2013年12月25日掲載

2013年11月号(通巻296号)

ホーム > InfoComモバイル通信T&S >
InfoComモバイル通信T&S

※この記事は、会員サービス「InfoComモバイル通信ニューズレター」より一部を無料で公開しているものです。

巻頭”論”

ユニバーサルサービス再考〜電力システム改革に見る

[繝。繝シ繝ェ繝ウ繧ー繝ェ繧ケ繝育匳骭イ] [RSS] [TWITTER] [Facebook]

電気事業法改正案が10月15日、閣議決定されました。この法案は、先の通常国会で廃案となりましたが改めてアベノミクス(成長戦略)の柱との位置づけから、現臨時国会での早期成立を目指しているものです(改正法は11月13日に成立)。この改正法を含めて今回の電力システム改革の内容は、(1)広域系統運用機関の設立─2015年目途、(2)電気小売業への参入の全面自由化─2016年目途、(3)発送電の法的分離と電気小売料金の全面自由化─2018年〜2020年目途、の3つが大きな柱となっています。

私は、電気事業の自由化の是非について、ここで論議するつもりはありません。安定供給の確保、料金の抑制、ユーザーの選択肢や事業家の機会拡大といった複雑な諸要素を解いていく誠に困難な途を予想するに止めておきます。この場で指摘しておきたいのは、一般電気事業者、即ち全国にある電力会社の供給責任のあり方についてです。現行の電気事業法では各地域の電力会社に一般電気事業者として電気の供給責任を課す(供給義務)と同時に、地域独占を認め、かつ、電気料金の総括原価方式(注)に基づく認可基準を定めて電気供給のユニバーサルサービスを実現してきました。

今回の広域系統運用機関の設立、電気小売業への参入と小売料金の全面自由化が行われ、さらに送配電部門の法的分離が実施された場合、現行法の下で定められている供給義務に基づくユニバーサルサービスの取り扱いはどうなるのか、今回の改正案ではその附則で改革を進める上での措置を留意事項として明らかにしています。その中で安定供給確保等に係る措置として、

  1. 送配電事業者の地域独占と投資回収を可能とする制度的措置
  2. 小売事業者の自由化に当たり、小売事業者の供給力確保の推進や広域的運営推進機関による発電所建設の促進
  3. 送配電事業者の最終的供給保障、離島の料金格差をなくす措置

を講ずることになっています。これらの措置全体を踏まえると、供給義務やユニバーサルサービスの原則には大きな変化はみられません。参入自由化・促進と競争による供給力確保とのバランスをどう図っていくのか、独占事業から市場競争への変化(競争導入)に伴う根本的な課題がそこに存在しています。電気事業においては、送配電事業者に地域独占を認めているので、地域的な電気供給には投資コスト回収が確保されれば問題は生じないと思われますが、他方、発電事業は小売業への参入と料金の全面自由化となるので、供給力の確保ができなければ競争が進んでも安定供給面では市場の失敗ということになりかねません。

ユニバーサルサービスとして、独占事業から競争導入の先輩格になる通信事業においては、電気通信事業法で「国民生活に不可欠であるためあまねく日本全国における提供が確保されるべき」基礎的電気通信役務を提供する事業者は「その適切、公平かつ安定的な提供に努めなければならない」(電気通信事業法第7条)と規定されています。具体的には、現在、加入電話と加入電話に相当する光IP電話、110番等の緊急通報、第1種公衆電話が対象となっていて、固定回線の音声サービスを前提としています。また、このユニバーサルサービスを提供する事業者(適格事業者)にはNTT東・西が指定され、2012年度認可分としてユニバーサルサービス基金から両社に約74億円が補填されることになります。ユニバーサルサービス収支差(営業損失)が1,000億円以上であるのに比べて、その補填額が極めて少額であることに驚かされます。結局、現行の各種制度はユニバーサルサービスを維持する方策としては、もと独占事業体であった適格事業者に対し誠に厳格な仕組みとなっている点にその特徴があります。

本来、参入の自由化を図り、市場競争を導入する以上、ユニバーサルサービスはあくまで市場の失敗に備え、是正するための例外的措置と考えるべきものです。独占事業体であれば、内部補助によって地域格差や料金水準の均等化が図られていたものが、参入事業者がクリームスキミング的に収益性の高い部分にのみ参入するので外部的に補助する必要が生ずることになるからです。つまり本来は市場競争機能によってサービスが地域と料金水準において均等にあまねく確保されていればユニバーサルサービス提供義務を指定する必要はないはずのものです。市場の失敗を起こさない工夫や仕組みが第一にあるべきで、現行の通信事業のユニバーサルサービス制度にはこうした考え方が十分には見られません。例えば補填額の算定が適格事業者の非効率性排除の理由から、コスト計算が長期増分費用(LRIC)方式で行われており、かつ、ベンチマーク方式によって補填対象地域を高コスト地域として、上位約5%の回線地域に限定し、その上に、補填価格を長期増分方式による全国平均コストに2シグマ(2.2%強)の価を加えたコスト以上の原価と、3重の限定をつけて非常に狭くしぼり込んでいます。この算定方法だと最先端の技術を用いて最も効率的な経営を実施した上でもなお、上位5%の高コスト回線地域を対象に、平均コストから上回ってコスト分布の2.2%強に該当する分しか補填されないことになります。これでは市場の失敗が極めて限定的な範囲でしか生じていないのでユニバーサルサービスのための補填は少額で済んでいるとの認識になります。しかし、現実にはユニバーサルサービス分野には競争はあまり進展せず、市場の失敗が大きいことは明らかではないでしょうか。その一方で、市場競争は既にユニバーサルサービスのレベルを越えてもっと早く大きく進んでいるという制度上の矛盾を生み出しています。音声サービスをとっても加入電話は携帯電話の普及に伴って契約数は最大時の半分以下になり、毎年300万加入が減少しているのが実状です。このユニバーサルサービスを維持するためのコストをほとんど適格事業者に対してのみ負担させる現行方式は制度の経過年数からみても既に限界に達しているものと思われます。

だからと言って、現在のところ市場の失敗がみられない携帯電話サービスをユニバーサルサービスに加えることを求めている訳ではありません。ユニバーサルサービスの指定をしなくても、携帯電話のエリアカバーと料金均等化は十分に進んでいるのですから、そこに市場の失敗論を押しつけることは正当化できません。むしろ逆に、対象が限定されている現行のユニバーサルサービスの制度の判定をさらに具体化、詳細化して、携帯電話でカバーできる(している)地域はユニバーサルサービス提供義務をなくしてはどうでしょうか。例えば、技術中立性や競争中立性の観点から、適格事業者がユニバーサルサービス提供を停止する地域を明らかに(申請)して、その上で携帯事業者が該当エリアをカバーする旨示した場合、提供コストの負担のあり方や利用者の料金支払の補助などを制度化してはどうかと考えます。具体的な詳細事項や技術的な検討が必要ですが、減少するユニバーサルサービスを市場競争でカバーする新たな政策の形が望まれます。現在、グローバルなOTT事業者が中心となっているICTの市場競争下では、固定サービスと携帯サービスの融合が新サービスのイノベーションに必須の要素となっていますが、他方、地域格差回避を進めるために現行のユニバーサルサービス制度の矛盾を少しでも解決するためにも、固定サービスと携帯サービスとを有機的に組み合わせて取捨選択する方途を講じてみてはどうかと考えます。

もし、ユニバーサルサービスとして加入電話およびそれに相当する光IP電話を求めるのであれば、加入者の継続的な減少は固定的コストの比率を高めて当然、その補填額を大きくしていくものと想定されます。このことは競争を歪め、技術の偏向を助長することになりかねません。ここは市場競争の成果である携帯電話のエリアカバーとサービス水準とを上手に取り入れて、固定サービスと携帯サービスの有機的連携を進めることが望ましいところでしょう。そのために必要なコストが発生する場合、適格事業者のコスト構造に基づいて、厳格な制約を設けている現行のユニバーサルサービス基金方式ではなく、例えば固定サービス停止を代替する携帯サービスとして追加的な基地局建設やサービスの維持コストを現行の電波利用料から補充することを検討してはどうか。周波数オークションが導入されていないなか、電波利用料の公益的活用の方法を検討すべき時だと考えます。また、併せて、全国のローカル地域にエリアカバーが確保し易い周波数の免許設定も考えておくべきでしょう。

最後に再度申し上げておきますが、私は市場競争が順調に進展している携帯電話サービスを単純に市場の失敗の穴埋め的にユニバーサルサービスの対象に加えることは賛成できません。固定サービスと携帯サービスを融合的に有機的に活かす工夫や仕組みを求めているのです。今回閣議決定された電力システム改革のように、これから独占から競争へ移行する段階にあるものとは、競争進展の度合、市場の成熟度に相当の違いがあります。形式的な見た眼の「法的分離」の用語に囚われることなく、ICT市場においては、公共企業体の民営化、事業の分離と分割、市場競争の成熟化、グローバル競争の進展、イノベーションの活発化など四半世紀以上を経てきた歴史を踏まえて新しい地平を切り拓く努力が求められます。

(注)料金が能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものであること(電気事業法第19条2項1号)

株式会社情報通信総合研究所
相談役 平田 正之

このエントリーをはてなブックマークに追加

InfoComモバイル通信 T&Sのサービス内容はこちらこのコーナーは、会員サービス「InfoComT&S ?World Trend Report」より一部を無料で公開しているものです。総勢約20名もの専門研究員が海外文献を20誌以上、常時ウォッチしております。

詳細記事(全文)はT&S会員の方のみへのサービスとなっておりますのでご了承下さい。
サービス内容、ご利用料金等は「InfoCom T&S」ご案内をご覧ください。

▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。