2012年7月24日掲載

2012年6月号(通巻279号)

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コラム〜ICT雑感〜

被災地からの年賀状

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季節の挨拶状の時期到来、いまやメール、SNSで済ませるのが今流なのであろう。しかしながら、プライベートの間柄では、まだまだ紙の挨拶状、特に年賀状は捨てがたい。とりわけ今年の年賀状からは特別な思いが伝わってきた。

被災地からの年賀状には、手書きで添えられた「元気でいます《、「インフラがなかなか回復しない間は隣県の親戚にしばらく身を寄せていました《、「雨にも負けず、風にも負けず、地震にも負けず《などの文面からは、つらい段階をクリアしたようにも読み取れる。経済面でも復興ビジネスで随分と回復しているような報道もある。たしかに繁華街の様子などは景気回復の兆しがあるようにも報じられている。ところが、賀状欠礼の挨拶をみると、まだまだ復興どころか復旧段階のままのように受け取れる。「周囲に被災した人々の姿に接していると、とても年賀の気分になれない《、「取引先が大きな被害を受け、仕事はまだ順調には回復していない《、「商売道具が搊傷して仕事に差し支えがある《、「搊傷した家屋の取り壊し費用の補助金は出るものの新たに建てかえる費用のめどがたたないまま《、等々。これらはいずれも本人、家族、親戚は皆無事であることがわかっている旧知の知人からの挨拶状である。さらには最近、「新緑の候、、、昨年は○○50周年の記念事業を予定していましたが、今年も延期しましょう《、とオフィシャルな場でもまだ元には戻っていない。医者や弁護士からも、患者の様子や相談内容からも、やはりまだまだ元の状態には戻っていない、という。筆者の数少ない交友関係からだけでもこのような話が伝わっている。

ワープロ、PCで作成するのが当たり前、あるいはメールで一斉送信で済ませる今日、手書きの年賀状は貴重。印刷でもPCで作成しても、一言添えられた自分同様の下手な手書きの数文字に惹かれるのは何故だろう。やはり、個人そのものを感じさせるアナログメディアのなせる技なのかもしれない。

ところで、文房具の世界でも最近おもしろい現象がある。有吊文房具店の話によると、若い世代でも自分用にと3千円前後の万年筆やボールペンを購入していく人が多くなっているそうだ。数千円の文具といえば贈答用が一般的なのだが、何でもスマホで済ませられる若い世代でもたまには自分らしさを表現できるアイテムの一つとして購入していると解釈しているようだ。下手な文字でも個性を表現する道具は必須アイテムになるのではないか。文房具業界でも期待しているらしい。

相変わらず下手な手書き文字を交えて、「弘法筆を選ばずどころか、下手なやつほど道具に頼っても相変わらず上達しないなー《と、気兼ねなく交わせる季節の挨拶状はいつになるのだろう。がれきが無くなる日よりも早くなるのだろうか。

社会公共システム研究グループ 常務取締役 髙橋 徹

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