
MCI Worldcom Sprint(長距離事業者) 12兆4200億円 1999.10 2000.7
不認可見込みのため断念
*は、ベル系電話会社(地域電話会社)
1ドル108円で換算>

 主なものだけでも別表のように、それまでは考えられもしなかった兆円単位の大型合併/買収がどんどん認められてきており、まさに独禁法などどこかへ消えうせた感すらある。


■合併の特徴
 市内、近距離の電話会社であるベル系電話会社間の合併が相次ぎ、AT&Tの分割で誕生し1996年電気通信法制定当時7社もあつたベル系電話会社は合併でわずか3社になった。長距離事業者間の合併も盛んだったほか、AT&TによるCATV大手2社の買収もあった。

 いずれの合併/買収でも、当事者が主張したのは、まず「グローバル競争に耐えうる事業規模の必要性」だった。今後数年たらずのうちにグローバル競争が進展し、最終的に生き残れるグローバル事業者は3−5社に絞られるとの見方が一般的になっている。そのためには一定以上の規模が必要で、それなしではいかに技術力、経営力があっても脱落を余儀なくされるという危機感が、大手事業者を熱病のように駆り立て、合併が蔓延したといえる。この競争に乗り遅れた事業者は、特定の狭いニッチ市場を相手に細々とその日暮らしを迫られることとなるというのが定説である。

 したがって、これまでの合併は、同種事業者間の合併が主体である。ベル系電話会社同士、長距離電話会社同士、またはベル系電話会社と非ベル系電話会社(GTE)の合併が大半を占めている。その中で異色を放つのは長距離事業者のAT&TによるCATV事業者の買収であろう。AT&TはCATVインフラを改良して双方向化し、市内電話事業にも進出するほか、インターネット等の今後の広帯域、高速データ通信のインフラとしても活用することを基本戦略として、社運を賭けた。

 合併申請当事者が主張した次の大義名分は、「市内での競争の促進」であった。合併で事業規模を拡大強化したのち、その財務基盤の上に立って他の事業者の営業区域にも積極的に進出することで、「市内サービスでの別の選択肢を消費者に与えうる」という名分である。

■規制当局の対応
 事業者の合併申請に対しては、司法省独禁局の審査、意見が出され、それを織り込んでFCCが1934年通信法第214条(「線路の延長」)に基づく公益審査を行い、最終的に認可、却下を決定することとなっている。FCCは同条の規定により、国務省、国防省、FBI等の捜査当局等の意見も徴さねばならないとされている。

 FCCは大部分の合併審査で、@「本来ライバル関係にある事業者の合併により失われる競争」というマイナス要素と、A「合併により体力/財務能力を強化することで、個々の事業者としての場合より一層早く他の事業者の営業区域に進出し、競争を増進する可能性」というプラス要素を比較考量し、差し引きプラスが残れば合併/買収を「公益に適う」として認可するという図式をとった。

 しかし、@FCCの審査は司法省の独禁審査と重複するうえ、A審査に要する時間がかかりすぎる、とする批判が議会筋をはじめ5名のFCC委員の一人からさえ出されている。

■他の事業分野との融合の無視
 MCIワールドコムとスプリントとの合併については、AT&Tに次ぐ第2位と第3位の長距離事業者間の合併であるため、合併計画の発表直後にFCC委員長が競争削減の懸念を表明し、その後司法省も独禁法違反として提訴する方針を明らかにし、さらに欧州委員会も反対の意向を示したため、結局断念に追い込まれた。

 両社は、「最近の長距離通信と地域通信の融合、音声通信とインターネット等のデータ通信との融合の時代に、長距離通信市場だけで合併後のシェアをうんぬんするのは時代錯誤である。両社を合併させ、その強固な財務基盤で他の事業者の市場に進出させることこそ消費者の利益となる」と反論していた。たしかにエンド・ツゥ・エンドのサービスが当たり前になり、インターネットの比重の増大など様々なサービスの融合の時代に、長距離通信とか地域通信とかの古いカテゴリーの枠内だけで独占かどうかを論議することには疑念もあろう。

 現に、AT&TもMCIワールドコムも、最近相次いで、料金値下げ競争が熾烈でしかも飽和で伸びない消費者むけの長距離通信事業からの撤退を真剣に検討しているといわれる。

■国益の重視
 NTTコミュニケーションズが提案しているVerio社の買収は、FBI等の犯罪捜査当局から「外国企業の傘下となれば十分な協力が得られなくなるのではないか」等の懸念表明で審査が長引いており、DT(独テレコム)によるVoiceStream社の買収構想もさっそく議会筋から「外国政府が所有する海外企業による米国通信事業者の買収」には反対意見や法案が出されている。(VoiceStreamの顧客数は僅か230万程度であり、ベライゾン・ワイヤレスの2,500万、AT&Tワイヤレスの1,200万、ネクステルの500万に比して格段少ないのにである。)

 米国は日本を含め海外諸国への米国通信事業者の進出の障壁除去(外資制限の撤廃/緩和)を強くWTO(世界貿易機関)や二国間交渉を通じて働きかけている。しかし、海外からの米国事業者の買収については、「犯罪捜査、国防上の懸念がある」とか、あいまいな「公益に反する」とかの理由でスムーズには認可がおりないケースが多い。欧州委員会も「DTのVoiceStreamの買収を米国上院が認めない法案を通すなら、欧州連合はWTOからの脱退を検討せざるを得ない」との書簡を米国通商代表に送るとしている。

(特別顧問 木村 寛治)
e-mail:編集部宛>nl@icr.co.jp

(入稿:2000.8)

このページの最初へ
トップページ
(http://www.icr.co.jp/newsletter/)
トピックス[2000年]