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インターネットのアクセス回線をめぐる競争

(2000.7)


 インターネットが急速に普及し、インターネットに係わるビジネスが現実性を持ってきた。インターネットのアクセス網として、xDSL、FTTH、無線LAN、携帯電話、ISDN(IP接続サービス)、ケーブルテレビ等が注目されている。以下では、これらのアクセス網間の競争はどのように展開されていくか?勝者は誰か?について、料金、提供エリア、速度等の面から考えてみたい。


はじめに

 日本のインターネット利用人口は1999年末には2700万人を超え、世帯普及率は19%に達したとされる(H12通信白書)。インターネットはブームだという認識から、インターネットは着実に我々の生活やビジネスに浸透してきているという認識に変わりつつある。
 インターネット利用がさらに広がるために欠かせないのが、「速く」、「安く」、「便利な」アクセス環境である。近い将来、音楽、動画等の様々なコンテンツをネットで得ることが可能な便利な社会が期待されている。インターネットをより有効に使いこなすためには常時接続型で、かつ低廉な接続環境が求められる。
 このようなユーザニーズに応えるべく、xDSL、FTTH、無線LAN、携帯電話、IP接続サービス(サービス名は「フレッツ・アイ」)、ケーブルテレビ等の多様なアクセス網が、各々の特長を生かしながら競争を繰りひろげようとしている(図1図2参照)。
 以下では、個々のアクセス網について強み/弱み等を見ていきたい。


■xDSL
提供エリアの制約はあるが、
局所的には有力なアクセスサービスとして注目される

 xDSLとはメタリックケーブルを用いた高速データ伝送技術の総称で、ADSL、HDSL、SDSL、VDSL等の方式がある。ADSLは既存電話網を用い、電話と重畳して利用可能で低コストであり、上り下りの速度が個人のインターネットの利用の仕方に合っていることから有力なアクセス網と見られている。
 xDSLのメリット、デメリットは次のとおりである。

メリット1:速度と料金のコストパフォーマンスが高い
ISDNの数倍の速度(上り:128〜256kbps、下り:512〜640kbps)。初期費用は2万円〜数万円であるが、月額使用料は6300円〜で、高速度の割には安い。

デメリット1:ISDNとの干渉
ISDNとADSL回線の使用帯域が重なっているため、両者が物理的に近位置の芯線に収容されている場合には信号の漏えいが生じる可能性がある。但し、AnnexCの採用、収容替え(最終的に利用できない場合もあり得る)による対応が考えられている。

デメリット2:距離の制限

伝送距離が長くなるほど伝送速度は遅くなる。但し、実際のユーザの殆どは支障がない程度の距離内に居住しているとの見方もある。

デメリット3:光ファイバーの場合利用不可
メタル回線でこそ利用できるものであって、光ファイバー敷設までの時限的な位置づけと考えられている。但し、光化のスケジュールを事前に明らかにする等によりADSLの展開に支障が出ないような対応が求められている。

デメリット4:提供エリアの急速な拡大が難しい
提供に支障がないか確認しながらエリアを拡大するため、スピーディな展開が難しい面がある。但し、地域電話会社は接続事業者の要望に迅速に応えるべく要求されており、現在、エリア拡大のテンポは速まっている。
 このように、xDSLは料金と速度の面では魅力があるが、ISDNとの干渉や光ファイバー化により提供できないエリアがある。FTTHにより光化が進めば進むほど提供エリアは狭くなっていく。つまり、提供エリアに面的な広がりがなく、ユーザのニーズに応じスポットで提供されていくものと考えられる。また、FTTHと併存できないことから、xDSL接続事業は、光化後は異なったビジネスに変容していく(当然視野に入れていると考えられるが)ことになる。


■FTTH
ADSLは暫定的なもので、光が本命視される。
速度では他に勝るが、料金、ニーズが不透明な面も

 FTTHとは、Fiber To The Homeの略で、加入者線を光ファイバーにすること。1997年11月の経済対策閣僚会議では、景気浮揚策としてFTTHを2005年の前倒しに向けてできるだけ早期実現することがうたわれたが、明確に期限が設定されている訳ではない。NTT西日本、松下電器産業等は2000年5月から「金沢トライアル」として、シェアドアクセス技術(10Mbpsを最大32ユーザで共用する)を用いた地域情報流通サービスの実験に取り組んでいる。NTTの「3カ年経営計画」では、「高速光IP接続サービス」を2000年第3四半期に「最大10Mbpsを月額1万円程度の定額制」で試験提供するとしている。
 NTT以外では、中部電力が340万世帯を対象に光ファイバー芯線貸し事業を予定している。また、NTT-MEは2000年4月から兵庫県の団地で光ファイバーを使った最大10Mbpsのインターネット常時接続サービスを月額5000円で提供している。
 FTTHのメリット、デメリットは次のとおりである。

メリット1:高速では他に劣らない
最大10Mbpsで、分岐の仕方(最大32ユーザ)により、最低保障帯域を上げることが可能である。

デメリット1:料金が不透明
最大10Mbps(32多重)で月額1〜2万円程度といわれる。将来のFTTHを考えると、一層の低廉化が望まれるところである。「5000円を目指す」(日本工業新聞2000.6.23)とも報じられている。

デメリット2:投資が大
光ファイバーそのもののコストは低下しているが、周辺機器は高額であり、全国規模で光ファイバー網を整備するにはコストが大きくかかると考えられる。

デメリット3:ニーズがあるか?
10Mbpsほどの高速でユーザが日常的に見るコンテンツがあるのだろうか?光ファイバーを使ったキラーコンテンツの決め手が模索されている。
 このように、FTTHは速度では他に勝るが、料金、提供エリアについて未だ明らかになっていない部分がある。


■無線LAN
有線の補完と捉えられる

 無線LANはアクセス回線に無線を用いる方法のひとつで、1999年夏にスピードネットが数千円で数Mbpsのアクセスを提唱し注目を集めた。スピードネットは2.4GHz帯を用いる予定だが、ノイズの影響が懸念されている。新たに、比較的ノイズが少ない5GHz帯の割り当ての可能性があり注目されている。
 青森県のベンチャーのネットワークス、NTT-ME等が既に無線を使ったアクセスサービスを提供している。なお、22GHz帯、26GHz帯、38GHz帯を用いる方式(FWAと呼ばれることが多い)では機器が高額で法人ユースが中心と考えられる。
 無線LANのメリット、デメリットは次のとおりである。

メリット1:地理的条件の制約を受けにくい
集合住宅などの、有線の場合には困難性を伴う場合でもアクセス可能。

デメリット1:ノイズ等に弱い
見通しの悪いところではつながらない。但し、置局設計上の工夫で解決は可能。また病院の温熱器、工場の溶接機等が発生するノイズの影響があると言われている。
 このように、無線は広範囲を面的にカバーするというよりも、局所的に強みを生かすもの、有線の補完的なものと考えられる。


■次世代携帯電話(IMT-2000)
モバイルで使いたいというニーズはなくならないこと、
面的なエリア展開ができることで優位

 次世代携帯電話では2Mbpsの速度が予定されており、モバイル対応のインターネットアクセス網として着目されている。iモードの急速な普及から注目を集めている。KDDIはcdma2000方式の採用を予定しているところであるが、クアルコム社は「HDR」(データの伝送技術)により固定の通信も視野に入れている。
 IMT-2000のメリット、デメリットは次のとおりである。

メリット1:移動しながら使える
静止時で2Mbps、歩行時で384kbpsの速度が予定されている。

メリット2:提供エリアは、短期間に拡大できる
現在までの携帯電話のエリアの拡大スピードと同程度の速さで提供エリアが広がることが期待できる。NTTドコモの場合には、2001年5月に東京23区等で開始し、2003年度末までに人口カバー率80%以上にするとしている。

デメリット1:料金が不透明
MPEG2で1時間番組を視聴するとして、iモードの料金体系(128バイトのパケットが0.3円)を適用すると仮定すると、(6Mbps×3600秒/8)バイト/128バイト×0.3円で、6328千円もすることになってしまう。少なくとも動画は違った課金になると考えられるが、未だ不透明である。

デメリット2:多チャンネルは流せない
IMT-2000では動画は見られるが、ケーブルテレビの場合のような放送番組や多チャンネル放送を視聴することはできない。2Mbpsであっても、放送を視聴するケーブルテレビと比較すると、必ずしも十分な速さではない。
 このように、IMT-2000は、モバイルで使いたいというニーズに対応し、また提供エリアが面的に広がり急速に普及する可能性を持つ。しかし、高速を競った場合には、いまのところ有線に及ばない。


■IP接続サービス(フレッツ・アイ)
あまり高速を求めないユーザで、既にISDNに入っているユーザ
にとっては有力な選択肢となり得る。

 IP接続サービスとは、ISDNによってインターネット接続するための通信料金が定額となるサービスで、開始時(1999年11月)の月額8000円が2000年5月から4500円に値下げされたことにより、定額のインターネットアクセス手段として注目されている。
 速度はISDNの速度64kbpsであり、ブロードバンドの範疇には入らないとも言われるが、ヘビーユーザの一歩手前のユーザ層や常時接続を希望するユーザ層には魅力的である。より高速なアクセスサービスにとっての「顧客」を増加させると考えられる。
 IP接続サービスのメリット、デメリットは次のとおりである。

メリット1:ISDNの既ユーザにとって手間が少ない
現在の設備を変更することなくサービスを受けることができる。

メリット2:比較的低廉である
仮に無料ISPがIP接続サービスに対応することとなった場合、月額7330円(ISDN基本料2830円+IP接続サービス4500円)で常時接続環境が整う。電話料金を除いて考えると、常時接続環境を得るための新たな負担額は〔(2830円-電話基本料1750円=1080円)+4500円=5580〕であり割安感がある。

デメリット1 高速ではない
64kbpsの速度で、高速とは言えない。但し、マルチリンクプロトコル(MP)が提供されれば、128kbpsの速度に対応するようになる。
 このように、IP接続サービスは、既にISDNに入っているユーザで、あまり高速を求めないユーザにとって、有力な選択肢となる。但し、高速を求めるユーザの中には、他のアクセス網へ移行していくユーザもあると考えられる。


■ケーブルテレビインターネット
速度と料金のコストパフォーマンスが高く、放送・多チャンネルを
視聴できるという固有のメリットがある

流合雑音(上り回線で発生する雑音)の解消等によりケーブルテレビ網をインターネットのアクセス回線として利用できるようになった。ケーブルテレビ網は放送を流すため高速大容量の情報を伝送する能力があり、その一部を使うだけでも高速のインターネットアクセスが可能となる。  ケーブルテレビインターネットのメリット、デメリットは次のとおりである。

メリット1:速度と料金のコストパフォーマンスが高い(安い)
ケーブルテレビインターネットの中には常時接続型で月額5200円で最大で数Mbpsの速度を提供するサービス(東急ケーブルテレビジョンの「@CATV」)がある。場合にもよるが、ケーブルテレビインターネットは、速度と料金のコストパフォーマンスが高い水準にある。

メリット2:放送番組(多チャンネル放送を含む)を視聴できる
他のアクセス網では地上波放送及び他の多チャンネル放送を楽しむことはできない。

デメリット1:集合住宅ではサービスを受けられない場合がある
集合住宅においては流合雑音が生じやすく、インターネットの提供に支障が出る場合がある。但し、建物内の電話配線を利用(HomePNA等)したり、屋内部分だけ周波数を変換する方法(コロンブスエッグ等)によって解決することが可能。

デメリット2:提供エリアが人口密集地に集中している
ケーブルテレビインターネットが提供されているエリアは都道府県単位で見るとほぼ全国をカバーしつつあるが、実際に提供されているエリアは人口密集地に集中している。  このように、ケーブルテレビインターネットはインターネットアクセス回線としてだけ見てもコストパフォーマンスが高く、加えて放送が見られるというメリットがある。


■まとめ
(1)放送で強いケーブル、モバイルで強いIMT-2000、速度で強いFTTH
以上のように各アクセス網のメリット、デメリットを見てきた。これらを、強み/弱みとして整理すると図3のようになる。
 料金を比較すると、図4-1図4-2のようになる。ここに示した例が全部を代表しているわけではないが、コストパフォーマンスではケーブルテレビが優位に立っていると言える。  提供エリアで見ていくと、IP接続サービスは2001年3月にはISDNユーザの7から8割をカバーすると見込まれている。ADSLは2000年中には東京めたりっくが119局で提供予定しているように、当初の予想に比べるとエリアは急拡大しつつある。NTTドコモはIMT-2000を2001年5月には東京23区、横浜、川崎で開始する予定である。
 速度については、多くのサービスがベストエフォート型であり、正確に比較することは難しい。例えばケーブルテレビが数Mbpsの速度を出せる能力があったとしても、複数のユーザでシェアすること等により、実際にはもう少し速度は下がるのが実態だと思われる。但し、FTTHの場合には、10Mbpsのシェアの仕方によっては高速が実現できる。

 アクセス回線の中で誰が勝者になるか?については、それぞれの異なったニーズに応じる形で存続するということになると考える(図5参照)
 ケーブルテレビは映像・放送を視聴できるという点で固有の強みを持つ。映像・放送を視聴したいというニーズがなくならない限り、ケーブルテレビは必要とされる。
 IMT-2000は提供エリアで優位に立つ。また、モバイルで利用できるという固有の強みを持つ。モバイルに対するニーズがなくならない限りIMT-2000は必要とされる。
 FTTHは高速性実現で優位に立つ。高速なアクセスを求めるニーズがなくならない限り必要とされる。
 また、xDSL、IP接続サービスは暫定的な性格を持たざるを得ないが、低廉で、提供エリアの急拡大が期待されることから、ユーザにとっては魅力的なサービスであることには違いない。

(2)米国と日本は違う
 なお、北米ではケーブルモデムが先行しているが、xDSLが急追している。直近の北米のケーブルモデム加入者数は270万(2000年5月)、xDSL利用者は100万(2000年6月)と、その間が狭まってきた。ケーブルモデムとxDSLのどちらが将来優勢か、米国ではまちまちな予測が出されている。
 但し、米国の事例は、必ずしも日本には直接当てはまらない。米国ではISDNが一般的ではなく、通信回線でより高速なアクセスを求める場合には、ダイヤルアップから直接、ケーブルモデムやxDSLへ向かうからである。

(3)コンテンツも重要な役割を持つ
ISPの中には「無料」を売りにするところも出てきた。利用者はインターネットの高速アクセス環境は低廉又は無料で当たり前と感じる時代がいずれやってくるだろう。ユーザは「接続環境」にはお金をかけず、情報の中身(コンテンツ)にお金を費やすようになるだろう。裏返せば、サービス提供者側から見ると、アクセス回線そのものを提供するビジネスには魅力が少なくなり、いかにユーザを獲得できるコンテンツを揃え、いかにコンテンツで収益を得るかがテーマになっていくものと考えられる(図6参照)。コンテンツが重視される時代がやってくる。
情報流通ビジネス研究担当br>櫻 井 康 雄
e-mail:sakurai@icr.co.jp

(入稿:2000.7)

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