2011年2月3日掲載

2011年12月号(通巻273号)

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InfoComモバイル通信T&S

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巻頭”論”

モバイルクラウドの時代〜新しい端末/デバイスとITインフラ
(クラウドコンピューティング)の協調

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 今年度上半期の通信各社の中間決算が発表されましたが、その特徴は何と言っても、スマートフォンおよびタブレット端末の販売と普及に尽きると思います。特に、iPhone 4Sの2社からの発売とアンドロイド端末の大量投入があり、その結果、通信各社間のユーザー獲得競争が激化しています。ユーザーにとっては、競争の結果、スマートフォン等の価格が低下して喜ばしい事態となっていますが、一方で、販売代理店、さらには販売元となる通信各社にとっては、販売手数料や販売目標、販売手法など大変に厳しい環境となっているようです。ただし、スマートフォンやタブレット端末では、月額の契約額が上昇することから、データARPUの上昇傾向が加速されるとともに、音声を含めた総合ARPUが底打ちして上昇に転じつつあることが注目されています。つまり、スマートフォンやタブレット端末のユーザーはこれまでより、多くのお金を支払ってくれる顧客となっているのです。

 この点では業界全体としては喜ばしいことですが、反面、通信トラフィックが急増していて、“直近1年で約2倍、2015年度までに約12倍(NTTドコモ:中期ビジョン2015)”との予測も発表されています。通信各社では、ネットワーク容量の拡大、トラフィック・コントロール、データオフロードなどのモバイルアクセス容量対策が打ち出され、また、速度制限付きや階段型の新しい料金プランの導入などが発表されています。こうしたスマートフォンやタブレット端末の普及とLTEやWiMAX等のネットワーク容量拡大策の同調的な推進は、単にユーザー利便の向上、通信各社の収入増加といった変化に止まらず、最近のクラウドコンピューティングと結びついて、新たなITインフラとしてモバイルクラウドを生み出しています。

 最初は、クラウドコンピューティングが、処理能力とストレージを端末/デバイス側からセンター側に移転させてきましたが、それに止らず、今度は、デバイス側では、IPv6で各種のセンサーやカメラなどさまざまなものがネットワークでクラウドコンピューティングに繋がるM2M時代が出現している現状となっています。この先、デバイス、クラウドコンピューティング、ネットワークがそれぞれの機能を発揮して役割を分担していくことになるでしょう。すなわち、デバイスでは、さらに快適なユーザーインターフェースが開発されていくでしょうし、また、M2Mなど多頻度の小規模な処理もデバイス側に付加されると考えられます。もちろん、クラウド側では大規模な分散処理が巨大なデータセンターにおいて行われることになりますが、加えて、ネットワークの一層の高度化も図られ、クラウドセンターまで行かずにネットワークの中で処理して付加価値を提供するビジネスも進んでいくものと思います。端末/デバイスとネットワークが機能を分担して処理することで多彩なサービスが生み出されるようになります。11月に発表されたNTTドコモの中期ビジョンでは、これを「ネットワーククラウド」と呼んで同時通訳電話、コミュニケーションエージェントなどのサービス例をあげていますが、こうしたネットワークビジネスもITインフラとして定着していくと予想しています。

 こうなると、やはり課題となるのは、モバイルアクセスがボトルネックとなる懸念です。スマートフォン等ワイヤレスのアクセスデバイスが急増し、また、マルチデバイス化してクラウドデータセンターへのトラフィックが激増するとともに、ネットワークの中で折返す処理が拡大すると、結局、モバイルアクセスの拡充、高速化、多様化がどうしても必要となります。さらに、ITインフラとしてデータストレージはインフラ側のどこかにあればよくなり、アプリケーションも多頻度のマイクロ処理は別として、デバイス側にではなくHTML5の活用等からWeb側で処理されることが拡大していくと予想されるので、モバイルアクセスへの負荷がますます大きなものとなっていくと覚悟しておかないといけません。LTEの早期導入やWi-Fiオフロードなどが現に進められていますが、加えて、少数のユーザーがネットワークを占有的に使用する(高利用者1%がネットワーク容量の30%を使用しているとの報道等)ことへの対策として、通信速度の制御・制限や階段的料金プランの導入が現実のものとなっています。こうしたモバイルアクセスネットワークのトラフィック逼迫は、我が国だけでなく世界共通のすう勢となっていて通信各社を悩ます最大の問題となっています。無線周波数のより一層の開放、フェムトセルなど小規模エリア展開の効率化などの諸施策が実行されていますが、ここではさらに、モバイルオペレーターのネットワークの効率的なコントロールを混乱させる事態を未然に防止し得る方策をあらかじめ講じておく必要性を取り上げてみたいと思います。

 それは、モバイルネットワークの競争化が進められ、オープン化が進展している先進各国のオペレーターに生じていることですが、MVNOとMNOとの関係において、ネットワークの通信速度の制御・制限が効率的・合理的に行えるよう、あらかじめ備えておく必要があるということです。一般的に、ネットワークに余裕があり、需要や技術的変化が安定している段階においては、ネットワーク機能の一部を提供(日本では、ビジネスベースの卸と義務となる相互接続が選択可能となっている)して、競争参入を促し経済厚生を増大させることが政府の競争政策として実行されてきた経過があります。しかし、モバイルサービスの普及が進み成熟期を迎えている今日、事態はトラフィック急増によるネットワーク容量が逼迫するという新しい局面となっています。ネットワーク技術による新世代の設備対応だけでは、もはや追い付けない状況となっているのに、MVMOの相互接続ルールでは接続が義務化されたままで、通信速度の制御や制限を行うためのルール化や規制改革が十分に検討されていないことが危惧されます。

 ITインフラの拡充・整備こそ、これからの日本経済の成長戦略の柱となるべきものと考えていますが、モバイルアクセスネットワークのボトルネック課題解決のため、限られた資源の効率的かつ合理的な活用・配分を図るためには、相互接続義務の規制改革や接続時の条件の設定、あるいは、ビジネスベースでの卸方式の一層の弾力的活用などに取り組む必要があると考えます。我が国のモバイルネットワークが一部の利用者や事業者のトラフィックに圧迫されて十分な機能を果せず、ITインフラとしての役割を担えなくなる事態とならないよう、スマートフォン等の新しいデバイスとクラウドコンピューティングの協調が進展して国際的な競争力が発揮できる環境を今から想定しておく必要があると思います。

株式会社情報通信総合研究所
代表取締役社長 平田 正之

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