2013年8月27日掲載

2013年7月号(通巻292号)

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InfoComモバイル通信T&S

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巻頭”論”

有料映像配信サービスの課題と挑戦

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ここ1〜2年、ブロードバンド回線(固定:光回線、ADSL、CATV、無線:LTE)や放送電波による有料映像(動画)配信サービスが盛んになっています。例えば、100万契約以上の主なものだけでも、調べてみると以下のとおりとなっています。

以上を合計してみると、これだけでも2,000万を超える契約数となっています。残念ながら複数契約の状況や正確なアクティブユーザー数はよく分かりませんが、どうみても過大な数値と思われます。しかし、通信と放送の伝送メディアやデバイスの多様化によってさまざまな有料映像配信サービスが増加し競合するようになっているのもまた事実です。ところで、それぞれの契約数を見てみると200万前後のものが多い上、300万以上の契約数はドコモのdビデオとスカパーとに限られます。dビデオはスマホをベースにした新しいサービスなので、契約数が急増中ですが、他のサービスは通信系/放送系とも必ずしも順調に増加している訳ではないようです。通常の一般的な購読(サブスクリプション)契約と同様、販売促進費を投入して顧客獲得を図ると契約数は一時増加するものの、その後、解約数も増えてしまい、契約数を継続して増加させることは難しい事情にあります。

事業収支面では、純増数を確保し続けることは将来の改善・成長のための必要条件なのですが、経験的には契約数300〜400万レベルで新規獲得と解約とが均衡してしまうことが多く、なかなか一本調子の純増とはなっていません。もちろん、何よりも映像コンテンツ間の競合が厳しく、アクティブユーザーの数など市場全体として急速な成長とは単純には言えないようです。何故このように契約数300〜400万の壁が存在するのか、事業面での要因は何かを考えてみたい。ここをもっと解明していかないと、いたずらに販促費をかけても、利用者の乗り換えという溝に落ちてしまって映像配信サービス全体の市場拡大には繋がりません。今後の市場の活性化の道を考えてみたいと思います。

映像配信サービスへの需要は、ますますニッチ化してサービスのセグメント化が進んでいます。利用者の要望は細分化しているので、それぞれの需要に応えるためにセグメント化した映像コンテンツを製作・配信する必要が高まっています。各社のサービスでは、人気ある、特色をもつコンテンツの中から、多チャンネルやVODによる選択型のモデルを追及していますが、これが新たな競合を作り出して製作費や配信費の増加をもたらし、多数のコンテンツを用意すればそれだけコストが嵩むことになります。その一方で、限定・特定のコンテンツを求める利用者がサービスを乗り換える現象を生み出すとともに、契約時の販促活動のメリットを享受すべく解約と契約が繰り返される事態を作り出しているのではないかとの懸念を持ちます。コンテンツの細分化と多様化・多数化には事業経営上、限界があるように思われてなりません。このことが顧客獲得コストの支出限度とも相俟って、契約数300〜400万の壁を現出しているのではないでしょうか。

これは十分にリサーチして得られた結論ではなく、現時点、私自身が抱いている単なる仮説に過ぎません。ただ、これまでの現象の例外として、ドコモのdビデオが400万を突破して急速に拡大していることに改めて注目しているところです。この例外的な動向の要因解明にも努めてみたいと思っています。要因として考えられるのは、モバイル回線という伝送メディアなのか、スマホ/タブレットというデバイスなのか、それともコンテンツの違いか、さらにはコストサイドで販促方法とその水準なのか、顧客管理面の取り組みのためか、などさまざまなことが想定されます。課題は多いですが、いわゆる従来型のテレビ放送を含めて、さらに研究が必要でしょう。利用者1人1人の、映像配信サービスに向けられる生活の中の可処分時間の分析をより一層、詳しく見ておく必要がありそうです。

複雑化・多様化する現代社会において、私達の生活の中で映像をみることができる時間には限りがあるのは当然のことです。これまで新聞やテレビ放送というメディアからインターネットや多チャンネル放送という新しいジャンルに視聴行動が移行して、映像配信サービス全体に向けられる可処分時間が増加してきたので、現在のように多数のサービスが競合する状況が生じました。もちろん、インターネットがもたらした無料の映像サービスが強力な支持を得ていますので、有料映像配信サービスの競争には厳しいものがあります。300〜400万契約の壁を越え、事業収支面でも安定化するためには、これまで取り組んできたコンテンツサイドの努力に加えて、契約の乗り換えを抑制(解約を防止)する何らかのフックをサービスに植え込む工夫が求められます。例えば、メールアドレスやIDなどを用いた他のサービスを取り入れることや競合するサービス間で提携して付加価値をつけることなどが考えられます。有料映像配信サービス利用者の顧客リストは高度に有力な資産と言えるものです。当然、個人情報の取り扱いには厳格なルールに従うことが絶対的な条件ですが、それにより映像配信の分野でも、通信と放送メディアの協調・提携が可能となりますし、さらには各種のリアルなサービスにまで繋げることができるでしょう。

解約を抑制するフックは契約方法・期間などの工夫やポイントの扱い、デバイス機能やアプリソフトの活用など多方面に存在します。加えて、顧客獲得や顧客管理費用の削減もまた、事業運営の選択肢を拡げる方途です。映像をテレビ受像機で見るのか、パソコンなのか、それともスマホ/タブレットを使うのか、このことは利用者層の違いであり、求めるコンテンツの違いでもあります。しかし、テレビ放送の視聴層が高齢化している現状では、テレビ受像機を用いる有料映像配信サービスだけでは、テレビ放送と同じ道を歩むことになり兼ねません。制度上の制約や知的財産や個人情報の扱いなどの課題を乗り越えて、通信と放送の協調・提携に、またテレビ受像機とPC、スマホ/タブレットとの融合サービスに急ぎ挑戦することが、契約数という事業サイドの壁を突き崩す力になると信じます。 

最後に、私は2013年6月24日をもちまして、当社社長を退任して相談役に就任いたしました。引き続き本欄、巻頭“論”を続けて参りますので、改めまして、よろしくお願い申し上げます。

株式会社情報通信総合研究所
相談役 平田 正之

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