2011年7月4日掲載

2011年5月号(通巻266号)

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InfoComモバイル通信T&S

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サービス関連(コンテンツ・放送)

新興国市場への進出を加速するフェイスブック

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 5億人超(注1)のアクティブ・ユーザーを抱える世界最大のSNS「フェイスブック」は、近年、新興国市場進出への取り組みを活発化させている。2010年にはデータ通信料金無料でアクセス可能なモバイル向けサイト、そして2011年にはフィーチャーフォン向けフェイスブック・モバイル・アプリやデータ通信非対応端末でフェイスブック利用を可能とするSIMなど、新興国市場をターゲットとした新たなサービスが相次いで投入されている。本稿では、フェイスブックが加速的に進めている新興国市場での勢力拡大を狙ったビジネス展開について解説する。

(注1)フェイスブックがホームページで公表している統計値(時期は不明)。CheckFacebook.comによれば、ユーザー数は既に6億人を超えており2011年4月27日時点で6億5,882万7,380人。

データ通信料金無料のモバイル版サイトを開設

 フェイスブックは2010年5月18日、自社の公式ブログ上で、データ通信料金を無料化したモバイル向けサイト「ゼロ・フェイスブック」(図1)を開設したことを発表した。 提携先の45カ国53事業者(表1)のネットワークからゼロ・フェイスブックへアクセスした場合、データ通信料金無料でフェイスブックが利用できるといった画期的なサービスである。なお、提携先事業者以外のネットワークからアクセスした場合には、利用不可の旨の警告が表示される仕組みとなっている。提携先の国々の中には一部先進国も含まれているが、45カ国の大半が新興国で構成されており、同サイトは主に新興国市場に向けられたものだ。

【図1】ゼロ・フェイスブックトップページ
【図1】ゼロ・フェイスブックトップページ
出典:フェイスブック公式ブログ

【表1】ゼロ・フェイスブック 提供国・携帯事業者一覧
【表1】ゼロ・フェイスブック 提供国・携帯事業者一覧
※2010年5月18日現在 出典:フェイスブック公式ブログ

 ゼロ・フェイスブックは通常のモバイル向けフェイスブック・サイトと異なり、動画や画像を排除したテキスト表示のみで、軽量化によるアクセス・スピードの向上が図られている。無料ベースのサービスであることから、これは携帯事業者のネットワーク負荷を最小限に留めるための配慮だと言えるが、主たるターゲットがネットワークが脆弱な新興国であるため、ユーザーに対して快適な利用環境を提供するための合理的措置として捉えることもできる。利用機能は一部に限定されてしまうが、ステータス更新やコメント投稿等、フェイスブックの主たる基本機能は全て利用可能となっている。低所得者層が大半を占める新興国市場では経済的理由により、未だ携帯電話利用を通話とSMSに限定しているケースも多く、フェイスブックを利用したいが利用できないといったユーザーも多数存在するものと思われる。ゼロ・フェイスブックは、これらのユーザーに対しフェイスブック利用の門戸を大きく開くものだ。

 フェイスブックは、「無料」を売りとしてこれまでリーチできなかった新興国市場の未開拓のユーザー層を積極的に取り込むことができ、ビジネスの要であるユーザー・ベースの更なる拡大が期待できる。なお、ゼロ・フェイスブックへのアクセスは無料だが、サイト内に設定されている画像表示のリンク先や通常のモバイル向けフェイスブック・サイト、外部サイト等へ移動した場合には、通常のデータ通信料金が課金される。そのため、ゼロ・フェイスブックへのアクセスをきっかけとしてこれまでデータ通信を使っていなかったユーザーがデータ通信利用を開始することになれば、携帯事業者は収入増の恩恵を受けることができる。ゼロ・フェイスブックは、このようにフェイスブック、携帯事業者双方にとってWin-Winのビジネス・モデルだと言えるだろう。

フィーチャーフォン向けフェイスブック・モバイル・アプリの提供を開始

 フェイスブックは2011年1月19日には、フィーチャーフォン向けフェイスブック・モバイル・アプリをリリースしたことを公式ブログで明らかにしている。同アプリは、英国ロンドンに拠点を持つモバイル・アプリ開発会社Snaptuとの共同開発によって構築されたもので、スマートフォン上でのフェイスブックの操作性をフィーチャーフォンでも可能とするものだ。同アプリは、世界で販売されている約80%の携帯電話端末を包含するノキア、ソニー・エリクソン、LG製等の2,500機種以上の端末に対応している。なお、2011年3月20日にSnaptuは、フェイスブックによる買収に合意したことを発表しており、フェイスブックは今後、同社の技術をフル活用していく見込みだ。

 フェイスブックはゼロ・フェイスブックの時と同様、同アプリの展開においても携帯事業者と提携を図っており、14カ国14事業者(一部開始予定も含む)(表2)のネットワーク上で、同アプリを経由したフェイスブックへのアクセスが無料で提供される。但し、無料期間はサービス開始後最初の90日間のみで、その後は各社のデータ通信料金が課金されることになる。フィーチャーフォン向けであり、また14カ国の殆どが新興国であることから、同アプリも新興国市場を主たるターゲットとしている。

【表2】フィーチャーフォン向けフェイスブック・モバイル・アプリ
無料*アクセス提供国携帯事業者一覧 (*サービス開始後最初の90日間のみ)
【表2】フィーチャーフォン向けフェイスブック・モバイル・アプリ 無料アクセス提供国・携帯事業者一覧
※2011年1月19日現在 出典:フェイスブック公式ブログ

データ通信非対応端末でフェイスブック利用を可能とするSIMを投入

 世界最大手のICカード・ベンダー蘭ジェムアルトは2011年2月にスペインのバルセロナで開催されたモバイル・ワールド・コングレス2011において、あらゆる携帯電話端末でフェイスブックの利用を可能とする「SIM版フェイスブック(Facebook for SIM)」を発表した(図2)。SIMに専用のソフトウェア・アプリケーションを組み込み、SMS通信によってサービスが提供されるため、SIM挿入式タイプの携帯電話端末であれば、データ通信非対応端末を含め全ての端末でSIM版フェイスブックが利用できる。利用するにあたり新たなアプリケーションのダウンロードやデータ通信契約も不要だ。

【図2】SIM版フェイスブック
【図2】SIM版フェイスブック
出典:ジェムアルト・ホームページ

 SIM版フェイスブックはテキストのみ使用可能となっており、画像を含むマルチメディアコンテンツは利用できない。但し、フェイスブックのコア機能である友達リクエスト、ステータス更新、ウォール投稿、メッセージ送信などの機能を簡易に利用でき、インテラクティブなフェイスブック・メッセージもポップアップ式で画面表示されるため、通常のフェイスブック同様、リアルタイム・コミュニケーションが可能である。

 SIM版フェイスブックの最大の特徴は、携帯電話端末の大半が兼ね備えている「SMS」「SIM」機能を活用している点だ。それ故、同サービスの投入によって、フェイスブックはこれまでマーケティングの対象外となっていたデータ通信非対応端末ユーザーやデータ通信未契約ユーザーに対してもサービス提供を行うことが可能となり、新興国市場を中心としてユーザーの裾野が大きく広がる。但し、普及については、いかに多くの携帯事業者がこのSIM版フェイスブック対応のSIMの採用に踏み切るかということにかかっている。本稿執筆時点(2011年4月28日)で、具体的な採用事業者は公表されていない模様であり、今後の展開がどうなるかは不確定の状況にある。

比グローブ、フェイスブック特化型の格安データ通信プランを投入

 新興国では個別事業者レベルでフェイスブックに主眼を置いたモバイル向けのデータ通信プランの展開も始まっている。本誌2011年1月号「インドネシアで活況を呈するソーシャルメディア」でも、世界トップの米国に次ぐフェイスブック・ユーザー数を誇るインドネシアにおいて、ブラックベリーのデータ通信プランのラインナップにフェイスブックを含む一部のSNSに利用を限定した格安プランが導入されている事例を紹介した。 

 2011年4月にはフィリピン第2位の携帯事業者グローブが、フェイスブックの利用に完全特化した格安のデータ通信プラン「スーパー・フェイスブック」の提供を開始した。契約対象はプリペイド・ユーザーで、連続5時間当たり10ペソ(約20円)という低料金でフェイスブックを利用できる。同社が提供する通常のデータ通信プラン(注2)が1時間当たり15ペソであることからも、スーパー・フェイスブックがいかに安価な料金設定となっているかが分かる。なお、5時間を超過した場合、再度登録手続きを行えば、繰り返し同一料金での利用が可能だ。

(注2)「スーパー・フェイスブック」は、連続5時間の利用となっているが、同プランの1時間は利用時間の合計で計算され使用期限は1日。

 データ通信利用が伸び悩んでいる新興国市場では、このように絶大な人気を誇るフェイスブックをトリガーとして活用し、データ収入増に結びつけるといった料金戦略も見受けられる。 

新興国市場でのユーザー獲得の推進により、独走体制を維持へ

 各種サービスが原則無料ベースで提供されるSNSにおいては、マネタイズ手法の確立も課題の一つだ。但し、SNSはそもそも「ソーシャル」という言葉の如く人と人とのコミュニケーションを土台にしたサービスであるため、ユーザー・ベースの拡大はビジネス成功の鍵を握る最も重要な基本的要素だと言える。

 フェイスブックの統計データを公表しているサイトCheckFacebook.comによれば、2011年4月27日時点の国別のフェイスブック・ユーザー数トップ10カ国のうち約半分は新興国で、前週比成長率に至ってはトップ10全てが新興国となっている(表3)。この実態はまさにフェイスブックの成長軸が、先進国から新興国へと移り変わりつつあり、新興国市場におけるビジネス拡大の重要性が益々高まっていることを示唆している。

【表3】フェイスブック・ユーザー数統計
【表3】フェイスブック・ユーザー数統計
※2011年4月27日時点 出典:CheckFacebook.com

 固定網整備が滞っている新興国市場では、固定電話に代わり携帯電話がメインの通信手段となることも多く、フェイスブックの利用が携帯電話から始まるケースも多々存在する。それ故、新興国市場でのユーザー数増を目指すにあたっては、携帯電話に着目することが重要だ。実際、本稿で解説した新興国市場向けの各種フェイスブック・サービスは全て携帯電話端末上で利用されるものとなっている。また、いくつかの取り組みにおいて見られるように、ターゲットとなる携帯電話ユーザーを握っている携帯事業者とのパートナーシップに基づくサービス提供は、ユーザー・ベースの拡大において非常に効率的な戦略だと言える。

 フェイスブックは成長の主たるけん引役となった新興国市場において、同市場でメインの通信手段と化しつつある携帯電話向けに投入した料金無料、端末フリー等の各種の斬新的なフェイスブック・サービスを武器に勢力拡大を推し進めることで、SNSトップの独走体制を維持し続けることができるか、今後の動向が注目される。

松本 祐一

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