2011年5月9日掲載

2011年3月号(通巻264号)

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コラム〜ICT雑感〜

映画「英国王のスピーチ」と音声の力

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 今年のアカデミー賞は、12部門の最多ノミネートで本命視されていた「英国王のスピーチ」が、作品賞を初め4部門を受賞した。主演男優賞のコリン・ファースは、吃音のジョージ6世を上手に演じている。オスカーレースでは、実在の人物やハンディキャップを負った人を演ずると有利というセオリーが、また裏付けられることになった。見る者をいらいらさせるように言葉が出てこない演技は、ある程度上映時間を長くしてじっくり見せる必要があるのだろう。どの映画を見ても、もう少し短くすれば良いと思うことの方が多いが、この映画は仕方がないかなと思う。

 吃音症で悩むアルバート王子(後のジョージ6世)が、国民に向かって語りかけるために、専門家ライオネル・ローグ(ジェフリー・ラッシュ)の助けを借りて克服しようとする。彼を支えるエリザベス妃にヘレナ・ボナム=カーター。最近は、「アリス・イン・ワンダーランド」の赤の女王や、「ハリー・ポッター」シリーズのベラトリックス・レストレンジのような素っ頓狂な悪役ばかりやっていたが、かつてコルセット・クィーンと呼ばれた英国女優の王妃は安心してみていられる。「シャイン」のオスカー俳優ジェフリー・ラッシュも、やや控えめに芸達者なところを見せている。監督賞と脚本賞を受賞したストーリー運びもさすがと思わせる。

 この映画のクライマックスは、イギリスがヒトラー率いるドイツに対して宣戦布告をする際の演説である。ポーランド侵攻を受けてついにイギリスが参戦することで、世界は二度目の大戦に突入する。言葉をうまく紡げない国王は、大英帝国全土に向けたラジオ演説で国民を鼓舞することができるのか。スタジオにただ一人同席したローグは、オーケストラの指揮者のようにうなずきかける。極度の緊張のなかで、訥々とした演説が始まる。この場面のバックに流れるベートーベンの交響曲7番第二楽章が素晴らしい。酒飲みの私は、バッカスが宴会をするような第三楽章や泥酔して踊り狂うような第四楽章が好きなのだが、クラッシックファンの人たちがこぞって第二楽章を褒め称える理由が、初めて分かった気がする。

 ところで、この映画の主題はオーラルコミュニケーションだ。音声で直接語りかけることの持つ力が、印象的に描かれている。ICTの世界では、コミュニケーションの手段が、音声からデータへ、リニアからランダムアクセスへと、比重が移り続けている。移動体通信サービスでも、データARPUが音声ARPUを超えつつある。しかし、このことは決して音声の重要性が低くなっていることを必ずしも意味しない。直接音声で語りかけることはコミュニケーションの基本であり、これを多様な形で実現することがむしろ重要になっていくであろう。

法制度研究グループ部長 小向 太郎

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