2014年2月18日掲載

2014年1月号(通巻298号)

ホーム > InfoComモバイル通信T&S >
InfoComモバイル通信T&S

※この記事は、会員サービス「InfoComモバイル通信ニューズレター」より一部を無料で公開しているものです。

サービス関連(その他)

「データシェアプラン導入後1年、その評価と意義」
〜スマートフォン普及後の料金戦略

[繝。繝シ繝ェ繝ウ繧ー繝ェ繧ケ繝育匳骭イ] [RSS] [TWITTER] [Facebook]

データシェアプランの導入と意図

米国キャリアのVerizon(2012年6月28日〜)とAT&T(2012年8月23日〜)が複数の端末でデータ利用上限を共有するデータシェアプランを提供開始し、その後世界の通信キャリア(ドイツO2・ブラジルVivo等)も後を追って導入してきた。日本キャリアではKDDIのみが導入を2013年9月に発表、2014年6月から提供を開始する予定。そこで、データシェアプラン導入一周年を機に、データシェアプランの成否をARPUと契約数の動向から検討する。

データシェアプランは、(1)トラフィックの爆発的増加を受けた定額制料金から従量課金制料金への移行や、(2)利用者のタブレット端末等の複数端末の利用、(3)キラースマートフォンであるiPhoneの各社販売の開始による差別化要因の消滅等を背景に導入されたが、その意図は、使い余しのない「データシェア料金を呼び水にした接続端末数の増加によりデータ利用量を増やし、データ利用上限のより高い上位料金プランを選択させることによりARPA(注1)を成長成長させること」である。両社は2013年1〜3月期からモバイルWi-Fiルータを格安または無料での提供を開始したが、これも顧客が既に所有しているWi-Fi専用タブレット端末も取り込んでデータ利用量を上げることを狙っている(注2)。

そして導入から1年を経過した2013年7〜9月期の決算説明会でVerizonは、「Share Everythingプランが成長を促進している」「既存プランの顧客をShare Everythingプランへ移行させることにより通信サービス収入の成長は続く」と述べており、経営陣は成功に手応えを感じていると見られる。またAT&Tも2013年7〜9月期の決算説明会で、「このプランによりスマートフォン普及率や解約率の改善、収入等において良い結果を得ている」と述べている。

データシェアプランの成功:「契約数の拡大による収入の拡大」

競合他社に先んじてデータシェアプランを導入したVerizonでは、データシェアプラン導入後の2012年7〜9月期、10〜12月期に総合ARPUは減少したが、2013年1〜3月期以降は導入前の増加トレンドに戻っている。同様に、累計契約数は導入後半年で上昇したが、2013年1〜3月期以降は導入前のトレンドに戻っている。データシェアプランの導入がVerizonに2カ月遅れたAT&Tでも、導入後半年間の総合ARPUは減少したが、その後は導入前のトレンドに戻っている。同様に、累計契約数も導入後半年で上昇したが、その後は導入前のトレンドに戻っている(図1)。

なお、Verizonの1アカウントあたりの接続端末数(契約数)のトレンドは、データシェアプラン導入後に上昇していることから、累計契約数のトレンドは導入前後で同様であっても、内容はタブレット等セカンド端末の増加に支えられていると見られる(図2)。

その結果、Verizon・AT&Tともデータシェアプラン導入前後で通信サービス収入(=契約数×ARPU)の伸びのトレンドにはほとんど変化がない。(図3)

【図1】累計契約数とARPUの推移

【図1】累計契約数とARPUの推移

【図2】Verizon 1アカウントあたりの接続端末数(左)
Verizon アカウント数とARPA(右)

【図2】Verizon 1アカウントあたりの接続端末数(左) Verizon アカウント数とARPA(右)

【図3】通信サービス収入と端末収入

【図3】通信サービス収入と端末収入

データシェアプラン加入率(左) 累計契約数・総合ARPUの対前年伸び率の推移(右)

データシェアプラン加入率(左) 累計契約数・総合ARPUの対前年伸び率の推移(右

以上からデータシェアプランの意図、すなわち、(1)1契約(アカウント)1端末という料金割高感からWi-Fi専用が主であったタブレット端末等を、セルラー接続に引き入れて契約数の伸びを図り、(2)ユーザーは利用体験から上位の料金プランへ移行するのでARPUの希薄化が解消され、(3)結局、契約数の拡大により収入の拡大が図られるという、データシェアプランは成功していると言えよう。

スマートフォン普及率50%越えがデータシェアプラン導入のタイミング?

「タブレット等により接続端末数の増加を目指す」データシェアプランは、「スマートフォンの普及拡大によりARPUを拡大する」従来の戦略とは対照的で、 「スマートフォン普及後の料金戦略」と位置付けられる。その場合、データシェアプラン導入時の米国のスマートフォン普及率はVerizonは53.0%、AT&Tは63.8%であったことから、「50%越え」がデータシェアプラン導入タイミングのメルクマールと考えられる。 現在日本のスマートフォン普及率はまだ40%前後である。しかしながら、現在のトレンドからすれ ば、2014年4〜6月期には日本の各事業者のスマートフォン普及率も50%に達すると予想される。KDDIのデータシェアプラン導入は6月とされるが、このメルクマールを踏まえているようで興味深い(注3)。また、日本では米国と違いフィーチャーフォンが普及していたことから、料金対機能差ゆえ、最近スマートフォンの伸び悩みを指摘する声も聞かれる(注4)。他2社の動向が注目されるところである(注5)(注6)(図4)。

【図4】スマートフォン普及率の推移

【図4】スマートフォン普及率の推移

(注1)ARPA(Average Revenue Per Account)
Verizonの累計契約数は、「アカウント数」×「1アカウントにおける平均接続端末数」=累計契約数となっている。

(注2)米国におけるタブレット端末のセルラー利用率について

     
  • 米国調査会社NPD(2013年5月21日)によると、2013年1〜3月期におけるタブレット端末のセルラー利用率は対前年48%増加したものの、絶対値ではまだ12%に過ぎない(セルラ通信によるタブレット端末のシェアは、AT&Tが49%、Verizonが42%である)。
  •  
  • データシェアプラン導入前の2011年10〜12月期時点では、タブレット端末利用者の90%はWi−Fiのみを利用していた。この理由としては、1端末1契約の二重負担やセルラー通信兼用端末との価格差等が挙げられていた(通信業界アナリストChetan Sharma氏、2012年3月)。
  •  
  • 「タブレットがポストペイド接続数増加をもたらす。タブレット端末を36.5万台販売」(AT&T 2013年1〜3月期決算説明資料)

(注3)「日本に限って言えば、タブレット普及率は12%程度であり、米国の30%という数字に比べてまだまだこれからと 言ったところ」「セルラーモデルの割合は全体の26%しかない」「なぜセルラーモデルが普及しないのか、その理由 は『タブレットの重さ』と『月額料金の高さ』の2点」「『重さ』についてはiPad Airで解決している。もう一つの『料金面』を解決するために、新たに『データシェアプラン』を用意する」(「KDDIのiPad Air発売記者会見」 2013年11月1日)

(注4)「足元のスマートフォンの販売に関しては『業界全体としてシュリンクしている』(KDDI田中社長)」(日刊工 業新聞Newsウェーブ21 2014年1月8日)MM総研によると、スマートフォンの出荷台数は2013年度上期(4〜9月)に前年同期比14.5%減の1,216万台にとどまった。その理由として、機能強化したスマートフォンに比べ、スマートフォンの「機能の進化や差別化が乏しくなったこと」、「通信料の高さ」ゆえ、フィーチャーフォンからの買い替えが進んでいないことを挙げている(「ス マートフォン市場規模の推移予測」2013年10月9日等)。

(注5)ソフトバンクはiPad Airの発売(2013年11月1日)に合わせて「タブレットセット割」を開始。4G/4G LTE スマートフォンユーザーが4G/4G LTE対応タブレットを契約すると、タブレットの月額基本料金が最大2年間 1,050円になる。

(注6)新商品の市場浸透理論「イノベータ―理論(エベレット・M・ロジャース)」によれば、市場普及率50%を超えると、プロダクトライフサイクルの成熟期に入り、価格競争等によるシェア争いが激化すると言われる。この観点から、普及率50%で一見値下げとも見えるデータシェアプランの導入は、この理論に迎合した動きと考えられる。

(注7)Sprintはデータシェアプランを導入していないが、その理由について2013年4〜6月期の決算発表の中で、他社のように利益よりも契約者数の拡大を目指さないのかという質問に対し、「顧客のために料金プランをシンプル化することで強いARPUを導いて利益を成長させる。他社が契約数を追って利益を諦めるのとは真逆だ」と述べている。

福田 千春

このエントリーをはてなブックマークに追加

InfoComモバイル通信 T&Sのサービス内容はこちらこのコーナーは、会員サービス「InfoComT&S ?World Trend Report」より一部を無料で公開しているものです。総勢約20名もの専門研究員が海外文献を20誌以上、常時ウォッチしております。

詳細記事(全文)はT&S会員の方のみへのサービスとなっておりますのでご了承下さい。
サービス内容、ご利用料金等は「InfoCom T&S」ご案内をご覧ください。

▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。