2010年1月24日掲載

2010年12月号(通巻261号)

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コラム〜ICT雑感〜

「1984年」以後

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  今年の夏、英国で監視カメラの設置に関して全面的に見直しを始めている。特にロンドンの監視区域は公的空間の40%と、各国首都より格段に広いといわれている。始めは都市犯罪対策としての監視カメラの導入であったが、米国で起きた2001年9月11日の同時多発テロや2005年のロンドン地下鉄テロ以後、急速に監視カメラが増えているようである。

 この報道から思い浮かべたことは、ジョージ・オーウエルの小説「1984年」である。この小説自体は1948年に執筆して1949年の出版となったもので、反全体主義、反集散主義(反集団、反共産主義)のバイブルとして冷戦下の英米で大いに売れたそうだ。日本語版は1972年に文庫本として出版されている。この小説では、50年代の核戦争以後、1984年現在、世界は3つの超大国に支配され、世界各地で戦争が繰り返されている世界を想定している。小説の舞台となるロンドンでは、思想・言語・結婚などあらゆる市民生活に統制が加えられ、テレスクリーンと呼ばれる双方向システムのテレビカメラで屋内・屋外を問わず、ほぼすべての行動が当局によって監視されている社会となっている。物語はこのような社会で、思想統制をされていた市民が体制に疑問を持ち始めていく。このような設定は、第三次世界大戦や終わりのない超大国間の覇権争いを予想することがそれほど難しいことではない時代であったのかもしれない。現代世界における三国志もどきの争いが続いている様相を呈している状況下での話である。

 ここで注目したのは物語が展開していく舞台装置であり、双方向のテレビシステムを活用していることである。半世紀もの前にニューメディアを活用した統制社会を描いていることについて、小説とはいえ、現代社会をかなり的確に予見しているからである。超大国の1つと設定しているイースタシア(旧中国や日本が含まれる東アジアを領有する)のエリアの一角では、現在でも統制社会が実際に存在し周辺国に脅威を与えている。他の2つの超大国は英米を中心とする英語圏のオセアニア、旧ソ連と欧州大陸を領有するユーラシア、これら以外の北アフリカや東南アジア等は紛争地域という設定である。ユーラシアは予想外れということもできるが、概ね現代の世界情勢を見通しているようだ。

 タイトルとなった1984年は日本における高度情報化社会の幕開けといわれたころである。通信自由化1年前である。当時の郵政省や通産省は、「テレトピア構想」、「ニューメディア・コミュニティ構想」を実行し始めた年である。近未来社会の利便性の高い都市生活を描いている。その一方で、行き過ぎた監視社会となることへの危惧の念として「1984年」が引き合いに出されることもあった。

 今日、身の回りでも多数の監視カメラをみることができる。駅の改札口、電車のホーム、地下鉄の連絡通路、地上に出れば交差点、銀行などの金融機関、コンビニやデパート、オフィスビルや役所の出入り口、などなどで1日に100台くらいはカウントできる。隠しカメラを含めるとどのくらいになるのだろうか。驚いたことに、回転寿司の店内でテーブルごとの客の食べ具合までチェックされて次々に売れ筋メニューを補充していく効率的な営業を行っているチェーン店がTVで紹介されているではないか。「1984年」の思想統制を狙ったものではないのだろうが、安全や経営効率の観点から近い将来、ほとんどの職場や学校や生活の場に監視カメラが導入されるかもしれない。20XY年のX=1となりそうな気がする。

社会公共システム研究グループ 常務取締役 高橋 徹

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