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大型M&Aが相次ぐ世界の携帯電話事業

(2000.5)


 去る 3月31日に、 ベル・アトランティックの携帯電話部門とボ−ダフォン・エアタッチの米国における携帯電話事業の統合がFCCによって承認され、新会社ベライゾン・ワイヤレスが発足した。 4月 5日には、 米国の地域通信会社のSBCコミュニケ−ションズとベルサウスは、傘下の携帯電話事業を統合し、新会社を設立すると発表した。 4月13日には、ボ−ダフォン・エアタッチとマンネスマンの合併が欧州委員会によって承認された。さらに 5月 9日には、 NTTドコモがオランダKPN(旧国営電話会社)の子会社のKPNモバイルに15% の出資をする、 と発表した。日本でも、この10月に予定されているDDI、KDD、IDOの合併で、携帯電話事業は実質 3社による競争体制に移行する。
 ワイヤレスで大型M&A相次ぐ背景を考えてみたい。

■米国の携帯電話事業トップに躍り出た「ベライゾン・ワイヤレス」
米国の携帯電話事業の免許は、原則として地域ごとに付与された(例外はタクシ−やトラックなどのディスパッチ無線から出発したネクステルと当初から全国サ−ビスの提供を目指して免許を競売で取得したスプリントPCS)。携帯電話を地域サ−ビスと考えたからだが、同一地域市場ごとに 2社の参入を認め、一社は通信事業者(ベル電話会社とGTE)、他の一社は非通信事業者とする規制を行った。

 サ−ビス区域を超える通話には、長距離事業者との接続や他の携帯電話事業とのロ−ミングなどで対処する必要があった。しかし、これでは利用料金が高くつく。そこで、合併を進めサ−ビス区域を拡げ顧客の要望に沿おうとした。合併に特に熱心だたのがマッコ−・セルラ−だったが、その後AT&Tに買収され今日のAT&Tワイヤレス・グル−プとなり、初の一社によるシ−ムレスな全国サ−ビスを提供する携帯電話会社となった。

 同社は、ロ−ミング料と長距離通話料が不要な全国均一料金の「デジタル・ワンレ−ト」を導入して大成功を収め、急速に事業規模を拡大した。この、全国サ−ビスと「ワンレ−ト」のビジネス・モデルを踏襲しよう、というのが米国における大型合併の第一の狙いである。この夏から始まる第三世代携帯電話の電波の競売とそのネットワ−ク構築に多額の投資を必要とするが、合併による規模の利益で経営体質の強化をはかるのが第二の狙いである。

 ベル・アトランティックの営業区域は主に東海岸、ボ−ダフォン・エアタッチは主に西海岸で、もともと重複が少なかったこともあって、合併審査は一部重複する南西部の 5市場をオ−ルテルに売却する、という軽易な条件でクリア−した。なお、この合併には両社が折半で出資していたプライムコが加わっている。

 FCCの承認後、直ちに発足した新会社の名前が 4月 4日に発表された。現在進行中のベル・アトランティックとGTEの合併後の新社名として予定された "Verizon"を使った "Verizon Wireless" である。"Verizon" はラテン語の "veritas"(真実:確実と信頼)と "Horizon"(水平線:前進と無限の可能性)を組み合わせものである。

 「ベライゾン・ワイヤレス」には、第 2四半期に見込まれているベル・アトランティックとGTEとの合併が完了すれば、GTEワイヤレスが加わる予定で、その時点における新会社の携帯電話の米国内加入数は2,400 万、ペ−ジング加入数400万、全米人口カバ−率90% 以上となり、全米トップ100 の携帯電話市場のうち96市場でサ−ビスを提供する。

 合併によって新会社は、ロ−ミング費用の削減、伝送、料金の計算と請求、端末の購入および広告などで規模の利益を見込むことができる。(2000年の収入は156 億ドル、利益は17億ドルの見込み) また、新会社の技術プラットフォ−ムは同じCDMAであり、投資効率を高め、ネットワ−クの容易な統合と品質向上を可能にする、と説明している。

 また、ベル・アトランティックとGTEとの合併が完了後においては、新会社「ベライゾン」の持ち分が 55%、ボ−ダフォン・エアタッチの持ち分が45% となる。取締役会はベル・アトランティック側から4 名、ボ−ダフォン側から 3名選出される。本社はニュ−ヨ−クとニュ−ジャジ−州ミンスタ−に置かれる。

 ベライゾン・ワイヤレスの発足にあたって次の二点に注目すべきだ。一つは、新会社が株式の上場を検討していることである。具体的な内容は未公開であるが、10% 程度の株式を 120〜150 億ドルで売り出すとみられている。実現すれば、AT&Tワイヤレス・グル−プのトラッキング・ストック(業績反映型株式)の発行(注)規模を抜いて、米国史上最大の株式公開になると思われる。この資金は、ネットワ−クの統合やこの夏予定されている第三世代携帯電話の電波の競売とシステムの構築のために充当される予定である。
(注) 4月26日に発行株数の15.6% を売却し、106億ドルを調達

 第二は、新会社発足と同時に発表した、ロ−ミング料と国内長距離料金不要の全国均一料金「シングルレ−ト」である(表1:料金表)。この料金はAT&Tのデジタル・ワンレ−トに比べ、利用時間の短い顧客が有利(AT&Tは最短が 300分 59.99ドル)なほか全体的に安く(例えばAT&Tは 600分で 89.99ドル) 料金が設定さている。ワンレ−ト型携帯電話料金の競争が激しくなりそうだ。因みに、日本の平均的な携帯電話利用者(月間利用時間の平均98分、郵政省調べ、98年度)は、定額料金35ドルで済むことになる。

■SBCとベルサウスの携帯電話事業を合併
 米地域電話会社のSBCコミュニケ−ションズとベルサウスは、さる 4月 5日に傘下の携帯電話事業を統合し、新会社を設立すると発表した。発足すればベライゾン・ワイヤレスに次いで米国で 2番目に大きな携帯電話会社(名称未定)になる。SBC(本社テキサス州サンアントニオ)は南西部を中心に 1,120万、ベルサウス(本社バ−ジニア州アトランタ)は南東部を中心に 530万の顧客を持っている。新会社は、1,600 万の顧客と100億ドルの年収規模を有し、全米50大市場のうち41をカバ−する。

 SBCが新会社の株式の60% を、ベルサウスが40% を保有する。取締役会の構成などトップ人事などは今後詰める。この合併には、司法省とFCCの承認が必要で、その際両社の携帯電話の営業区域が重複するところでは、いづれか一方の売却が必要、とみれれている。両社は年内の合併完了を期待している。

 統合のメリットは、ベライゾン・ワイヤレスと同様、ロ−ミングを減らしてシ−ムレスな全国サ−ビスを実現し、ワイヤレス・デ−タや料金競争に備えるため、事業運営における規模の利益を追求することである。両社はGSMとTDMAの異なるデジタル通信規格を採用しているが、両規格は互換性が高く、事業統合によって全米をカバ−するシ−ムレスなサ−ビスが可能になる。新会社は次世代システムに要する資金などを調達するため、株式の上場を検討している、と伝えられている。

 この合併で一番影響を受けるのはAT&Tワイヤレスである。1,260 万の顧客を持ち、全国サ−ビスとデジタル・ワンレ−トで業界のリダ−シップをとってきた同社は、一挙にナンバ− 3にとなる。AT&Tワイヤレスがトラッキング・ストック(業績反映型株式)を発行して資金を調達しようとしているのは、これらの競争に対抗しリダ−シップを維持するために、全国ワイヤレス網の構築を急いでいて(3分の2が完成)、それに多額の投資を要するからだとみられている。「ワンレ−ト」料金の競争でも厳しい状況にある。

 次に影響を受けるのはネクステルではないか。従来はAT&T、スプリントと並んで数少ない全国サ−ビスの提供事業者であったが、ベライゾン・ワイヤレスやSBCとベルサウスの携帯電話事業の合併新会社、最近オムニポイントとエアリアル・コミュニケ−ションズを買収したボイスストリ−ム・ワイヤレスがさる 4月に新体制で発足するに及んで、加入数 500万のネクステルを巡る競争環境は大きく変わりそうだ。

 ネクステルは、ボタンを押すだけで何十人もの相手と一斉に通話ができるサ−ビスを提供するなど、ビジネス向けサ−ビスに特化し、顧客当たり収入も高かい。しかし、ビッグ・プレ−ヤ−と全国サ−ビスで競争するには、周波数の容量が根本的に不足している。この問題を解決するためには、破産した他事業者から周波数を買い取るか、新たな競売に参加するかだが、いづれにしても多額の投資が必要であり、それを調達できる経営体力が問題になる。ネクステルがしばしば買収される企業としマスコミに登場するのはこのためである(表2:米国における携帯電話の全国サービス提供事業者)

■欧州委員会がボ−ダフォンとマンネスマンの合併を承認
 史上最大のM&A(1,800 億ユ−ロ)となったボ−ダフォン・エアタッチとマンネスマンの国境を超えた合併が、欧州委員会による 6週間の独禁法審査の結果、 4月13日に承認された。合併条件の一つは、両社の営業区域が重複する英国およびベルギ−での事業の分離である。とくに、英国におけるマンネスマン傘下のオレンジ(英国第3位の携帯電話事業者)を"stand-alone" ビジネスとして独立させることに注目が集まっている。

 合併によってボ−ダフォンはシ−ムレスな汎欧州移動通信サ−ビスの提供が可能(合併新会社は英、独、米で 1位、伊、仏、スペインで 2位などのシェアを持つ)になるが、他の移動体通信事業者は同様なサ−ビスの提供が困難であり、そのことに多くの苦情が寄せられた。そこで第二の条件は、合併新会社の統合ネットワ−クを、 3年間を限度として他事業者も利用できるようにし、競争相手が同様なサ−ビスの提供が可能にする措置を講ずる、というものである。 3年間としたのはUMTS免許の付与や他事業者が同様なネットワ−クを構築するよう動くであろう競争の実態を勘案したものである。

 これでボ−ダフォンとマンネスマンの合併は両社の社内手続きを残すだけになった。マンネスマンの取締役会はすでに非通信部門(エンジニアリング、自動車部品、継ぎ目なし鋼管)の事業をシ−メンスとティッセンに98億ユ−ロで売却することを決めている。一方、分離予定のオレンジの行方に関心が高まっている。マスコミは、買収意思を明確にしたフランス・テレコムのほか、KPN(オランダ)とNTTドコモの連合軍、テレフォニカ(スペイン)、MCIワ−ルドコム(米) などを候補として報道している。

 ボ−ダフォン・エアタッチ/マンネスマンは欧州と米国でシ−ムレスな移動通信サ−ビスを提供する基盤を築くことに成功した。次はアジアとラテン・アメリカである。日本では日本テレコムと提携して、J−フォンの推進するIMT−2000プロジェクトに26% の出資をし、 足場を築いている。同社はグロ−バル規模でのシ−ムレスな移動通信サ−ビスの実現に向けて、M&A戦略を活用するなどさらに積極的に動くだろう。

 もう一つはモ−バイル・デ−タでの主導権確保である。そのために現時点で重要なのはモ−バイル・ポ−タルを押さえることである。ビベンディ(仏)などの大手メディとの提携をさらに推進していくのではないか。国境を超える合併により誕生した巨大ワイヤレス会社のスケ−ル・メリットを、フルに発揮する戦略をとことん進めるだろう。

■NTTドコモがKPNモバイルに15%の出資
 去る 5月 9日、NTTドコモがオランダの旧国営電話会社KPNの100%子会社で携帯電話事業のKPNモバイルに15% の出資(50億ユ−ロ、現金)(注)を行うと発表した。NTTドコモは、香港の携帯電話会社のハチソン・テレコムへの出資、テレコム・マレ−シアとの出資交渉など従来のアジア中心の海外投資戦略を転換し、世界市場で一歩先を行くモバイル・インタ−ネットの高い評価を背景に、欧州進出を果たした。
(注)NTT ドコモの株式の67% を所有するNTT は、その所有比率を低下させる増資に応じなかったため、NTTドコモは借入による株式取得を計画している。(FT.com/News and Analysis/World Article MAY 9、2000)

 KPNモバイルは、本拠オランダのほかドイツ、ハンリ−など海外の携帯電話事業に出資しており(表3:事業展開状況)、合計1、000 万の加入数を擁し、欧州ではボ−ダフォン・エアタッチ、テレコム・イタリア、ドイツ・テレコム、フランス・テレコムなどに次ぐ第7位の携帯電話会社である。同社は、他の有力携帯電話と同様、欧州全域がシ−ムレスに接続できて、モバイル・インタ−ネットに対応できる携帯電話会社を目指している。

 しかし、去る 4月27日に終了した英国の第3世代携帯電話事業の免許競売の結果が確定して以後、状況が一変した。予想を超える高値落札( 5免許で合計225 億ポンド、3 兆7600億円)に刺激された他の政府が、免許料を引き上げる動きに出ていて、KPNモバイルのような中堅事業者は、他と提携する以外に生き残ることが困難になった。

 携帯電話会社は免許料の支払いに加えて、新ネットワ−ク建設に多額の資金を必要とするからだ。また、欧州という地域性を考えると、欧州全域(少なくとも英、仏、独、伊、西)をカバ−するサ−ビスを提供できなければ、ロ−カル事業者になってしまう。

 そこで、KPNはスペインの旧国営電話会社であるテレフォニカとの合併を進めていたが、スペイン政府の反対で 5月 6日に交渉は打ち切りになった。それぞれが新しい提携先を探すことになり、KPNはモバイル・インタ−ネットなどの先進サ−ビスで、欧米市場への参入を模索していたNTTドコモとの提携に踏み切った。欧米のマスコミは、KPNにとってのベスト・ソリュ−ションはやはりテレフォニカだった、と書いていた。一方、欧州のモバイル事業はいずれ3〜4社に集約される、とする見方も根強い。KPNモバイルに対するNTTドコモの出資が発表さた当日、この提携が「野心的」でないとして、KPNの株価が7%も落下した(表4:KPNとNTTドコモの提携)

 KPNとNTTドコモの当面の課題は、欧州でのモバイル・インタ−ネットの展開を別にすれば、ボ−ダフォン・エアタッチによるマンネスマンの買収にともなって売却(売却価格は約500 億ドルか)される英国の携帯電話会社オレンジの競売に応札することだろう 。(現時点で両社はオレンジ買収で合意していない)しかし、すでに買収の意思を明らかにしているフランス・テレコムのほか、テレフォニカ、MCIワ−ルドコムなどの応札が見込まれ激戦が予想される。次の課題は、KPNは今後予定されている独、仏、伊など(英、西は終了)の第3世代携帯電話の免許取得に、どこまで対応できるかである。

 これらの情勢を考慮すると、KPNモバイルを巡るM&AはNTTドコモの15%の出資だけでは終わらないだろう、と欧米のマスコミが報じている。可能性としては、NTTドコモの追加出資(NTTドコモは過半数の株式の取得の意図はない、経営に影響を与え、日本の技術をプロモ−トするためには、少数株主で十分、と表明している、DoCoMo RISING:BUSINESS WEEK/MAY 22、 2000)、ベル・サウス(ドイツの携帯電話事業者のEプルスの共同出資者)やクエスト・コミュニケ−ションズ(汎欧州光ファイバ−・ネットワ−ク会社、KPNクエストの共同出資者)からの出資受入れ、フランス第2位の携帯電話事業者SFRの親会社ブイグテレコム(その親会社はメディア大手のビベンディ)への出資などが考えられる、としている。

(取締役相談役 本間 雅雄)
e-mail:編集部宛>nl@icr.co.jp

(入稿:2000.5)

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