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志村一隆「ロックメディア」
2008年10月掲載
ロックメディア 第19回

"DEMO fall 08" 参加レポート2


志村一隆(略歴はこちら)

ネットとリアルの交差点

東野圭吾の小説、「容疑者xの献身」の舞台は、新大橋から清洲橋にかけての一帯だ。しかも、石神先生の通勤コースは、自分の散歩コースでもあって、小説にでてくるように空き缶を積んだ青テントの人を河岸で見かけたりする。多分、高校は中村高校で、ファミレスは今はサイゼリヤになっている。ちょっと前までCASAだったらしい。

新大橋通りと清洲橋通りの交差点にあるサイゼリヤは、結構興味深い客層で楽しい。日曜の夜にお茶しに行くと、かなりヤバい(いい意味で)人たちがリラックマしている。

この前の日曜に行くと、とある30代証券マンらしき男性(大阪弁)が、女性を口説いていた。6,000万で買ったマンションを人形町に残し、明日から大阪に転勤になってしまうのが、無念らしい。そして、話が尽きるたびに、「赤ワイン、ピッチャーで」とウェイトレスを呼ぶ。お金があるのを自慢しているのだが、なぜサイゼなのか?そして、男性が席を立つたびに、即ケータイをチェックする女性。なんで逃げないのか。

目を横に向けると、50代らしき男性(ウェット着用)が一人でコーヒーを飲んでいる。この人は、電話魔だ。「今日、負けちゃいました」という報告をやたらしている。何に負けたのか?オジサンにも電話魔がいるんですね。

清洲橋と新大橋は、隅田川が曲がっているので、位置的に直角に掛かっている。どちらの橋も、こちら側(人形町側)とあちら側ではだいぶ雰囲気が違う。2つの橋のそばにある交差点のサイゼリヤは、2つの文化が混じる交差点なような気がする。そして、混じる地点で、新たな音楽や文化が生み落とされる。

インターネットがさらに拡大していくためには、橋を越えて、ネットで繋がってない世界に飛び出さなければならない。そのために、インターネットは話し言葉や手書きの文字を認識する必要がある。

今までは、人間がパソコンに合わせる必要があった。グーグルは、キーボードで入力された情報だけを認識すればよかった。しかし、それだけでは取り残されてしまう人々、利用場面もでてくる。

今までインターネットは特別扱いをされてきた。「インターネット上は独自な文化があって・・・」とか、独特な気遣いを身につけないとその世界の住人になれないような雰囲気だ。デジタルが苦手な人も、「インターネットはちょっと苦手で・・・」といって、なるべく触れないでも生活に困ることはなかった。

でも、そんな人でも毎日、文字を書いたり、本を読んだり、電話をしたりはしているだろう。こうした人たちも商売の対象にするには、パソコンが人間に合わせる必要がある。

そこで、グーグル、ヤフーなどの大手インターネット企業は、自然言語(Natural Language)、話言葉の認識技術の研究を進めている。また、テキストを話言葉にする技術(Text-to-Speech)や、その逆(Speech-to-Text)技術をもったベンチャー企業が熱い。

ヨドバシカメラに行くと、ペンで入力するパソコンソフトが置いてある。使ってみると楽しい。iPhoneにも‘Scribble’という無料のお絵描きソフトがある。これもメモ代わりに使ってる。(Zintinが運営している)

Text-to-Speech技術

‘DEMO fall 08’にも、音声認識を使った面白いサービスを展開するベンチャー企業があったので紹介したい。

 まず、‘Hey Cosmo’(‘Arsenal Interactive’という会社が運営している)。テキスト入力したセリフを自動音声に変換して色々なサービスを展開していて面白い。登録したレストランに、自動音声で電話をかけ、予約をしてくれるコンシェルジェサービスを展開している。このサービスが面白いのは、自動音声を使っているのが、「店」ではなくて「個人」である点だ。

サービスはこんな感じだ。「こちらは、鈴木ですが、2名で10日の18時から予約したい。そちらの予約状況を教えてください。(1)席がある、(2)席がない」これを聞いて、店側が電話の数字ボタンを押していく。断られると、次のリストに載せておいたお店に電話をする。予約が完了すると、本人に教えてくれる。

Hot Pepperやグルナビのように、お店に営業すれば、自動音声に慣れてくれるところも増えそうだ。メールで予約すればいいんじゃないかという声もあるが、電話だとその場で結果がすぐわかるので、嬉しい。

また、`Prankster`というサービスは、おいしくなかった寿司屋さん宛てに、自動音声で電話してくれる。その際、自分が言いたい文句をテキストで入力すると、それを読み取って電話してくれる。文句言いたいけど、自分で言うのは気がひける、っていう人にぴったりだ。

この動画は、‘Blaster’サービスのデモだ。友達何人かと飲み会や旅行を行くときの出欠を電話でやってくれる。

‘Hey! Cosmo’は、音声をボイプ(VoIP)技術で送っている。ボイプは、Voice Over Internet Protocol、インターネット上で電話ができるサービスだ。代表的なサービスが、スカイプだ。「ボイプ」を知らなくても、「スカイプ」なら聞いたことがあるだろう。

Speech-to-Text技術

声を認識して、道順などを教えてくれるサービスを展開しているのが、‘Dial Directions’社だ。(ここにサービスのビデオがあります。後半に実際に使っている場面があるのでご覧ください)。ある番号に電話をして、今いる場所と行きたいお店を、通話口に向かって話すと、行き方を電話で教えてくれる。そのあと、SMSで道順が届く。ケータイは持っているけど、ネットはできない人向けに、有望なサービスだ。

DEMOで紹介していたのは、‘Say Where’という声で、今自分の近くのレストランを探すサービス。こちらは、声で今どこにいるかを教え、なにを食べたいかを教えていくと、オススメのレストランを表示してくれるサービスになっていた。

こういうサービスならば、サイゼにいたオジサンもターゲットユーザーに取り込めそうだ。

音楽の新たな地表

Mix Your Music !音声といえば、音楽だ。昔、‘Pandra’をよく聞いていたが、日本では聞けなくなってしまった。。最近は、‘Last.fm’のラジオに、‘Train’といれて聞いている。‘Train’の‘Meet Virginia’という曲は、留学先の寮に辿り着いた1日目、VH1というアメリカのMTVみたいなテレビ局で流れていた曲だ。夜9時なのに明るくて、しかもなにもすることがなかったことを思いだす。

DEMOにも音楽系のベンチャー企業が出展していた。そのなかで一番面白い!と思ったサービスが、音楽CGMの‘Mix Match Music’だ。

Photobucket 自分で描いた曲にアレンジをつけたい、けれどどうしたらよいか分からないという人って多いだろう。このサイトにいくと、曲のコード進行に合わせたベースライン、ドラマパートだけのファイル、がたくさんあり、自分のメロディに合わせたアレンジを無料で行える。サイトには、ベースラインだけを発表している人、既存の曲にアレンジを加え発表している人などが溢れている。

音楽は、いつも映像ビジネスの先行指標である。インターネットの影響で、音楽の無料化、好きな音楽のレコメンド、シェアなどのサービスが立ち上がってきた。そして、‘Mix Match Music’は、自分で曲を作れて、アレンジできることになった。

誰もがハミングすれば、自分でメロディが作れる。しかし、アレンジとなると、今まではコード進行とか知っているプロの仕事だった。その専門分野だけをネット上の集合知でやってしまおうというのが、このサービスだ。

ナップスター以外8年間くらいインターネット上では、消費者にとって音楽を消費するために便利な手段ばかりが強調されてきた。しかし、このサービスは、音楽を生みだす手段を提供している点で興味深い。プロとCGMの融合、Mix Match Musicのようなサービスは新たな音楽表現の交差点になるのではないだろうか。RunDMCが、‘Walk This Way’をラップで唄い、スティーブン・タイラーが白い紙を突き破ったときは衝撃だった。新しいロックを。

UGCの時代、自分の映像に音楽がつければ面白い。音楽にも、映像がつけば面白い。動画共有サイトにも、こういった編集がかなりのところまでできるサービスができれば、さらに面白い。

映画版「容疑者xの献身」は、しっかりと浜町公園、新大橋が出てきてた。本を読んでから映画を見るのと、その逆とどちらが皆さんはお好きですか。私は、映画を見ている間中、監督の意図が気になりすぎて、結局集中できなかったです・・・やっぱり映画見てから本読んだほうがいいですね。

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