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InfoCom World Trend Report
2014年10月24日掲載

2014年9月号(No.306)

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最近のモバイル通信市場のさまざまな出来事をまとめて見るとサービスの構造変化をもたらす動きが集約的に起こっていることが分かります。MVNOの活発化、定額制と従量制の入れ替わりとなる新料金プラン、SIMとデバイスとの関係変化(フリー化)、スモールセルの導入、さらには契約内容の短期化(オンデマンド化)などネットワークからデバイス、利用者と通信事業者との関係まで多岐に渉ってインパクトの大きい変化が目につきます。その都度、個々にはその変化や影響が語られていますが、全体を通してこれらの変化の掛け算がどうなるのかは、まだまだ混沌として先行きは見えて来ていないのが実状です。

例えば、制度としてのMVNOや音声定額の仕組みはモバイル通信事業者のシェアや事業構造に与える影響には大きなものがあります。MVNOは独自のブランドや販売網を活用するので、モバイル通信会社のショップ(代理店)体制への変更圧力となっています。加えて、端末とSIMと回線の一体販売(契約)を当然としてきた、こうした代理店体制はそれぞれの要素が独立して取り扱われていくのに応じて、手数料体系やフランチャイズの仕組みなど構造的な見直しを迫られています。

料金制度も、音声は従量制、データは定額制という近年慣れ親しんだ仕組み(その前はすべて従量課金だった)から、逆に、音声定額、データ従量制への180度の変化が起こっています。ファミリーで分けあえる/譲れるなどの囲い込み方策は事業者間の競争上、テレビコマーシャルなどで目立っていますが、本質的な構造変化はデータ通信の従量料金化にあります。長い間、モバイル通信サービスの普及に伴って音声利用による1人当たりの収入、即ち音声ARPUは低下傾向となっており、また最近では「LINE」のようなデータ通信を用いた音声サービスの浸透もあって、この低下傾向は強まっています。その反面、データ通信の利用は急増していますので1人当たりの料金収入はデータ通信が中心となっています。スマートフォンの普及によって基本定額料の上昇がありましたが、スマートフォンの伸びも落ち着き始めている昨今、こうした収入増への期待は難しくなりつつあります。そこにデータ通信の従量制料金化によるサービスの構造変化が拍車をかけることになります。デバイスの複数台持ち、回線の複数契約に加えて、必然的にいわゆるデータシェアプランなどが話題になってくると思います。データARPU増加がモバイル通信会社の主要課題となるにつれて、これまでのショップ(代理店)の姿勢がもっぱら端末販売に片寄っていたことがむしろ桎梏となっていくことでしょう。

SIMフリー化が進むと、ショップ(代理店)の役割は端末販売よりもSIM販売が中心に移行していくことになりそうです。端末とSIMの切り離しは、手数料体系や代理店販売網のあり方まで及ぶ構造変化をもたらします。データ通信の従量料金化とSIMフリー化の組み合わせはサービスの構造変化の起爆剤となり得るものです。さらに進んで、e-SIMの場合、SIMと回線(キャリア)が切り離されるので、利用者にどうやってe-SIMに自社回線(キャリア)を書き込んでもらうのかが営業活動の重点となっていきます。長年築き上げてきた代理店網のあり方や手数料体系など構造的な課題がそこにあります。

6月の発表時には日本国内ではあまり注目されませんでしたが、7月以降少しずつマスコミでとりあげられるようになってきたものに「ポータブルSIM」があります。“ドコモ、謎の新端末”(2014.7.17日経新聞)とか“なんでもネット接続の野望”(2014.7.20日経新聞)として記事紹介されましたが、開発段階の試作品で具体的な販売製品でないため注目度は決して高いとは言えない状況です。

しかし、SIMと端末(デバイス)を切り離しただけなく、SIMを挿入するというハード的な取り扱いをなくして、NFCを用いてスマートフォンやタブレットを介してネットワークとの認証を行い接続を可能としたことでSIMとデバイスとの一体性を克服しています。つまり、SIM側から見るとその時に使いたいデバイスがその都度ネットワークに接続されることになります。そうなると、デバイスによっては回線契約の内容も適切なものを選択する必要が生じますので、契約内容のオンデマンド化が進むことになります。改めて見直してみると端末とSIMと回線(契約)がサービス契約上一体となっていたサービス構造がそれぞれに切り離される時代を迎え、さらに料金競争の結果、音声サービスが定額化し、他方、データ通信サービスが従量料金に移行しつつあります。結果、モバイル通信会社では複数デバイス・複数回線利用によってデータARPUの増加を図ることが営業戦略の柱となってきます。その意味でポータブルSIMは料金プランの変革と契約のオンデマンド化の時代を象徴するデバイスであり、MVNOの活用を含めて新しい利用方法のアイディアを世界中の開発者と協力して開拓していくことが急がれます。いまのところ、日本発の新しいサービスなので日本国内だけでなく、海外、特に米国シリコンバレーで注目を集める工夫やイベントが早急に求められます。

一方、ネットワークサイドでは、スモールセル、なかでもアンライセンス(ライセンス不要)電波を用いたスモールセルLTEに注目しています。現在普及が進んでいるWi-Fiのあり方にも影響を与えることになりますが、Wi-Fiの最大の難点であるマネタイズの方法がなかなか見出せないという点に対してのひとつの回答がこのアンライセンス電波を用いたLTEスモールセルではないかと思っています。つまりWi-Fiに見られる無料化による活用ではなく、アンライセンス電波を用いていてもLTEスモールセルならモバイル通信事業者のネットワークへの取り込みが整合的に可能となり、制御・管理が容易になります。Wi-Fiであれ、このLTEスモールセルであれ、どちらもエリアオーナーによる設置となりますが、無料Wi-Fiによってそのエリアの利用価値を高めるのか、LTEスモールセルによってネットワークの一部としてマネタイズを図るのか、新しい市場構造が開拓されることになります。モバイル通信ネットワークにエリアオーナーという新しい市場参加者が登場することを予期しておく必要があります。

以上のとおり、MVNOや新しい料金プランのように既に注目を集めている変化がある一方で、ひとつひとつはそれぞれの分野での開発やイノベーションに過ぎず注目度の低い取り組みも数多くあります。また、e-SIMのように既に標準化されて初期製品が登場しているが、これから影響が現れるものもあります。結局のところ、こうした動きの全体から言えることは次のことです。即ち、端末、SIM、回線(契約)、ネットワークを一体不可分のものとして、モバイル通信会社同士が市場でインフラ競争を続けた結果、普及が進み、エリアカバーの拡充が行われてモバイル通信サービスの成熟化が達成されてきました。しかし、成熟化したネットワークの活用や利用者の使い勝手への要求がMVNOや料金プランの変革をもたらしただけでなく、また、SIMフリー化という仕組みの変化をもたらし、SIMと端末(デバイス)との関係やSIMとキャリアの回線との関係まで切り離すようになってきました。また、ネットワークにもエリアオーナーという新しい市場参加者/利害関係者が登場してますます複雑系の様相を呈しています。

モバイル通信市場の行方はますます不透明となっていますが、契約のオンデマンド化の動きを含めて、最終的に最も重要なものは契約者(ID)情報の管理であり、SIMに格納されるユーザー識別番号(IMSI:International Mobile Subscriber Identity)のコントロールなのではないかと思います。この分野では、ビッグデータの取扱いに慣れたOTTの存在の影がちらついて、モバイル通信市場の行方に多大な影響を与えることになりそうです、最終的に誰がモバイルサービスのユーザーIDを握るのかがポイントです。

通信ネットワークを基盤とした通信事業者は、生来、顧客(契約者)と電話番号と回線と端末を一体のものとして管理してきましたが、固定サービスではまず端末が自由化され、回線に競争が導入されてきました。モバイル通信サービスもほぼ同様の経過をたどって今日を迎えていますが、固定ネットワークと違って、電波の割当てというモバイルネットワーク固有の手順が必要であったが故に、比較的早くインフラ競争が達成され市場競争の活性化が図られてきました。しかし、先進国ではサービスの充足度が高まるにつれ、市場参加者の統合・合併が進んで今日では1国内3〜4社で市場を分け合っているのが一般的です。こうなると、本来持っていたネットワークから端末までの一体性を打ち破る変革がすすめられるようになるというのが歴史の流れです。こうしてモバイル通信市場に新しい参加者が登場してきます。ユーザーIDやSIMのIMSIの取り扱いを巡る競争が本格化するものと予想しています。ここでもビッグデータを収集し管理する市場競争となります。モバイル通信事業者はこうしたサービスの構造変化に適応しなければ本当の意味で土管屋になってしまうことでしょう。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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