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米国Cable Overbuilderの動向と
ケーブルTV市場の競争実態

(2000.5)



■はじめに
米国では、1996年通信法で、通信と放送の融合化を促進するため、市内電話会社は、市内電話サービスの提供でケーブルTVオペレータと相互接続していることを示すことができるのであれば、ケーブルTVサービスを自身の市内サービスエリアで提供してもよいことになり、既存ケーブルTVオペレータと同じフランチャイズエリアで2番目のライセンスを得たCable Overbuilderが出現した。一方、既存ケーブルTVオペレータは市内電話サービスを自身のフランチャイズエリア内で自身の施設を利用あるいは再販により提供してもよいことになり、衛星のDBSとともに3つどもえの競争がで展開されてきている。

 これら多チャンネルTV番組配信業者(Multichannel Video Programming Distributors:MVPDs)間の競争では、単に、インフラの構築だけでなく、TV番組の購入が必要となり、その資金と料金割引による競争に対応できない多くのOverbuilderは、競争から脱落してきているとの指摘もある。すなわち、大手ケーブルTVオペレータがクラスタリングによるシステム集約化をすすめていくだけでなく、大手TV番組制作業者への資本的な垂直統合化、さらに、排他的な契約を独立系番組制作業者と結ぶことなどで、多くのOverbuilderの市場参入に対抗している。しかし、このケーブルTVオペレータとTV番組制作業者の垂直統合は不自然でなく、通信業界と同じように、DBSや地域電話会社からのチャレンジに呼応したものであるとの指摘もある。

 本レポートは、2000年1月14日に公表された、ケーブルTVオペレータなどの多チャンネルTV番組配信業者(Multichannel Video Programming Distributors:MVPDs)の競争の実態をまとめている米国連邦通信委員会(FCC)の「TV番組配信市場での競争に関する第6回年次報告」にもとづいてを作成している。

米国TV、ケーブルTVの世帯普及概況(図表1)

  • 米国の総世帯数は1999年で約1億、2004年まで微増していく。
  • TV保有世帯数も1999年のから2004年まで微増していく。
  • ケーブルTV加入者数はホームパスとほぼ同じ数増加していくことで、加入率(CATV加入数÷ホームパス数)に大きな変化はない(約70%弱)。
  • MVPDのTV保有世帯に占める割合が83%から88%に増加していく。

table1
出展:Kagan Associates,1999年 

■米国の多チャンネルTV番組配信(MVPD)事業者の動向
 事業者の加入数の予測を図表2に示す。

図表2:米国多チャンネルTV番組配信事業者の加入者数予測
table2
出展:Kagan Associates,1999年

ケーブルTVオペレータの動向
図表2から、多くの多チャンネルビデオプログラム配信業者(MVPD)がでてきているが、ケーブルTVオペレータが依然として基本的な配信業者である。ケーブルTVシステムはアップグレードにより、デジタル伝送による高品質でチャネル容量を増加し、双方化でインターネットと電話サービスを提供している。サービスのバンドル化による提供が期待されているが、IP電話には数多くの技術的な問題を抱えているためCabelLabsはPacketCableと呼ぶケーブル施設を利用したIP電話標準仕様を策定しており、IP電話の提供テストを開始している状況である。したがって、多くのケーブルTVオペレータはIP電話の開発を待っている間に、回線交換ベースのケーブル電話を提供している。1999年6月に、Coxの住宅向け電話サービスであるCox Digital Telephoneは6市場で87万ホームパス、6万加入者にサービス提供している。

電話会社のケーブルTV事業(Cable Overbuilder)
1996年通信法で、地域電話会社(LEC)のケーブルTV市場参入の規制もなくなり、TV配信サービスの提供は増加してきている。例えば、Ameritechは111ケーブルフランチャイズを抱え25万加入者にサービスを提供している。BellSouthは21のフランチャイズ140万ホームパスとMMDSによる350万ホームを抱えている。

衛星のDBS
 DBSはローカル番組を配信できなかったが、1999年11月29日に、FCCは、A Revised Local Satellite Home Viewer Act(SHVA)により、ローカルTV市場内でローカル放送シグナルを配信することを可能とし、ケーブルTVオペレータとの競争を促進されることを期待している。EchoStarはABC、CBS、NBC、FOXのローカル関連で構成するローカルネットワークパッケージを月額4.99ドルで提供しはじめた。さらに、DirectTVを運営しているHughes社では2002年に打ち上げを予定している双方向ブロードバンド接続を実現するSpacewayと呼ばれる次世代衛星システムの開発に期待している。

MMDS(Multichannel Multipoint Distribution Service)
 MMDSはワイヤレスケーブルとして知られ、1998年9月からFCCがスペクトラムの双方向利用を認可している。これで、MCIWorldComとスプリントが進出してきている。送出アンテナと受信アンテナ間に見通しがよくなければならないことから、多くの加入者はアパートやMDUである。また、30チャネル程度しかとれないため、ケーブルTVオペレータと比べて番組を整備することができていない。今後は、デジタル化と双方向化により高速インターネットと電話サービスの提供を可能としていく。

SMATV(Satellite Master Antena Television)
 プライベートケーブルTVサービスで、フランチャイズの取得やFCCなどのサービス要件を満たす必要はない。MDUやアパート、ホテルなどでサービスを提供している。SMATVシステムはケーブルTVと同じシステムを使うが、主にホテルなどのMDU内の加入者(ホテル宿泊者など)向けのサービス提供を目的としている。DBSのTV番組、インターネットアクセス、電話サービス、セキュリティーサービスなどを提供していく。  SMATVの最大手であるOpTel社では1998年5月に217,100加入者を抱え、自身の局内交換機を運用して市内電話サービスを提供したり、長距離通信事業者であるIXCの市外電話サービスをリセールしている。

 

■ケーブルTV市場の競争状況
◇Cable Overbuilder Cable Overbuilderの発生経緯
 2番目のフランチャイズライセンスを取得するCable Overbuildは1990年半ば以降、米国内でよく見られるようになってきた。事業者の多くは、電話会社と公益事業者である。アイオワ、オハイオ、ミシガン州内の市町村が、既存のケーブルTV事業者のサービスに不満を募らせた結果、2番目のフランチャイズライセンスを与えてきている。Iowa Association of Municipal Utilitiesでは、Cable Overbuilderの必要性の大きな理由に以下の4点をあげ、1994年以降、アイオワ州内の市町村で市営ケーブルTV事業が認可されてきている。
  • 現在のケーブルTVサービスに不満足である
  • 経済開発への期待
  • ローカルの教育機会の改善要望
  • ガス、電力公益事業者の通信分野への参入

Overbuilderのタイプ 
 Overbuilderは市町村のローカルフランチャイズ当局からタイトル4オペレータライセンス、あるいは連邦通信委員会(FCC)からOpen Video System(OVS)の認可を得ることで、既存のケーブルTVオペレータと同じエリアでケーブルTVサービスを提供することができる。Overbuilderには以下の3タイプがある。

  • 民間企業によるOverbuilder(代表例:RCN社)
  • 市内電話会社によるOverbuilder(代表例:Ameritech社)
  • 電力等公益事業者によるOverbuilder

Open Video Systemライセンス
 Open Video Systemは、市内電話会社がケーブルTVサービスを提供するよう96年通信法で定めた、非フランチャイズケーブルシステムである。これで、市内電話会社は、ケーブルオペレータに課せられている1984年ケーブル通信法の多くの規則をバイパスすることが可能となった。しかし、ケーブルフランチャイズと同じように、OVSオペレータはローカルフランチャイズ当局に、ケーブルTVサービス売上の数%をフランチャイズ料として支払ったり、1992年ケーブル法に定められている一定の措置に従うことになっている。
 OVSオペレータは既存のケーブルTVオペレータとしてケーブルシステムを構築できるが、保有する3分の1のチャネル容量は自身のサービス目的に利用し、残り3分の2を適正料金で独立の番組提供業者に非差別的条件で提供することになっている。提供していないチャネル容量を一定期間、自身のサービス提供に利用することもできるが、第三者の要請があれば、提供していかなければならない。
FCCは、実効的な競争がない限り、既存のオペレータが同じエリア内でOVSを運営することを禁止している。

* 実効的な競争とは以下の条件を満たす。

  • 1社の加入世帯数はエリア全体の30%以下であること、
  • 2以上の多チャンネルビデオ番組配信事業者がいること、
  • 同等の番組が50%以上の世帯に提供されていること、
  • 小規模配信事業者が15%以上の加入数を保っていること、
  • 多チャンネルプロバイダーの提供するエリアは50%以上の加入率があること、
  • DBS以外に市内電話会社のネットワークが競合多チャンネルTV番組サービスを直接加入者に提供するのに利用されていること。

Cable Overbuilderの活動状況
 1995年から1999年までで、28州210市町村、潜在的には830万ホームパス数まで増加し、1999年の全ホームパス世帯数が9,700万なので、9%程度占めてきている。しかし、フランチャイズを得てからサービス提供までには時間がかかる。このため、Ameritechでは90市町村しかサービス提供していないし、PacBellはMVPDサービスの提供を中止した。
1999年でFCCは28エリアでサービス提供する13のOVSオペレータを認可している。OVS加入数は1999年6月で6万程度であり、全MVPDの1%程度を占めている。
 民間のOverbuilderであるRCN社はボストン、ニューヨーク、ワシントンDCで42.5万ホームパス、27万にOVSとケーブルTVライセンスでサービスを提供している。サンフランシスコとフィラデルフィアに拡大していく。OVSライセンスの取得で市場参入を迅速に果たし、従来のケーブルフランチャイズに切り替えてきている。

◇MVPD配信市場での競争の実態
 加入者は、既存のケーブルTVオペレーターとDBSプロバイダーから多チャンネルTV番組サービスを選択して利用することができる。さらに、ケーブルTVが利用できる全3.3万市町村のうち210市町村でOverbuilderを選択利用することが可能となった。
これら競合する市町村では、サービスと機器レンタル料金が低下したり、チャネル数が追加提供されたり、カスタマーサービスの改善、新デジタルサービス、インターネットや通信サービスを利用することが可能となってきている。
 Overbuilderで成功しているのは、多様なサービスを”バンドル化”して、さらに、割引料金で提供する事業者が多い。これに対抗するため、既存ケーブルTV事業者は施設をアップグレードしつつある。ただし、競合するエリアに隣接するエリアは、競争による恩恵はまったく受けていない。例えば、ケーブルTVオペレータである
Cablevisionはオハイオ州で同じサービスを競合していないエリアで50.69ドル、Ameritechと競合しているエリアでは30.9ドルで提供している。AT&T-BISでもミシガン州のAmeritechと競合していないエリアと競合しているエリアで、同じサービスを、それぞれ45.98ドルと39.40ドルと異なる料金で提供している。

競争事例:Ameritech vs AT&T-BIS
 Ameritechは米国1997年にケーブルTVフランチャイズを取得してから、既存ケーブルTVオペレータであるTCI(現AT&T-BIS)と競合してきている。Ameritechの普及率は40%前後、TCIは50%強となっている。1998年6月に基本サービスで月9.95ドル、60チャンネルで29.95ドル、さらに、120ドルの商店街クーポン、無料設置料、無料のプレミアム映画チャネルなどを提供している。Ameritechが参入する前の1997年6月には、TCIはケーブルプラスパッケージを32.2ドルで提供していたが、参入後、28.95ドルに値下げし、10ドルの割引クーポン、無料のコンバーターボックスなどを提供しはじめた。

競争事例:RCN vs Time Warner Cable
1997年12月に、マサチューセッツ州Somervilleで通信事業者であったRCN-BecoCom,L.L.C社はOVSオペレータライセンスをFCCから取得した。RCNはDisneyチャネルを含む75チャネルで24.95ドルで、同社の市内電話利用者には19.97ドル、高速インターネットを19.95ドル、TVあるいは電話サービス利用者は17.95ドルで提供開始した。既存ケーブルTV事業者であるTime Warnerは、1997年11月に基本サービス月26.48ドルで提供していた料金をSomerville以外で10%値上げした。さらに、1998年6月には値下げした。1999年3月で、19,000のTime Warnerの加入者のうち、2000から2500がRCNに切り替えている。Time Warnerは、インターネットと電話サービスは提供していないことからMediaOneとSomervilleを交換することを計画している。

競争事例:Adelphia Cable vs DirecTV
 バーモント州では、Adelphia Cable Communications社が全世帯の70%にケーブルTVサービスを提供している。しかし、DirecTVの普及率が63%と高く、Adelphiaがわずかに11%しか占めていないエリアもでてきている。

競争事例:市内電話会社+衛星DBS vs ケーブルTVオペレータ
SBCとBell Atlanticは、ケーブルTVサービスの提供で、施設を構築しないで、DirecTVと共同マーケティングを締結し、自社の電話加入者向けにTV配信サービスを販売していくケースも発生している。

◇MDU(Multiple Dwelling Unit:共同居住単位)市場での競争の実態
 MDUには高層賃貸ビル、コンドミニウム、共同住宅などの高密度住宅コンプレックスがある。1997年12月時点で米国内のMDUには2490万世帯、全米9950万世帯の25%を占めていた。

 これまで、ケーブルTVオペレータとSMATVオペレーターがMDU加入者にサービスを提供してきた。DBSは全米に配信できるがDBSシグナルが届く見通しがよくないと受信できないことと、ローカルTVを配信できなかったことから、MDUでは利用されてこなかった。市内電話会社やSMATVはDBSと共同でMDUにサービス提供する提携をおこなってきている。この提携で、市内電話会社はTV、電話、データを含むワンストップショッピングの提供を可能としている。DBSのDirecTVとEchoStarでは、MDU市場のシェアーを1999年の1%から2007年には9%まで増大すると期待している。

 MDU市場では、既存のケーブルTVオペレータがMDU所有者と排他的な契約を結んでいたり、構内配線にアクセスさせないようにするために、lockboxes(鍵箱)の除去を拒むことでMDU内の既存の構内配線を他競争事業者は利用できない(構内配線の2重化のコストは高くつく)ようにするなどの新規参入者にとって不利な条件が多い。このため、Ameritech、BellSouth、RCNなどで構成するCoalition of Wireline and Wireless Overbuilders(CCC)は、既存のケーブルTVオペレータを非難している。
このため、FCCでは、以下の規制を現在検討中である。

  • 競争促進のために、排他的な契約に制約をするべきか
  • 構内配線規則を実施するために州・ローカルアクセス法を設定するべきかどうか
  • サービスを終了する前にケーブルTV構内配線へのカスタマーアクセスに関する規則を拡大すべきかどうか
  • MDU所有者が既存のMVPDsと競争MVPDsに配線を共有するように許可するかどうか

■TV番組購入市場での競争実態
クラスタリングによるシステム集約化の進展
 大手ケーブルTVオペレータはクラスタリングという散在する自社が保有しているフランチャイズ地域を売却したり交換したりして、集約化し、規模の経済を実現しつつある。この結果、TV番組の調達などで、市内電話会社などの新規参入者にコスト面で優位な立場にたっている。

番組配信に衛星から光ファイバー経由に切り替て他事業者がアクセスし難くしていく
TV番組を保有している大手ケーブルTVオペレータはクラスタリングにより、衛星よりも効率的に光ファイバーで配信することが可能となるため、競争事業者は光ファイバーで配信されるTV番組にアクセスし難くなることで、FCCのTV番組アクセスルール抜け道の手段となっている。

市場の垂直統合化が競争を阻害している
 TV番組の購入と料金割引による競争で資金的な余裕がないことで競争に対応できないOverbuilderが多いことから競争が阻害されているとの指摘がある。 実際、DBSなどの非ケーブルTVオペレータは、大手TV番組制作業者はケーブルTVオペレータに資本的に垂直統合されていたり、排他的な契約を結んでいる独立系番組制作業者両方からTV番組の調達は困難であると報告している。 1999年には283の衛星配信全米規模のTV番組ネットワークがあり、その内、37%である104ネットワークは上位6位のケーブルTVオペレータに垂直統合されている。  垂直統合は大手ケーブルTVオペレータに関係するだけでなく、多くの加入者も同時に抱えてるという問題が発生する。現在、上位20のTV番組ネットワークの8番組がケーブルTVオペレターに垂直統合されている。

図表3:上位20TV番組の加入者数とMSOの保有率

table3

 多くのMVPDsのTV番組はMSO、放送事業者等12社の支配下にある。例えば、加入数でみた上位50TV番組のうち、12社が46も保有している。

事例:地域のスポーツ番組
昨年の広告売上が2.64億ドル、ライセンス料が5.25億ドルあった。News Corp.が保有するFox Sports Netが20番組のうち14を提供し、全米6800万世帯、Disneyが保有しているESPNは7600万世帯が視聴している。多くのスポーツ番組関連料金は加入者数をベースに設定されていることから、クラスター化した大手MSOだけがTV番組の割引を得ることができるとコメントしている。

事例:ニュース番組
56の地域TV番組ネットワークのうち、27%となる15が地域ニュースネットワークである。スポーツ番組と異なり、ニュース番組は所有者の分散化や小規模市場での提供が進んでいる。1都市に限定したニュース、例えば、高校のスポーツなどに特化した提供をしつつある。デジタル化により低コストでの制作が可能なことから、小規模市場での24時間のローカルニュースオペレーションを実現している。

情報流通ネットワーク研究担当 
シニアリサーチャー 段野 幹男
e-mail:danno@icr.co.jp

(入稿:2000.5)

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