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InfoComモバイル通信T&S
2014年7月1日掲載

2014年5月号(No.302)

※この記事は、会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

巻頭”論”

IoTは通信事業の収益構造を変える
―BtoC偏重からBtoBtoC重視へ―

(株)情報通信総合研究所
相談役 平田正之
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最近IoT (Internet of Things) の話題がマスコミや展示会などで数多く取り上げられています。2月末に開催されたMobile World Congress2014では主要なテーマとして多くの講演がありましたし、日本国内でも既に「普及期を迎えるM2M機器間通信」や「到来IoT時代」(ともに日経産業新聞の記事)という形で紹介されています。また、通信事業者各社においても自動車や電力向けにM2M事業の拡大を図っている姿が浮彫になっています。

それでは最近使われることが多いこのIoTと従来言われてきたM2Mとはどうちがうのでしょうか。定義は必ずしも明確なものはありませんが、M2Mは機器間の通信で通信モジュールを自動車やスマートメーターに付けるのが典型的な例で通信機能を付加するだけですが、IoTでは機器が自律的に情報を収集し送受信(交換)することを想定しています。即ち、単にデバイスがネットワークに接続されるだけでなく、情報交換することにより相互に自律的に制御する仕組みとなっていることに特徴があり、日経産業新聞記事の標題のようにM2MからIoTへの流れは普及期から新しい時代の到来を示していると感じます。前述のバルセロナのMWC2014でも多くのスピーカーが言葉としてIoTを使っていてM2Mは少数派となっていました。

IoTの特徴が自律性や情報交換にあるということは、デバイスをプロダクトとして提供してネットワークに接続するだけでは単なる製品提供者と通信の“土管屋”の組み合わせでしかないことになってしまいます。通信事業者としてはモジュールを提供するだけに終わってしまうことになりかねません。通信レイヤとして単純に接続するというプロダクト指向の見方ではなく、あらゆるものがインターネットに繋がり複数のレイヤにまたがるサービス指向の捉え方こそ、このIoTの本質だと考えます。繰り返しになりますが、今年のMWCでもJasper Wirelessが「IoTで、プロダクトビジネスがサービスビジネス化する」と講演で語っていたことが印象的でした(本誌2014年3月号「Mobile World Congress2014は、世界の通信業界の転機になる」(岸田重行上席研究員記事)。従って、これまでのネットワークに繋ぐだけのビジネスモデルではない新しい形の事業構造を通信事業者は求められていると認識すべきでしょう。IoTの市場規模は世界で2012年が4.8兆ドルで2017年には7.3兆ドル、2020年には8.9兆ドルとの予想 (IDC) がありますし、また日本でも急拡大が見込まれ4年後の2017年に約8700億円になると予想(野村総研)されていますので、この動きに対応するために通信事業者の取り組みも活発化していくことでしょう。

ポイントはこれまでのM2M的姿勢、即ちセンサーやデバイスをプロダクトとして接続してシステム構築を行い、回線契約を囲い込んで回線料収入を稼ぐ(いわゆるBtoC型のトラフィックビジネス)という収益構造を変えていく必要があるということではないかと思っています。従来型のM2Mではネットワークへの接続は自社回線の囲い込み策であり、いわば回線とデバイスやセンサーの一括大量販売であってサービスは付随的な扱いの傾向が見られます。曰く、M2Mの発するトラフィックは少量で回線から得られる収益は大きくない割に大量販売/一括契約のための競争が厳しく、回線卸売価格の値引き合戦に陥るとの指摘がよく言われます。私はこれは回線を含めてプロダクトからの収益だけでは当然の帰結であると思います。IoTの有する自律性や情報交換まで取り入れたサービスを展望しなければ、製品メーカーにも通信事業者にも先行きの明るさはないでしょう。自社製品や自社回線を越えたサービスとしてIoTに取り組む必要があります。ユーザーの目線からは、どこか特定のプロダクトや回線には拘束されたくないのです。使い易く自分にあったサービスを利用したいと思うのは当然のことです。現時点、先進国のICTサービスのレベルはその水準にまで成熟していて、これまでの囲い込み戦略をベースとした大型・大量のBtoCモデルは機能しにくい状況となっていることを受け入れることです。回線と端末の大量販売型の法人事業モデル、つまり大型のBtoCモデルの限界が存在しています。まず必要なことは、こうしたBtoC偏重構造を改めて具体的なサービスを創造・販売するサービスプロバイダーなどと連携して新しい付加価値創出に関与することです。つまりBtoBtoCモデルの重視がそれです。BtoCとBtoBという二つのモデルのバランスを保ちながら、よりBtoBtoCモデルに重点が移行する流れを構築していく努力が通信会社に求められています。

NTTグループが持株会社を中心に“お客様に選ばれ続ける「バリューパートナー」に変わる”ことを標榜していることは、こうしたBtoBtoC重視の流れに沿ったものと理解できます。ところがモバイル通信業界では引き続きBtoC型顧客囲い込み路線が各社とも主流でまだまだBtoBtoCモデルの認識や取り組みが十分とは言えません。BtoBモデルのように法人顧客に大量に回線・機器を販売することではなく、その先にいるBtoBtoCの利用者に提供するサービスを創り出すことであり、具体的なサービスプロバイダーとの協調によって収益を得ようとするモデルです。従って、BtoC型のように利用者から収入を直接得るサブスクリプション(定期購買)モデルではなく、具体的にサービスを提供するプロバイダーとの間の契約により収入を得ることになります。即ち、レベニューシェア型の収益構造なので、ここでは通信会社の収益構造が大きく変わることになります。もちろん特定のサービスプロバイダー向けの取り扱いや価格設定などを可能とするIoT市場創造のための政策的取り組みも必要です。その一方で残念ながら、最終利用者との契約によって定期的に安定した収入が得られるサブスクリプションモデルから離れる分だけ、通信インフラの構築・維持にはリスクが増して投資回収には困難が伴うことになります。しかし、通信事業に競争が導入されて30年近くが経ち、インフラ構築競争が進展して今日を迎えているなか、インフラ産業とは言え設備投資のあり方を含めて新しい収益構造に適応していかないと、IoTが有するサービスビジネス化の圧力に押し流されてしまうことになります。

音声通信中心のBtoCモデルからデータ通信中心、さらにすべてがインターネットに繋がるサービスの世界では、OTTが得意とする広告モデルに対抗して、新しいIoTが作り出すレベニューシェア型の取り組みへの挑戦が通信会社に求められています。多くのサービスプロバイダーから選ばれるようになるという通信事業者にとっての大きな構造改革が迫っていると感じています。通信事業者の得意分野である社会的なプラットフォームを生かしたIoTの取り組みに期待しています。

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