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研究の眼
2010年12月13日掲載

基地局がミナレット? 都市景観に配慮したVodafone Qatarの取り組み

グローバル研究グループ 小川 敦
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 Vodafone Qatarは12月7日、新たな基地局を展開するという発表を行った。何の変哲もない内容に思えるが、実は普通の基地局ではない。カタールの都市景観に配慮して設計された基地局である。具体的には、ミナレットに模しており、見た目には基地局とは分からないようになっているという。ミナレットとは、イスラム教の礼拝堂であるモスクに付属し、礼拝時刻の告知に使われる尖塔のこと。ミナレットにカモフラージュしたこの基地局はカタールの主要都市各地に設置されており、人口密度の高い都市部におけるカバレッジを確保するだけでなく、礼拝の場や観光スポットなどの景観を損なうことなく都市全体の美観を保つのに大きく貢献している。Vodafone Qatarのこうした取り組みは、カタールの都市開発計画に沿ったもので、カタール政府や規制当局が全面的にバックアップしているという。また、首都ドーハの北部のペルシア湾に建設されたThe Pearl Qatar(マンション、ショッピングモール、高級ホテル、公園、学校などが立ち並ぶ人工島)にもカモフラージュ基地局の設置が計画されている。

 カタールはアラビア半島東部のカタール半島を領土とする中東の国で、国民の約95%がイスラム教を信仰している。このうちスンニ派が大多数を占める。スンニ派は酒や豚肉も厳禁であるなど、近隣のイスラム教国と比べても戒律が厳しい。こうした事情からも、ミナレットにカモフラージュした基地局はカタールに非常に適したソリューションだと言える。また、ドーハは「世界一退屈な都市」と言われていたが、前出のThe Pearl Qatarは「ドーハのベニス」「中東のリビエラ」とも称される美しさを誇る他、2022年FIFAワールドカップの開催も決定するなど、今後は観光客が急増する可能性もあるため、なおさらである。

 このカモフラージュ基地局は大手機器ベンダのAlcatel-Lucentが供給している。Vodafone QatarのCTOであるJenny Howe氏は「Vodafoneがカタールで事業を開始して以来、Alcatel-Lucentや当局と協力して同国の通信にイノベーションをもたらしてきた。カモフラージュ・ソリューションによって、デリケートなエリアにも対応することができ、より良いサービスをユーザに提供することができる」とコメントしている。「イノベーション」という言葉が出てくるが、単に高速通信や新サービスだけを意味するのではなく、それぞれの地域や文化に調和することを目指した取り組みの意義もその表現に込められているのだろう。

 カタールのモバイル市場には、通信事業者はQtelとVodafone Qatarの2社しか存在しない。しかも、2009年7月にVodafoneが参入するまで国営のQtelによる独占市場だった。2010年9月末時点でもQtelが75%以上のシェアを占めている。このようにカタール市場では国営通信事業者の力が強大であるため、Vodafone Qatarはカタールの地域や文化に調和するソリューションを含めたユーザ獲得策を講じていると考えられる。なお、Vodafone Qatarは今回のカモフラージュ基地局の発表と同時にLTEのデモを実施したことも明らかにしている。

 通信事業者だけでなく、あらゆる分野の企業が地域社会に対する貢献などCSRの取り組みを発表しているが、その中でもVodafone Qatarのカモフラージュ基地局は画期的と言えるのではないだろうか。電線などを地中に埋めて見えないようにしてしまおうという発想はあっても、基地局をミナレットに見せてしまうという逆転の発想は簡単なようでなかなか出てこないものである。考えてみると、観光で砂丘を見に行くにもThe Pearl Qatarを楽しむにも、無機質な鉄塔があちこちに見えてしまっては確かに興ざめである。

 最後に余談だが、The Pearl Qatarは35,000人の居住者容量があり、外国人もオーナーになれるという(もちろん、それ相応の資金が必要だが…)。これも含め、余計にカタールへの興味をかき立てられるVodafone Qatarの発表であった。

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