2013年11月28日掲載

2013年10月号(通巻295号)

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コラム〜ICT雑感〜

LINEの発展で思うこと

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NTTドコモのスマートフォンレポート(2013年7月号)によると、利用回数上位のアプリでLINEがダントツの1位に選ばれています。またLINE PLAYとLINE バブルも上位に食い込んでいます。このLINEの急成長はどこから来ているのか、少し考えてみたいと思います。

話は少し回り道になりますが、iモードの話から始めます。

十数年前、渋谷のハチ公前交差点で信号待ちをしている若者達を観察していた現代思想家の東浩紀さん(当時は哲学専攻の大学院生)は、その頃流行り始めた携帯電話を持っている若者達が、その交差点に来て信号待ちのために立ち止まると、ほとんどの者が携帯電話にメールが来ていないかを先ずチェックすることに気付きました。そしてその観察結果をベースにして、人間には‘情報欲’があると確信したのでした。

東浩紀さんによればこの情報欲は、西洋で言われている食欲、睡眠欲、性欲等に加えられるべき重要な欲の概念で、たくさんの人間の行動を説明することができるというのです。

例えば会社の末端組織に属している会社員は、本社の社長に新製品の発売はどうなっているのかと聞きたくなります。また逆に現場成果が気になる社長は、情報のまとめ役の社員の机まで行って速報値を聞きたくなります。つまり人間というものは、早く正確な情報を欲する動物なのだということ、そしてその行動原理(=情報欲)を基にすれば多くの行動が説明できるし、また予測もできる、と主張されたのでした。

そしてさらに、当時100万加入程度だったiモードについて、人間の基本的な‘欲’を満たすサービスであり急成長するとはずだと考えておられました。その後の歴史は皆さんご存じのとおりです。

ところで現代のLINEの急成長は、無料の通信料や手作り感のある画面といった点が評価されているのも勿論ですが、それだけではなく、iモードと同様に人間の本能的メカニズムが作用して実現しており、今後もまだまだ成長を続けるのではないかと、私には思えるのです。

LINEは今年4月にNHN Japan社(現NHN PlayArt社)から分離されて独立した会社になっていますが、それまでLINEの開発を担っていたNHN Japan社のポリシーは、日常のちょっとした楽しさを豊かな発想と技術で創造する、というものです。この‘ちょっとした楽しさ’というフレーズに、私はiモードにおける‘情報欲’と同じ人間としての本能に訴えかける要素を感じるのです。決して物凄い楽しさを追求するわけではありませんが、そしてむしろちょっとした小さな楽しさに過ぎないのですけれども、その楽しさを求めて自分の時間を割り当てるという行動は、自分の本能からの指示によってスィッチが入っているのだと思うのです。そう考えると、LINEの急拡大も説明がつきますし、今後もそのサービスは国境を越えてどんどん広がっていくのは至極当然のことと思われます。

ところで今後もLINEのようなアプリケーション開発会社が日本にいくつも現れるでしょうか。

開発にはいろいろな手法があります。例えば現代はビッグデータの時代でもありますので、データ分析からいろいろなアイデアを得てサービスを開発し、それが大成功することもあると思います。特に大手通信会社では沢山のデータを用いて、色々な切り口で新しいニーズを掘りあてられる可能性はあると思います。

もう一方では前述のように、チョッとした楽しさが何なのかを感じ取れる鋭敏なセンスの持ち主を機能させて成功するパターンもあります。

昨今クールジャパンと言われてもてはやされている若者のファッションやJ-POPなどは、もともとは外国から入ってきた洋服や音楽を、日本のセンスをくぐらせることで現在の評価を得るようになったのだと思います。この場合の日本のセンスは、決して頭でっかちの人のセンスではなかったはずです。一人の人間として素直に楽しいとか、心地よいとか、何か言葉にできなくても身心の根っこで特別のものを感じられた人が主役になって推進してきたのだと思います。

最後にもう一つ上記の論点に関連して記したいと思います。

LINEは韓国資本が100%のNHN Japan社で開発されたのですが、開発責任者の日本人のほか、多国籍のチームメンバーで開発されたものだとのこと。

現在広く世界で受け入れられているOTTなどは、異文化の受容にも最大限の注意力とエネルギーを注いでいるはずです。LINEの事例は、この点でも参考になると思います。

株式会社情報通信総合研究所
代表取締役社長 浮田 豊明

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