2011年9月22日掲載

2011年8月号(通巻269号)

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再び注目を集めるディスプレイ広告市場

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 2011年第1四半期の米国におけるインターネット広告市場は過去最高の73億ドルに達するなど市場の拡大が続いている。インターネット広告市場は当初バナー広告を中心としたディスプレイ広告(注)が広がりをみせた。その後、検索連動型広告を武器にしたグーグルの台頭により大きく検索連動型広告が増え、ディスプレイ広告市場は下火になった。しかし、昨今のフェイスブックの台頭やアドテクノロジーに注力するグーグルなど、ディスプレイ広告を巡る様相にも変化が見え始めている。本稿では米国のディスプレイ広告市場を概観する。

(注)ディスプレイ広告とは、Web広告の形式の一種で、Webページの一部として埋め込まれて表示される、画像や Flash、動画などによる広告。画面上部などに表示される横長の画像広告を特に「バナー広告」という。

ディスプレイ広告市場でのシェアを伸ばすフェイスブック、グーグル

 米国のインターネット広告業界の業界団体IABとプライス・ウォーター・ハウスの調査によると2011年第1四半期の米国におけるインターネット広告市場は過去最高の73億ドル、前年同期比23%増の伸びをみせた。また、米国の調査会社eMarketerによると2010年のインターネット広告市場は260億ドルであったが、その市場は2011年には313億ドル、2015年には495億ドルへと今後大きく成長すると予測している。インターネット広告市場の内訳をみてみると、2010年時点で検索連動型広告のシェアが46.1%、続いてバナー広告が23.9%とこの2つで70%を占めている。一方2015年の広告市場は検索連動型広告のシェアが43.5%へ減少するのに対し、バナー広告がほぼ2010年と同程度の23.7%、動画広告が14.4%(2010年は5.5%)へ急激に増加すると予想している。インターネット広告市場は数年前まで検索連動型広告の伸びが中心であったが、今後はバナー広告や動画広告といったディスプレイ広告が成長の中心になる可能性が高い。

 また市場の中心となるプレイヤーにも変化が見え始めている。米国の調査会社eMarketerによると、2009年の米国ディスプレイ広告市場はヤフーのシェアが圧倒的に高かった。しかし、2010年にはフェイスブックやグーグルというWeb世界の2強がそのシェアを伸ばした。また今後に関しても、フェイスブックとグーグルがシェアを伸ばすとの予測を発表している。

【図1】米国におけるディスプレイ広告収入トップ5社の売上高シェア/予測

2009年 2010年 2011年 2012年
フェイスブック 7.0% 12.2% 17.0% 19.4%
ヤフー 15.8% 14.4% 13.1% 12.5%
グーグル 4.5% 8.6% 9.3% 12.3%
マイクロソフト 4.6% 5.1% 4.9% 4.8%
AOL 6.4% 4.8% 4.2% 3.9%
合計(10億ドル) 7.97 9.91 12.33 14.82

フェイスブックのビジネスの中心は広告

 世界最大のSNSであるフェイスブックの収益源は大きく2つに分かれる。1つはフェイスブック内のバーチャルグッズ等の購入に充当できるポイント型の仮想通貨「Facebook Credit」から得る収益、もう1つが広告である。フェイスブックのディスプレイ広告から得る収益は先述のeMarketerの数値を利用すると、2010年の米国ディスプレイ広告市場99.1億ドルの12.2%である12.1億ドルと推察される。また同社からの公式な発表はないが、報道によると2010年のフェイスブックのディスプレイ広告からの収入は全世界で186億ドルとのこと。

 フェイスブックの広告のポイントとして、グーグルのAdwordsのように広告主側でターゲティングや分析などができるという点がある。エリアや学歴、関心事などフェイスブック上にユーザが登録した情報を基にしたターゲティングや広告の単価設定などが可能である。また同社はSMS、チャット、Eメールを一括管理し、@facebook.comのEメール・アドレスを提供する「Facebook Messages」や、位置情報サービス「Facebook Places」を用いて、ユーザの近くにあるお店等のお得情報を提供する携帯割引情報サービス「Facebook Deals」、フェイスブックユーザに問い合わせを行うQ&Aサービス「Facebook Questions」などフェイスブック内でのコミュニケーションを拡大させるようなサービスを多数提供している。これらサービスの提供により、ユーザは常にフェイスブックを経由して行動し、結果的に大量のデータをフェイスブックに提供することになる。このデータを分析することでフェイスブックは各個人のプロフィール情報、人間関係、行動履歴などを基にした広告ビジネスを大きく展開させていくだろう。

アドテクノロジー企業の買収を進めるグーグル

 一方、グーグルもアドテクノロジー企業を次々に買収しており、行動データの収集・分析をベースとした広告モデルの構築を行っている。アドテクノロジーとは2009年秋頃から米国で盛んになったアドエクスチェンジ(ディスプレイ広告の空き枠を自動売買する仕組み)やオーディエンス・データ分析(大量の行動履歴を分析、クライアントに販売)などの総称で、金融取引などのテクノロジーを広告ビジネスに応用した動きである。アドテクノロジーは、著名サイトでも広告が付きにくいページや、無名のページといった所謂ロングテールのインターネット広告枠を収益化したいというメディアや広告代理店のニーズを満たすものであり、現在急速に発展している。

 2011年6月グーグルは、複数の広告ネットワークから、ユーザの行動履歴を分析し、広告収益を最大限高める広告を選定するツールを手掛けるAdMeldの買収を発表した。買収金額に関してグーグルは未公表であるが、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(2011年6月14日付)によると買収金額は4億ドルで、買収が成立すればグーグルにとって6番目に規模の大きい買収案件となる。なお、AdMeldが提供するパブリッシャー側が掲載する広告効果の最大化を実現するためのプラットフォームのことをSSP(Supply Side Platform)という。このSSPのAdMeldの他にも、グーグルはディスプレイ広告での収益最大化を目指すためのツールやプラットフォームを提供するアドテクノロジー分野の企業を近年複数買収している。具体的には、2008年に31億ドルで買収したDoubleClickは2009年9月にアドエクスチェンジ「DoubleClick Ad Exchange」を開始、その他には2009年11月に買収したバナー  広告の最適化ツールを提供するTeracentや2010年6月の広告主に広告の入札ツールや分析結果、広告プランの提案を行うDSP(Demand Side Platform)のInvite Mediaの買収などが該当する。これら買収の結果、ブラウザからユーザ情報を取得し、ユーザ情報に基づいた最適な広告を配信する仕組みを自社のみで行うことが可能になった。なお、2011年7月グーグルは「DoubleClick Ad Exchange」を日本で開始すると発表しており、日本でもグーグルによるディスプレイ広告市場の開拓が始まると予想される。

ソーシャルメディアは情報収集の流れを変える

 このようにフェイスブックとグーグルというWebサービスの2強が、このディスプレイ広告を巡る争いを続けていく背景の一つにはソーシャルメディアの発達による情報取得ルートの変化がある。勿論、検索を利用して情報を調べるという行為自体はなくなることはないが、ツイッターやフェイスブックといったソーシャルメディアを介して情報を取得する、また各社のWebサイトなどに遷移する場合でも「検索」行為をすることなく、ツイッターやフェイスブックから直接各サイトのページをユーザが閲覧にいくというパターンが多くなってくるだろう。更にスマートフォンやタブレットといったモバイル端末が、ソーシャルメディアの利用を加速させる。米調査会社コムスコアによると2010年1月の米国における携帯電話ユーザのうち11.1%がSNS(フェイスブック、マイスペース)やツイッターを利用したのに対し、スマートフォンユーザは30.8%がこれらのサービスを利用しているとのこと。今後スマートフォンやタブレットが急速に拡大する中で、検索経由ではない情報の流れが拡大し、それに伴いディスプレイ広告市場の規模は大きくなっていくのではないか。

HTML5はディスプレイ広告市場を大きく拡大させる存在か?

 また、昨今ではバズワードにもなっている、Webアプリケーションの記述言語HTMLの次世代の新バージョンであるHTML5もディスプレイ広告市場を大きく拡大する可能性がある。HTML5をサポートしているブラウザさえあれば、「どんなデバイスでも、そのデバイスに最適化された形」で表示することが可能になる。つまり、スマートフォンやタブレットなどのディスプレイ上での広告表示に関しても最適化されることになる。実際、米国のインターネット広告の業界団体IABは、HTML5とJavaScriptを利用したリッチメディア広告のAPIの標準化を進める、Mobile Richmedia Ad Interface Definitions (MRAID)のプロジェクトを開始した。MRAIDにはグーグルやヤフーの他にもニューヨーク・タイムスやウォール・ストリート・ジャーナルといった新聞社、NBC UniversalやCBSといった大手メディアも参画している。

  多様なメーカーから様々なOSに対応した多彩なデバイスが販売されることが予想される今後、コンテンツ・プロバイダ側からみると、端末側への配信はブラウザベースで実施することで開発コストを抑えたいと考えるだろう。また収益の最大化という観点から考えても、手数料として全収益の30%がアップルに渡ってしまう現在のアプリ・ストアの経済からブラウザをベースにした経済へと移行していく可能性が高い。そのような中でスマートフォン、タブレット向けの広告に関しても、アプリ内広告からディスプレイ広告中心へと変化していくであろう。

まとめ

 このように、ソーシャルメディアやスマートフォンの普及、HTML5という新たな技術も追い風にし、フェイスブックとグーグルを中心にディスプレイ広告の市場は確実に広がっていくだろう。このディスプレイ広告を巡る動きは今後様々な端末がインターネットに接続され、様々な情報がインターネット上に溢れかえる時代に、大量のデータを如何にマネタイズに結び付けるかという観点からみても注目すべき動きであると考える。今後の動向にも注視していきたい。

山本 惇一

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