2012年2月23日掲載

2012年1月号(通巻274号)

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InfoComモバイル通信T&S

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巻頭”論”

逼迫するモバイル通信ネットワークの対応
〜資源と設備の合理的な利用

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 新年、おめでとうございます。本年も、どうぞ、InfoCom モバイル通信ニューズレターを引き続き、ご活用下さいますようお願いいたします。

 さて、ここ1〜2年、モバイル通信ネットワークにおいて、スマートフォンやタブレット端末の普及が著しく進み、それに応じて、データ通信、特に、映像系トラフィックの急増が目立っています。端末あたりでみて、従来タイプの数十倍のトラフィックが発生していると言われています。

 また、少数の高利用者が設備を占有的に使用してしまう、例えば、1%の人達が30%使ってしまうような現象が目立つようになっています。この結果、最近ではエリアカバーが行き届かずにつながらない現象は減っている一方で、混雑(輻輳)してつながりにくい事態が増加していると感じます。さらに、スマートフォンに特有の、インターネットと同様の常時接続型のネットワーク利用がトラフィックの一時的な急増をもたらす新たなケースも発生しています。

 これに対し、モバイル通信事業者はネットワーク設備の増強を図り、基地局の小ゾーン化を進めてトラフィックの疎通能力の向上と希少資源である電波利用効率を高める努力をしています。世界各国で最近顕著に見られるLTE導入の流れも、モバイル通信事業者によるトラフィック急増対策と言えます。

 さらに、直近では、トラフィックの一部(多く?)をWi-Fiに流すべく、無線LAN設備の増強がモバイル通信各社で展開されています。日常、私達の周辺でも、ホテルや駅、ファーストフード店、コンビニエンスストアなど街中でWi-Fiが利用できるようになっていて、利便性が高くなっています。その一方で、モバイル通信各社は、無線周波数不足から、新たな周波数の割当を当局に申請して、急ぎ決定がなされるよう求めています。この件に関しては、従来からの比較審査方式で行うのか、新たにオークション方式で行うべきか、政府部内で議論が行われてきたことは記憶に新しいところです。結局、総務省は、周波数不足の現実を踏まえて、当面の900MHz帯と700MHz帯は、既存利用者の移行費用の負担を含めた新しい形の方式で割当を行う手続きを進めています。

 こうしたモバイル通信トラフィックの急増に対して事業者が対応するのにあたっては、(1)毎年倍増するモバイルデータトラフィックにスピード感をもって対応できるのか、(2)ユーザー側のエクスペリエンスを損なわない対応ができるのか、の2点が課題となるので、以下、詳しく述べてみます。

 まず、LTEの導入、小ゾーン化(スモールセルの活用)、新たな周波数の確保という設備面での対応は、ユーザーエクスペリエンス上は大きな支障はありませんが、既存設備の拡充・入替(移行)を伴うことから、時間を要するのでスピード的には困難が伴います。他方、Wi-Fiによるオフロードでは、アクセスポイントの設置が比較的容易でネットワークの拡充はスピード的には早くできますが、ユーザーエクスペリエンス面では、端末電池の消耗が早いことや、基地局間の干渉と帯域幅の限界から制約がつきまといます。

 現実に、トラフィックの輻輳に悩んでいる多くのモバイル通信事業者は、データ通信量が一定量に達した場合にデータ通信速度を規制する、また、定額料金を階段状の従量制料金に変更する、といったサービス規約の切り替えを行っています。少数の利用者が多くの通信設備を占有的に使用している事実を踏まえると、経済合理性からみて当然の流れと言えます。

 これについて、次の2点を指摘しておきたいと思います。第一は、この種の、速度規制や従量料金制の導入は、ユーザー側の選択からWi-Fiオフロードを加速させ、さらには、オフロードという従たる利用を越えて主従逆転し、Wi-Fiをメイン―モバイル通信をサブ(バックアップ)とする携帯サービスを増加させることが想定されます。既に、米国では安価なWi-Fi網を主回線とする格安携帯サービスが登場しています。特に、最近、普及が進んでいるタブレット端末では、既にWi-Fi経由の利用が圧倒的に多くなっている事実があります。話は変わりますが、NTT東日本が始めた「光iフレーム」のコンセプトはこの種の流れに沿った優れたものと言えます。

 二番目は、モバイルデータトラフィックの急増の下でもなお、料金定額制にこだわりを持つインターネット推進派が、ネットワーク中立性の主張の下に存在していることに注目しておく必要があります。インターネットのもつ政治的・社会的意義に着目した政治主張(イデオロギー)的色彩の強い立場ですが、他方、このことがユーザーエクスペリエンスの視点を有していることも併せて考慮しておく必要があります。即ち、速度制限や従量料金制が希少資源である周波数の制約やトラフィック集中によるピーク対応の限界に基づくものなら、経済合理性からみて納得を得られるでしょうが、他方、事業者による単純な設備不足に起因するものであるなら、ユーザーの理解は得られないでしょう。

 問題は、ユーザーエクスペリエンスを損わずに、スピード感をもった対応を図ることに尽きます。この点、電話サービスには100年以上の歴史があるだけに、電話(通話)料金の変遷と経験がこれからの参考になると考えます。

 我が国では電話サービスが始まったのは、1890年(明治23年)で、当時は、市内料金は1年間の定額でかけ放題、市外料金は区間ごとの里程等級別料金でしたが、1910年(明治43年)には、市外料金に輻輳緩和のため、夜間逓減料金制が早くも取り入れられています。

 その後、市内料金にも利用度数に応ずる度数料金制が1920年(大正9年)に実施されました。度数料金制の導入に際しては、当時の大口利用者であった新聞社や通信社が「度料制度は通信機関の発達を阻害する」と反対する一方、無用通話によって生じる話し中の減少・苦情対策と電話線拡張のための財源確保の狙いがあり実施されました。この市内度数制は、その後長く維持されて戦後まで続いてきましたが、市内と市外の料金格差が著しいものとなり、1972年(昭和47年)に現在の広域時分制となって1回いくらの度数制から、何秒いくらの時分制に切り換えられ、現在まで続けられています。

 少し長くなりましたが、電話(通話)料金の変遷と経験においても、定額制による不合理の解消や夜間逓減料金という輻輳緩和対策が比較的早い段階から取り組まれてきたことが理解できます。

 モバイルデータ通信料金の歴史は浅く、こうした料金制度上の経験は始まったばかりですが、ユーザーエクスペリエンスが電話サービスの初期からさまざまに議論されてきたことを見てもわかるように、データトラフィックに速度規制や従量料金制を取り入れるのに際しての参考となります。例えばアクセス網のピーク時緩和を図るため、時間帯や場所(地域)、サービス方式などによって料金に差を設けたり、また、Wi-Fiとの自動ログインの推進など、ユーザーエクスペリエンスに配慮した料金面の方策の検討を望みたい。単純な、トラフィックの総量規制では、新しいイノベーションの障害となる懸念があるので、ユーザーの使い方に適合した、デマンドコントロール型料金の導入を検討すべき時期となっていると考えます。

株式会社情報通信総合研究所
代表取締役社長 平田 正之

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