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InfoCom World Trend Report
2015年1月19日掲載

2014年11月号(No.308)

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情報通信総合研究所では、情報通信(ICT)産業が日本経済に与える影響を把握するために「InfoCom ICT経済報告」を四半期毎に公表しています。2014年4-6月期について、9月に「ICT経済、想像以上だった消費税増税後の反動減―アベノミクス下での回復力が問われる来期―」との標題で発表したところです(詳しくは当社ホームページをご覧ください)。次回の7-9月期の報告発表は、この11月号のお届け時となりますが今期の評価と今後の展望を改めてみておきたいと思います。加えて、四半期毎の動きだけでなく、より長期にICT経済の動向をマクロ的に把握するため、ICT関連の輸出入、即ち貿易収支とサービス収支の長期間の推移をみて、現在のICT産業がおかれている状況と課題を考えてみます。

まず、4-6月期の特徴は、ICT経済全体としては4四半期連続で増加を維持したものの、増加幅が大きく低下し前年同期比0.7%となり、ICT財・サービスともに増加幅の減少となりました。また、ICT消費でも増加幅の大幅な減少となり前年同期比1.8%に止まっています。特に顕著な変化となったのはICT設備投資の民需で、前年同期比マイナス5.8%と大幅な減少に転じており、コンピュータ、通信機、半導体製造装置ともすべて減少となりました。今回の4-6月期の報告の標題にあるとおり、ICT経済においても消費税増税の反動域は想像以上に大きく、問題は今後の回復力が問われる事態となっています。ICT経済は国内経済全体と比べて消費税増税による反動減の影響は小さいものの、ICT消費ではパソコンやテレビに大きな回復力はみられず、ICT輸出でも円安効果が薄まっていて、この2つだけでは力強さに欠け、ICT投資の成り行きが最も気になるところです。7-9月期のICT関連経済指標がどうなるのか、ICT経済の回復力に注目しています。

ところで、アベノミクスの下、2年近くにわたり円高是正が図られ、ICT関連の輸出は2013年1-3月期以降、前年同期比でプラス傾向が継続していて効果が現われています。その一方で、輸入も増加傾向が顕著で2010年後半以降一貫して輸入増加が輸出増加を上回る趨勢となっています。円高是正(円安)が継続するなか、ICT関連の輸出は前年同期比減少から増加に転じたものの、一方でICT関連の輸入がそれ以上に増加していますので、貿易収支の悪化が顕著に見受けられます。こうした変化はICT産業だけにみられるものでなく輸出入総額全体でもみられる現象ですが、この問題について長い眼でみた課題を探ってみたいと思います。

我が国の貿易収支全体では、2011年に赤字となり、2013年には11.5兆円と大幅な赤字を計上しています。過去20年でみても、1998年に最大14兆円の黒字を記録したのをはじめ、しばしば10兆円を越える黒字を計上してきました。また。リーマンショックの2008年でさえ、2兆円の黒字となっていた日本の貿易収支が、主に輸入の増加のために大幅な赤字計上となっていることに最近の大きな変化を感じます。さらに、直近2014年上半期の貿易収支も7.6兆円の赤字となっていて、半期ベースで過去最大の赤字規模となっています。この要因でしばしば論評されることは、原発停止による原油やLNG等鉱物性燃料輸入の増加で4兆円規模の赤字拡大がみられたということです。

しかし、逆からみれば2013年の貿易収支赤字11.5兆円のうち、4兆円しか影響していないということでもあります。原発停止の影響が約4兆円とすると黒字から赤字への変化の残りの要因としては、短期的には急激な円安による輸入価格の上昇の影響が約3兆円、加えて根本的なものとして輸出産業の海外現地生産化、即ち空洞化の影響を約7兆円と算定するレポートもみられるところです。輸出産業の空洞化となると課題となるのは電機産業なので、その貿易収支をみると1990年代及び2000年代前半には7兆円以上あった貿易収支黒字が2013年には1.7兆円にまで縮小していて、概ね6兆円が減少、さらに直近の2014年上半期では4,200億円と前年同期からは50%以上の減少となっています。これを生産の海外シフトのためとする見方と、そうではなく企業の競争力低下のためとする両方の見方があり、また電機産業の海外生産比率は2007年以降概ね2割程度で変化していないという指摘もあります。

この点では、ポイントはむしろ、需要構造の変化に日本の電機産業が追いついていないというのが私の見方ですので、やはり競争力の低下が大きいと思っています。例えば映像機器や音響機器の輸出は近年大幅に低下している一方で、携帯電話機の輸入は急増しています。スマートフォンの拡大が携帯音楽プレイヤーやデジタルカメラなどの既存製品に大きく影響を与えていて、こうした構造変化に起因する競争力の低下こそ課題ではないかということです。日本の電機産業から得意とする分野が消えかけているということです。こうなると円安という外部環境の変化だけでは輸出の回復はないということになります。
次に電機産業からさらにICT産業の輸出入、貿易収支とサービス収支の動向をみてみることにします。ICT産業の貿易収支は、2012年から赤字となっていて、2013年には約1.1兆円の赤字を計上しています。1990年代後半から2000年代前半までの10年間では、3〜5兆円程度の黒字を計上していたのに比べて大幅なマイナスで、輸出の減少と輸入の増加が同時並行して生じているのが特徴です。

(図表1)ICT関連貿易収支

(図表1)ICT関連貿易収支

(出典:情報通信総合研究所「InfoCom ICT経済報告」)

なかでも、通信機の輸入増が顕著で通信機の貿易赤字額は2013年で2.1兆円となり、通信機だけで電機産業全体の貿易赤字額を上回る規模に達していることに驚きます。

(図表2)ICT関連貿易収支(通信機)

(図表2)ICT関連貿易収支(通信機)

(出典:情報通信総合研究所「InfoCom ICT経済報告」)

さらに、より長期的なトレンドとしては、コンピューター類の貿易収支の赤字化があります。1990年代までは年間1〜2兆円の黒字でしたが、2000年代に入ってからは赤字傾向となり、2013年では8600億円の赤字となっていて20年間の長期に渉って着実に赤字化の進行がみられます。

(図表3)ICT関連サービス収支

(図表3)ICT関連サービス収支

(出典:情報通信総合研究所「InfoCom ICT経済報告」)

ここでICT関連サービスの受取・支払の収支を併せてみておきます。ICT関連サービス収支は、サービス収支全体と同様で赤字の状態ですが、全体の赤字が過去20年の間に約6兆円から約3兆円へと縮小しているのに対し、このうちICT関連のサービス収支には大きな変化がみられず、むしろ、コンピューター・情報サービス分野では2010年以降赤字幅が拡大しています(2013年は3,100億円の赤字)。

以上のとおり、ICT産業の貿易収支では通信機の赤字が大きくなり、電機産業全体の貿易収支赤字の要因を構成し、さらには日本の貿易収支全体の赤字化・赤字幅拡大をもたらしているとさえ言えます。加えて、ICT関係サービス分野でも、コンピューター・情報サービスの収支も傾向的に赤字幅の拡大が続いており、空洞化と競争力の低下、需要構造の変化への対応力に課題を抱えていることがわかります。最近の我が国の貿易収支の悪化=赤字化から日本経済の先行きを懸念する声が聞かれますが、国際収支における経常収支には、貿易収支・サービス収支に加えて、海外への直接投資や証券投資等から生ずる配当金・利子等の所得収支が加わるので当分の間、大きな問題が起こることはありません。日本は既に投資大国なのです。

しかし、ICT産業の貿易収支とサービス収支をみる限り、(1)コンピューター類の長期にわたる赤字構造、(2)通信機の最近の急激な赤字拡大、(3)サービス収支の赤字継続、という課題に直面しています。特に、ここ数年輸入が急増しているスマートフォン等の携帯電話機に関しては、円安状態が続いている限り、価格上昇につながるので注意を要します。もちろん、スマートフォン等の部品・部材の輸出においては円安の効果には大きなものがあると考えますが、しかし、輸入額の急増がICT産業の生産現場の海外移転の結果とは言えず、iPhoneを始めとする外国製品の大幅な輸入増加、即ち日本企業の製品の競争力低下によるものであり、そのスマートフォンが映像・音響等の電機機器に大きな影響を与えていることを考えると、ICT産業の競争力強化が日本の成長戦略には必須のことです。

ICT産業の競争力強化の取り組みにあたっては、ICT産業だけでなく全産業におけるICTの利活用による競争力の向上、即ち生産性の向上を図ることと、設備投資全体に占めるICT投資の割合を高めることが何よりも成長への近道になります。また、クラウド時代を迎えてICTサービスはより一層国境を越えてサービスが提供されるので、ICTサービスの受取り超過を目指す取り組みを併せて強化する必要があります。そのためには、ICT分野に残る各種の制約、例えば、個人情報の保護と活用やパーソナルデータの取り扱いの柔軟化、データセンターの設備基準の緩和、通信事業での非対称規制や事業提携上の制約の撤廃など、ICT産業のハード面だけでなく、ソフト面での競争力強化が併せて求められます。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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