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InfoComモバイル通信T&S
2014年7月1日掲載

2014年5月号(No.302)

※この記事は、会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

サービス関連:通信・オペレーション

Googleが実験を進めるProject Loonの現状とその目的について

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
主任研究員 三本松 憲生
三本松 憲生
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Googleは2013年6月、「Project Loon」という名称で、気球と無線ネットワークを活用したデータ通信の提供を目的とした実験を開始した。この実験の目的はインターネットを利用することが困難な僻地で安価なデータ通信の提供の実現を目的とし、無免許で利用が可能な電波を活用して行うものといわれていた。

しかし、2014年4月17日にPC World誌が、Project Loonのチームが米ネバダ州でLTEで利用される周波数帯域を活用した実験を行っていることを報じた。本件については、Googleがその目的について正式なコメントを出さなかったため、多くの海外メディアから注目を集める事となった。本稿では、Project Loonがどのような方向性を目指しているのかについて報告する。

Project Loonの概要

2013年6月、Googleは飛行機の航路や天候に影響を受けない地表から約20kmの成層圏に通信機器やGPSなどを搭載した気球を浮かべ、免許が不要の無線を利用することで、僻地にインターネットサービスを提供することを主たる目的とする「Project Loon」をニュージーランドの一部エリアで提供していることを公表した。この気球の実験は現在も継続的に続けられており、2014年4月4日には、Google+上にあるProject Loonのページでは現時点の実験の内容が写真と共に報告されている。そのページによれば、実験に用いられた気球は22日間をかけて地球を1週したという。また、これまでの走行距離が50万キロメートルに達したとしており、現在は2周目の航行中であるという(図1)。その他にもProject Loonのページにおいては、実験開始からこれまでの間に取り組まれた改善策(搭載されたソーラーパネルの調整や風のデータを活用した効率的な運用)について簡単に述べられている。

【図1】Project Loonの気球が地球を周回した図

【図1】Project Loonの気球が地球を周回した図

再び注目を集めるProject Loon

Project Loonに再度大きな注目が集まる事になったきっかけは、PC World誌が2014年4月17日にProject Loonの実験がネバダ州において、免許が不要の周波数帯域を利用するのみならず、LTEなどで利用される免許が必要な周波数帯域を利用して実験を行っていることを報じたことに始まる。これまでProject Loonは安価なアクセスの提供が主たる目的であったのに対し、ネバダ州の実験で利用されたものでは、高速なデータ通信サービス、Project Loonの最終的な目標が僻地や新興国への安価なネットワークの提供のみならず、Googleが免許が必要な周波数帯域を取得して通信事業者の代替サービス提供を開始するのではないかといった憶測を呼ぶこととなった。GoogleもPC World誌が公表した記事に対して特にコメントを発表せず沈黙を守ったため、多くのメディアから注目を集めることとなった。

Project Loonの狙い

GoogleのProject Loonの狙いが明らかになったのは、約1カ月後の2014年5月6日のことである。Google[X]でProject Loonを指揮するAstro Teller氏がTechCrunchがニューヨークで開催したイベントに登壇し、Project Loonの目的について明らかにした。このイベントで語られた内容を簡潔にまとめると以下のようになる。

  • 計画当初より、プロジェクトとしてはGoogleが世界各地で(免許が必要な)周波数帯域を取得して、サービスを提供したいと考えており、プロジェクトにとってはそれが最も重要であると考えていた。
  • しかし、GoogleのCEOであるLarry Page氏はGoogleが周波数帯域を取得することに反対した。
  • これを受けたプロジェクトチームのメンバーは強い不満を覚えたが、Googleが直接周波数帯域を取得するよりもより良い方法を考え始めた。
  • その結果、周波数に関しては、利用が想定される各国における通信事業者が有する周波数を活用し、Googleは通信事業者に対して気球を貸し出すということを思いついた。

これにより、Googleは免許が必要な周波数帯域を独自で取得する必要がなくなるとともに、各国の通信事業者との軋轢がなく、Project Loonが提供するサービスを提供することが可能となったとしている。TechCrunchの記事では、米ネバダ州での実験に申請した周波数帯域をそのままGoogleが利用するかどうかは不明であるが、通信事業者とパートナーシップを組んでProject Loonの提供が行われるとするならば、この実験の目的は明らかであると締めくくっている。

Project Loonはまだ実験段階にあり、実際にサービスが利用可能になるまでにはまだ時間を必要とするだろう。しかし、Googleは着実にサービス実現に向けた動きをみせ始めている。気球の技術そのものではないが、Googleはソーラーパネルを搭載し、成層圏で活動することができるドローンを開発しているTitan Aerospaceの買収を行っている。この買収によりGoogleは、Titan AerospaceのドローンをProject Loonの気球と併用して活用することや、同社のその他の技術を活用することが可能になることが考えられる。

ドローンを活用してデータ通信サービスの提供を目論むのはGoogleだけではない。FacebookもGoogleと同様に安価なインターネットサービスを提供するinternet.orgの活動に積極的に関与しているが、同社もドローンや衛星を活用したデータ通信サービス(インターネット)の提供を目指して買収を行うなどの動きを見せている。上記したようにinternet.orgはインターネットを安価に提供することを目的としているが、Project Loonと同様に高速通信サービスの提供も行えるようになる可能性を秘めている。

まとめ

本稿ではGoogleの動きを中心にProject Loonの最近の動向について触れてきた。上記のように、Project Loonはまだ実験段階にあること、また通信事業者が保有する周波数を活用することから、通信事業者に直ちに大きな影響を与えるということは考えにくい。また、特にこれからLTEなどの無線通信ネットワークのインフラ整備が進む新興国にとっては、(おそらくは)安価にエリアを拡充する手段が増えることは喜ばしいことであろう。また、気球が成層圏で運営されるという性質から、地上で大きな災害があり基地局が機能しなくなった際の代替基地局としての利用も期待することができる。

その一方で、当初の通り、免許不要の周波数帯域を利用してデータ通信サービスが提供されることもGoogleが取る選択肢としては十分考えられる。例えば広告を閲覧すれば無料でインターネットに接続が可能というサービスが提供されることも考えられる。サービス品質について現時点で判断することは困難であるが、このような無料のインターネットサービスに魅力を感じるユーザは新興国であろうと、先進国であろうと一定数存在するだろう。Project Loonは僻地や先進国向けに安価なネットワークサービスを提供する仕組みであるという認識のみならず、このような可能性を秘めているという点について考慮する必要があると考えられる。

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