2014年1月23日掲載

2013年12月号(通巻297号)

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巻頭”論”

ウェアラブル・スマートデバイスの行方

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今年のCEATEC JAPANに、NTTドコモはメガネ型のウェアラブル・スマートデバイス「インテリジェントグラス」を参考出展し、体験コーナーには多くの人が集まり大盛況となっていました。スマートフォンの次の端末デバイスとして注目を集めているウェアラブル・スマートデバイスについては、一部には使い勝手や見た目、プライバシーや社会的儀礼などから普及を疑問視する声もありますが、新しいデバイスとしてスマートフォンとは違ったサービス市場を生み出す可能性を持っていると思います。

近年開発された実例から、ウェアラブルデバイスは、ブレスレット型、メガネ型(スマートグラス)、腕時計型(スマートウォッチ)に分類されます。このうちブレスレット型は体の動きや体温、血圧、心拍数などの健康情報を収集でき、既に多くの製品がヘルスケアサービスとして実用化されています。最近、特に注目されているのは、前述のNTTドコモの「インテリジェントグラス」を含めてメガネ型で、グーグル社の「グーグルグラス」やセカイカメラの井口尊仁氏の「テレパシー」に話題が集まっています。また、腕時計型では、ソニーモバイル、サムスン電子、アップルなどが参入しています。矢野経済研究所によると、ウェアラブルデバイスの世界市場予測では、メガネ型のスマートグラスが2016年に1,000万台(2012年実績15万台)、腕時計型のスマートウォッチが2016年に1億台(2012年実績95万台)と急拡大が見込まれています。もちろんこうしたウェアラブルなスマートデバイスを利用した様々なアプリケーションソフトやサービスまで含めると市場規模は相当に大きなものになることが想定できます。

最近の動向の特色は、技術進化によるITの処理能力の飛躍的向上に加えて、利用環境の変化に見られます。即ち、(1)スマートフォンの普及拡大とモバイルネットワークの高速化、(2)クラウドサービスの拡充、(3)NFCやセンサーなどの周辺装備の普及、がウェアラブル環境に大きな進展をもたらしています。これによって、小型軽量の機器によるインターネット常時接続が可能となり、クラウドサービスを活かして意識せずにコンピュータを使っている状況を作りだせるようになっています。ここにこそウェアラブル環境の特徴があると考えます。特に最近では、スマートデバイスの高機能化と小型軽量化、省電力化が進み、製品のデザイン面での柔軟性が増し自由度が高くなっています。ウェアラブルとは文字どおり常時身に付けることなので、日常生活面での制約となってはならず、大きさや重さ、形やフィット感、外見などが特に重要です。健康管理によく使われるブレスレット型は外見からはあまり気になりませんが、腕時計型では服装とのマッチングといったデザイン性がより大事な要素となりますし、特にメガネ型では顔という人の印象の中心に装着するものなので利用者本人のフィット感や他人からの外見など生活面からの工夫や研究が何よりも大切です。現時点ではメガネ型のスマートグラスの実用化にはまだ課題が多いこともまた事実です。従って市場規模の予測でも腕時計型のスマートウォッチの方が圧倒的に大きく早く成長すると見られています。

では、ウェアラブル・スマートデバイスを使った具体的なサービスは何なのでしょうか。今のところ、特に目新しいものはありません。スマートフォンを使って得られることを目前に投影するとか、より詳細の健康データをセンサーで把握して蓄積・解析するなどに止まっているのが実情です。

ただ、インターネットへの常時接続機能は健康管理や見守りといった安全管理に大きく寄与できるでしょう。モバイル回線を使ったインターネットの常時接続とクラウドサービスを用いたデータ解析によって一人暮らしの高齢者の見守りサービスはよりキメ細かくやさしいものとすることが可能です。電気ポットや冷蔵庫の利用によるモニターなどよりはるかに詳しい具体的な見守りサービスとなります。

問題は、それ以上に何に、どう使われるのかがよく分からないことにあります。逆説的に言えば、だからこそウェアラブル・スマートデバイスには大きな将来性があると感じています。例えば、携帯電話機という新しいデバイスが登場した時、人は電話(音声)サービスはすぐに理解し使い始めましたが、メールやデータ通信になじむまでは少し時間がかかったはずです。今でも固定回線を含めて、電話機としては使えるがメールやデータ通信としては使えないという高齢者は数多くいます。つまり、新しいデバイスの利用には使い勝手の改良だけでなく、サービス開発者の新奇性への挑戦と同時に利用者の好奇心を刺激する工夫が求められているのです。

その点、グーグルの「グーグルグラス」開発における取り組みに注目しています。グーグルはデバイス開発者と一般のアプリ開発者やユーザーとの対話、反応や意見の収集、アプリ開発へのフィードバックなどに積極的に取り組んでいます。特にアプリケーションの評価プロセスとして、デザイン、ユーザビリティー、プライバシー、セキュリティなどの項目を評価して結果をアプリ開発者にフィードバックしています。これまでもグーグルは、「グーグルグラス」の電池寿命の延長やカメラの精度の向上、スマートフォンとの接続性改善を行ってアップデートしてきており、さらに一般消費者テストも開始しています。一般の開発者や利用者・消費者を巻き込んだ製品開発の取り組みに改めてグーグルらしさを感じています。製品の開発者目線ではない姿が見られます。最近では、日本でもKDDIの新しい取り組みにその姿勢が表れています。KDDIは未来の携帯電話の開発につなげるため、利用者などから様々な提案を受け付ける「au未来研究所」を開設したと報道されています(日経産業新聞2013/11/12)。NTTドコモが世界に先駆けてiモードサービスを発展・普及できたのも、プラットフォーム上に多くのアプリケーションおよびサービス開発者を惹き付け、フリーな活動を大幅に許容したことが原動力となり、そこに多数の参加者が集まるビジネス上のエコシステムが構築できたことに尽きます。単純に技術開発だけで進められたものではありません。

彰往察来、ICT市場における新しい取り組み時のこれまでの経験に照らしてみると、ウェアラブル・スマートデバイスを用いた新サービス=アプリケーションは、当初観光やヘルスケア/ウェルネス分野から市場に浸透していくでしょうが、今後急拡大が予想される分野は善悪や良し悪しを別にすれば、ゲームとアダルト関連に移行していくのではないかと想定されます。アダルト関連は当然公序良俗からの制約が必要要素であり、青少年育成面での規制をあらかじめ考慮しておく必要があるので注意を要するところです。そこで私は先ずゲームこそ、ウェアラブル・スマートデバイスの本命のアプリケーションだと思っています。

携帯ゲームは、テレビゲームから出発して従来型のフィーチャーフォンで大化けしたところですが、現状ではスマートフォンで世界中の人(若者)に拡大しています。街なかで、電車のなか、駅や広場で本当に多くの人がスマホの画面を見つめています。スマートフォン上でのゲームに飽き足らず、ウェアラブル・スマートデバイスを用いた拡張現実や仮想現実まで取り込んだ複合現実のなかでゲームを味わう・楽しむことが始まるでしょう。いずれゲームのためのウェアラブル・デバイスとアプリケーションが登場し家中に、街中に溢れることでしょう。こうした新しい仮想世界に若者を引き込むことになりそうです。そこにこそ、グーグルがアプリケーションおよびサービス開発者や利用者・消費者を最初から引き入れ、囲い込もうとする意図が見て取れます。

日本のICT業界でも、部材や部品の技術開発に加えて、広く開発者や利用者を巻き込んだイノベーションを起こす取り組みが進むことを期待しています。もの作りに付加価値をつける成長戦略がそこにあります。なお、ウェアラブル・スマートデバイスによる仮想世界のゲームがもたらす現実世界へのインパクトは、現状のゲーム中毒や歩きスマホの迷惑どころではないことが容易に想像できますので、今から弊害克服の方策(仕組み・制度と技術)を同時に研究しておく必要がありそうです。

株式会社情報通信総合研究所
相談役 平田 正之

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