2013年7月24日掲載

2013年6月号(通巻291号)

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InfoComモバイル通信T&S

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サービス関連(通信・オペレーション)

米国を中心としたエンタープライズ・モビリティの動向

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企業におけるモバイル活用に対する関心の高まりと共に、ソリューション・プロバイダー各社は「エンタープライズ・モビリティ」などと総称し、企業のモバイル化を支援する各種ソリューションを提供している。本稿では、米国を中心としたエンタープライズ・モビリティの概況と、米通信事業者のAT&Tやベライゾンのこの領域での取組状況に関して概説する。

エンタープライズ・モビリティとは?

米調査会社Gartnerが毎年世界のCIOに対して実施するアンケート項目である「CIOが優先するテクノロジーは?」の問いに対して、2011年以降毎年「モバイル・テクノロジー」はプライオリティ上位の項目として挙げられている。このようなニーズに対し、ソリューション・プロバイダー各社は「エンタープライズ・モビリティ」などと総称し、各種ソリューションを提供している。なお、エンタープライズ・モビリティに関する明確な定義はないが、各社のソリューションを参照すると、MDM(Mobile Device Management)、モバイル・セキュリティ、モバイル・アプリケーション開発、M2Mソリューション(※企業により含まれるか否かは異なる)、これらを総括する形でのコンサルティングなどが該当する(図1)。なお、近年BYOD(Bring Your Own Device)という言葉がバズワードとなっているが、エンタープライズ・モビリティに関しては、個人端末の企業利用(BYOD)、企業側が端末を用意しそれを利用するパターンの両方が含まれる。

(図1)エンタープライズ・モビリティの代表的な領域

(図1)エンタープライズ・モビリティの代表的な領域

(出典:各種Webページ等をもとに情報通信総合研究所が作成)

米国における市場のリーダーはIBMとアクセンチュア

米調査会社Forresterが2013年2月に発表した「The Forrester Wave: Enterprise Mobility Services,Q1:2013」によると、米国におけるエンタープライズ・モビリティ市場のリーダーは
IBMとアクセンチュアである。同調査は、IBM・アクセンチュア共に企業の「モバイル活用」に関する総合的なソリューションを展開しており、ソリューションの幅の広さが顧客に評価されていると分析している。ここでは、各社のサービスの概要を紹介したい。

IBMは2013年2月にモバイル・ソリューションのポートフォリオ「IBM MobileFirst」を発
表。IBM MobileFirstは新サービスの発表ではなく、既存のサービスのモバイル対応強化、BYOD対応などをパッケージして提供しており、具体的には図2のような4つの領域を示している。同社は既に数千に及ぶモバイル・ソリューションに対応できる人材、270のモバイル関連特許、直近4年間で10のモバイル関連の買収を行うなど、モバイル関連の強化を進めてきていた。

(図2)IBM MobileFirstで示される4つの領域

(図2)IBM MobileFirstで示される4つの領域

(出典:IBM Webページ等をもとに情報通信総合研究所が作成)

続いてアクセンチュアであるが、アクセンチュアは「Accenture Mobility」と称して、コンサルティングからアプリ開発、マネージド・サービスまでワンストップのサービスを提供している。同社は金融やIVI(In-Vehicle Infotainment)、ヘルスケア、公共などに強みを持っており、例えば米国国勢調査局のスタッフ向けの生体認証機能を有したカスタム型アプリや、シティバンクのユーザー向けにオンライン口座の状況を散布図、棒グラフ等を利用し、視覚的に表示できるアプリケーションを提供するなどしている。

SaaSやPaaSを提供するプレイヤーもモバイル強化を鮮明に

SAPやSalesforce.comといったSaaSやPaaSのサービスを提供している事業者もモバイルの領域の強化を行っている。SAPはERP等のエンタープライズ向けのソフトウェアを提供している事業者であるが、同社は自社が提供するアプリケーションに関しては、財務・人事・サプライチェーンなど100以上のアプリが既にモバイル対応している。また、アプリストア「SAP Store」上では、サード・パーティが提供するアプリを含め、200以上のエンタープライズ向けモバイルアプリを提供している。また、同社は2010年に買収したSybase社のサービスを活用し、アプリ開発環境「Sybase Unwired Platform」やMDMサービスのAfariaなどプラットフォーム系のサービスも提供している。

salesforce.comも2012年9月に同社が提供するクラウド型CRM「Sales Cloud」にモバイルを実装して以降、「Salesforce Service Cloud Mobile」の提供(2013年2月)、モバイルアプリ開発の強化を目的とした「Salesforce Platform Mobile Services」を発表(2013年4月)するなど、モバイル強化を鮮明にしている。このように各企業はこの1〜2年、企業システムのモバイル対応に積極的に動いており、一つのトレンドとなっている。

米通信事業者も新たな戦略軸としてエンタープライズ・モビリティを捉える

米国の通信事業者もエンタープライズ・モビリティには積極的だ。AT&Tにおけるエンタープライズ・モビリティ(同社はMobility Solutionsとも表現)は、同社の法人分野の戦略における「統合ソリューション」として位置づけられている。同社の法人事業は(1)コアの強みを最大限に生かす、(2)プラットフォームによる差別化、(3)統合ソリューションの提供という3つの戦略軸で語られており、その中でエンタープライズ・モビリティに対する期待は高い。AT&Tは法人分野の成長戦略を発表した場で、同市場が2015年までに200億ドルの規模になると紹介、またAT&Tの同分野は既に年間60%の成長率で5億ドルの収入増となっている模様。

(図3)AT&Tの法人分野の戦略

(図3)AT&Tの法人分野の戦略

(出典:AT&T Analyst Conference 2012資料)

AT&Tが提供する「Mobility Service」の主なソリューションは「Mobility Consulting(モバイル戦略のプランニング、導入プランの策定等)」、「M2M(M2Mデバイスのアクティベーションやビリング、ネットワーク接続等の統合ソリューションを提供)」、「Mobile Application(モバイルアプリケーションの開発、提供、管理等)」、「Mobile Device(法人顧客の要望に沿ったデバイスの選定)」、「Mobile Management(端末やアプリケーション、セキュリティなどの管理)」などがある。Mobile Applicationに関しては、OracleやSAPのCRM、ERP等のデータをバックエンドに持っており、これらデータとのやりとりが発生するアプリの開発も可能であるなど、法人向けアプリ提供に向けた環境を整えており、同社がこの分野に注力している様子が窺える。またAT&Tは「顧客のビジネス変革を推進していく戦略」を示している。

具体的な事例として鉄道会社のAmtrakの事例を紹介。その中でAT&Tは、End-to-Endのソリューションとして、Mobility Solutionsでは、eチケットのモバイルアプリ開発やデバイスの選定ならびに端末やアプリケーションの管理といったサービスを提供しているが、その他にもモバイルクレジットカード決済、クラウドソリューション、Wi−Fi、VPNネットワークなども併せて提供している。このように通信事業者が法人に対して提供できるサービスを広範に提供していくことが、「ソリューション・プロバイダー」としては大事になってくるのではないか。

(図4)AT&Tのソリューション事例(Amtrak)

(図4)AT&Tのソリューション事例(Amtrak)

(出典:AT&T Analyst Conference 2012資料)

ベライゾンもサービスラインナップとしては、AT&Tとほぼ同様である。ベライゾンの強みは各企業のコンプライアンスに沿ったデバイス管理、アクセスコントロール、プロビジョニングといったマネージド・サービスや、モバイルマルウェア、スパイウェア対策、アンチウイルス対策のソリューション「Verizon Mobile Security Shield」などを含めたセキュリティ関連ソリューションにある。ベライゾンは2007年にセキュリティ大手のCyberTrust社を買収しており、この時に得た人材や技術、顧客基盤等を現在も活用していると想定できる。このように米国の大手通信事業者もエンタープライズ・モビリティへの注力を進めている。

スマートフォン、タブレットの利用の増加で変化する通信事業者の法人戦略

これまで通信事業者の対法人戦略は、モバイルは携帯電話の契約やSIMカードの販売が中心であった。一方、企業向けのシステムやネットワークなどを固定系の事業者が提供していた。企業におけるスマートフォンやタブレットの利用が増加することにより、今後この環境は統合化されるであろう。その中で端末・アプリケーションの管理やモバイル・セキュリティ、業務システムのアプリ化・マルチデバイス化、マネージド・サービスなど様々な収益機会が通信事業の周辺に生まれることになる。また、業務システムのアプリ化、マルチデバイス対応の支援は、企業のクラウド化を促進するドライバーにもなり得る。このように通信事業者としては、企業のモバイル化を積極的に支援することは、様々なソリューションを提供する上での大きな機会と捉えてもよいのではないか。

山本 惇一

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