2012年1月11日掲載

2011年11月号(通巻272号)

ホーム > InfoComモバイル通信T&S >
InfoComモバイル通信T&S

※この記事は、会員サービス「InfoComモバイル通信ニューズレター」より一部を無料で公開しているものです。

巻頭”論”

ICTによるスマートエネルギーの実現をめざす
〜ICT+E(電気エネルギー)の時代へ

[tweet] 

 先月、10月4日〜8日に幕張メッセで、CEATEC JAPAN(家電エレクトロニクス・ショウ)が開催され、大震災後、久し振りに注目を集めたイベントとなりました。

 今年の会場での展示で例年とは違った変化を感じた来場者が多かったのではないかと思っています。それは、昨年までは、3D中心の大型TV等、派手な映像機器が多数展示されていましたが、今年は、多くのスペースを黒一色で大きく、また動きのない太陽光発電パネルが会場を占拠していて、とても静かで地味な展示となっていたからです。東日本大震災後に現実化した、原発事故による電力供給不足が私達に改めてエネルギー、特に電力供給問題の重要性を教えてくれたことを表わしていました。コンシューマー向けの新製品の紹介といった派手さはありませんが、太陽光発電パネルや電気自動車を含めた蓄電池の紹介は、今後の電機メーカー各社の取組みの方向を感じさせるものでした。また、エレクトロニクス分野では、各種のIT機器、特にスマートフォン、タブレット端末などが例年以上に人気を集めており、今年も携帯通信2社(NTTドコモとKDDI)の展示ブースには多くの人が集まって熱心に携帯の新製品に触れていました。相変わらずの光景でしたが、その中で2つ気付いたことがありましたので、述べておきます。

 第一は、特に若い人達を集客していたのは、mmbi、モバキャスの展示ブースで、新しい放送サービスの魅力を実演しながら訴えていて、私は展示ブースの中では最も派手に感じました。第二は、こちらが本論なのですが、携帯通信会社のブースの中で、家庭内の電力使用の見える化や効率化を訴えるICTシステム=スマートハウス的な紹介がなされていたことです。残念ながら、スマートフォンやタブレット等のように注目を集めてはいませんでしたが、スマートハウスの実証実験の紹介だけでなく、ホームICTに蓄電池を取り入れた簡単なパッケージシステムが展示、参考出品されていたことが印象に残りました。

 3月11日の大震災の際、首都圏をはじめ各地で発生した停電やその後の計画停電の際、情報通信(ICT)はやはり電気で動く“電気通信”なのだと改めて気付いた人も多くいたことでしょう。これまでのメタリック回線は通信情報を伝送するだけでなく、通信機器に必要な電気エネルギーも同時に供給していたのですが、光ファイバー回線はそれ自体電気を通しませんので、通信に必要な電気エネルギーは、電力会社の一般の商用電力に頼らざるを得ません。パソコンや他の家電製品と、この点では同様なことになってしまいます。電気が止まって不便、不安なところに、通信が止まり情報が得られなくなる恐怖は本当のところ味わった者しか理解できないかも知れません。今回、通信会社が、メインではありませんでしたが情報通信と電気エネルギーとの相互の協調関係を展示・出品していたことは大いに参考となり、これからのインフラのあり方を先取りした印象を与えていました。当面の電力不足、節電対策だけでなく、将来のオールIP化、PSTNのマイグレーション時に、停電の際の対策をどうするのか、今から選択肢を示してくれているようにも思えた次第です。

 ところで、全国の電力供給は今後どうなるのか、今夏は、福島第一原発事故に起因した電力不足を、直接的には東京電力管内を中心に、工場、オフィス、家庭とそれぞれのレベルの範囲で乗り切ったものの、実際上、仕事のやり方や生活上の工夫、加えて何よりも我慢で頑張ったというのが本音ではないでしょうか。電力消費の見える化や電力のデマンドコントロールなどは、システム化された状況ではないところがほとんどの中、手探り状態での節電というのが実情だったと思います。さらに、今冬、関西・東北電力管内で深刻な電力不足が予想されており、また、来年の夏こそ、全国各地で電力の供給不足に陥ると予測されています。もちろん、原子力発電所の定期点検後の再開がどうなるかにもよるところが大きいのですが、目先の原発事故を見て脱原発へと傾斜するのは十分理解できますし、そのことに反対するものではありませんが、同時に、合理的に予測すれば電力供給不足に陥ることはあらかじめ分かることなので、今年の冬、来年の夏にどうするのか、政府のリーダーシップを求めたいところです。10年後、20年後の脱原発、再生可能エネルギー利用の課題は、国家レベルの選択ですが、今冬、来夏は今すぐの国民レベルの行動の問題です。日本国挙げて、国民が協力できる方法や具体的な政策が今すぐ必要なのです。政局や選挙より、もっと重要なのです。政治主導が求められるのではなく、司・司で決めて行動を起こさないと間に合わなくなるでしょう。毎年夏・冬になると我慢を続けるにも知恵が必要です。

 しかし、事実認識として押さえておくべきことは、ピークの需要に追いつけない供給不足が当分続くということであり、メガ・ソーラーなど太陽光発電や風力発電に話題が集まっていても、これらは中長期の施策ではあっても、当面は間に合わないということです。現実に必要なことは、節電をいかに効率的に実践するかということであり、特にICTを活用してスマートに節電を実現することです。それには、電力使用量を細かく計測し記録できるスマートメーターやスマートタップの導入・設置が不可欠ですが、併せて小型で高性能な畜電池とそれを配線して制御するICTシステムが家庭で必要となります。もちろん、分散発電(自家発電)として、太陽光発電パネルも燃料電池も有効です。この場合、ICTシステムは無線を含めて通信回線による配線となりますが、電力線は従来の交流配線に加えて、一部には直流配線と交直のコンバーターが必要となりますので配線類の効率化、パッケージ化が必須条件となります。制度的・政策的な支援策として、電気料金にデマンドレスポンス制(電力使用ピークに応じた時分別のきめ細かい料金の仕組み)と節電/蓄電/分散発電へのエコポイントなど政策的な助成が求められます。再生可能エネルギーの全量買取り政策も一歩ですが、電力消費者全員が参加可能な節電取り組みへの支援こそ、より緊急度の高い政策だと思います。

 これは分散型・双方向のエネルギーシステムの構築であり、利用者が誰でも参加できる分散型システム、即ち、電気エネルギーのインターネット版とでも言うべきもので、エネルギーのスマート化、Smart Energy by ICTの実現にほかなりません。ICTを活用して、家庭内や小規模オフィス内で節電を実現するシステムは、日本ばかりでなく世界でも新しい産業分野であり、経済の成長戦略にも直結するものです。これまでは、省エネというとCO2削減をメインテーマに、特に化石燃料中心に省資源、環境負荷低減を進めて来ましたが、これからは、節電=電力の効率的使用を中心に据えた社会構造に変革することになります。ICTが分散処理(クラウド)とスマート化で生活や産業に大きな影響を与えたように、このICT+E(電気エネルギー)による革新は、さらに大きな可能性を私達に与えてくれます。地球にやさしい行動は、当然のこと、私達の生活防衛でもあるのです。スマー  トフォンに始まり、スマートTV、スマート家電、スマートハウス、スマートオフィスなどに続くICTの進展は、スマートエネルギーへとつながって行くことでしょう。情報と通信と電力との協調の時代です。今、こうした大きな流れの中で、情報通信サイドからは、これまでホームICTやコネクテッド・ホームなど様々な提案がありましたが、残念ながらサービス概念的に電気エネルギーを十分に取り込んだ提唱とはなっていないように見受けられます。ICT分野だけでも、接続される機器が多種・多様で関係者も多く標準化や統合サービスに困難が伴っているのに加えて、電気を使用する機器との接続と配線(通信と電気)および全体的な双方向の制御となるとますますシステムは複雑となります。HEMS(Home Energy Management System)など、さまざまなxEMSが提唱されています。

 問題の本質は、システムの善し悪しというより、むしろ、誰が全体をまとめ、リードしていくのか、技術分野が多岐に渉り、市場も広範囲に分散していて、かつ、我が国では、ICT分野ですら監督する行政官庁が総務省と経産省とに分かれていて政策推進の制約となることが多いのに、ICT+Eとなると一層混乱することが予見されます。ここは、政府において、脱原発の理念だけではなく、現実的な政策として、スマートハウス、エネルギー管理システム=スマートエネルギーを統一的に推進する仕掛け作りを求めたいと思います。一方、これまでICT推進を担って来た通信会社においては、通信電力分野に加えて、畜電池や家電製品のスマート化、通信と電気エネルギー管理の融合サービスに乗り出す機会ではないかと感じています。他産業領域への進出というリスクイメージや未知の分野への危惧ではなく、社会的要請に応じて前向きに取組むべきチャンスだと考えます。

 いずれ、電気自動車もスマートハウス、スマートエネルギーの範疇となり、スマートビークルとしてICT利活用の中の重要な地位を占めることになるでしょう。国内外の各地で実証実験が進められていますが、さらに進んで、実際に製品化、サービスメニュー化されて、私達の生活面で身近なものとなって、例えば家の中に無線LANが普及して家庭でのICTが進展したように、一般の家庭において、スマートエネルギー、ICT+Eが普及することを期待しています。そうでないと、これから毎夏、毎冬、節電対策で我慢に耐えるのには限度があります。何ごとも、スマートに行きたいものです。

株式会社情報通信総合研究所
代表取締役社長 平田 正之

InfoComモバイル通信 T&Sのサービス内容はこちらこのコーナーは、会員サービス「InfoComT&S ?World Trend Report」より一部を無料で公開しているものです。総勢約20名もの専門研究員が海外文献を20誌以上、常時ウォッチしております。

詳細記事(全文)はT&S会員の方のみへのサービスとなっておりますのでご了承下さい。
サービス内容、ご利用料金等は「InfoCom T&S」ご案内をご覧ください。

▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。