2011年1月24日掲載

2010年12月号(通巻261号)

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InfoComモバイル通信T&S

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巻頭”論”

M2Mサービスの新潮流

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 M2Mサービスとは、“Machine to Machine”、即ち、機械と機械(アプリケーションサーバーを含む)の間でコミュニケーションを行う手段を指し、独自にデータの送受信を行いながら監視や管理、あるいは配信を行うことです。最近では、アマゾンの電子書籍端末「キンドル」のように、携帯電話以外のデバイスに対し、ネットワーク経由で情報を直接送信する形態(Machine to Mobile)も含まれるようになっています。

  我が国では、これまでマシン・コミュニケーションと呼ばれて、車両運行管理や自販機の在庫や販売状況管理などに主に適用されてきたものに相当します。しかし、上述のM2Mの定義および適用領域は米国で最近、特に認識されているもので、日本のそれが、主としてBtoB、即ち、企業内や企業間で適用されてきたのに対し、米国のM2Mは、多くがBtoCとして、具体的なサービスとして直接、ユーザーに対し進められている点に違いがあります。つまり、サービスの顧客から見ると、通信サービスは内部に取り込まれ、サービスの一部となって直接的には認識されないものとなっています。例えば、キンドル端末では、本をデジタルで購入したのであって、配信サービスはその対価の一部でしかありません。配達サービス付きの商品購入、または家庭で配達される新聞を購読するのと似ています。マシン・コミュニケーションでは情報通信サービスが企業活動の一部として効率性向上や顧客満足向上のために使われていると捉えられていたのに対し、M2Mでは、もはや、通信は他の本来のサービスの一部となりユーザーからは見えなくなっていることに特色があります。

  これは、通信ネットワーク、特にモバイルのネットワークが拡充し、どこにでも存在するようになったが故に、モバイル通信モジュールを搭載した各種サービス端末が可能となり、BtoCにおいて新商品・新サービスの付加価値向上が進んだためです。具体的には、米国では先述の電子書籍やデジタルフォトフレーム、遠隔からの健康管理・相談や医療検診など、さまざまな領域に広がっています。日本でも、先日NTTドコモから、家庭向け「園芸サポートサービス(仮称)」を開発、との発表がありました。既に10月から約30世帯を対象として、(株)サカタのタネおよびNECと協力して実証実験が開始されています。米国のモバイル通信会社の視点では、こうしたM2Mは、音声通信、そしていずれデータ通信市場も成熟していくなか、新しい成長市場と見られています。M2Mは、帯域幅を必要とせず、ネットワークコストだけでなく、マーケティングや販売コストも小さく、カスタマーサポートをあまり必要としないので、利益性がよいとされ今後の成長機会と認識されています。ただ、 M2M事業は、個別の具体的なサービスに基づくものなので、利益率がよいとしても売上げ規模が小さく、通信キャリアから見ると大きな経営資源をかけられるものではありません。そこで、米国では、当該サービス分野に強い人達との戦略的パートナーシップが推進されています。米国においても、M2Mの接続数は上位3社で約1,100万回線程度でまだ多くはありません(日本の約3倍)。但し、一方で、ワイヤレスM2Mの組み込みモジュールは、2015年には1億1,400万台と現在の3倍に成長するとの見方があり、車内エンターティメント、消費者向け情報家電、血糖値や心拍などの遠隔モニタリングなどの伸びが予測されています。

  このようにモバイル通信会社の中では大手のベライゾン、AT&Tなどが提携戦略を積極化して、「ベライゾンMachine to Machineマネジメント・センター」や「AT&Tイノベーション・センター」において新しいM2Mサービスの開発をサポートする体制を最近立ち上げています。これには、提携戦略をオープンにして、多くの開発者(企業)を引き付け、遠隔モニタリングやデバイス管理、運用サポートを提供して迅速なサービス開発を図ろうとする姿勢が表われています。また、パートナー企業とM2M商品・サービスの企画化を行うラボの設立も行われています。

  こうしたM2Mサービスの動きは、ユーザーから見ると新しいサービスそのものの登場であり利便性や満足度を高めるものですが、モバイル通信会社からすると、構築したネットワークの使用効率の向上、収益機会の獲得ということです。米国では、この種のM2Mサービスは、MVNO方式で行われるのが一般的ですが、日本で規制されているような、いわゆる接続義務は存在しないので、当事者間の交渉によって、提供されるモバイル回線の条件や価格が設定され、顧客に対しては、商品・サービスの中に部分として含まれて請求・決済されています。こうした契約自由の原則のなかで、通信サービスがさまざまな新商品・新サービスとして活用されています。残念ながら、日本では、指定通信事業者には接続義務が課され、かつ、条件が約款化されていますので、M2Mサービスの事業者にとっては、独自性の発揮が困難となり、創業者・先発者の利得を得る機会が乏しいのが実情となっています。本来、接続義務はネットワークの拡大過程で、中核的サービスである電話やパケット通信のサービス競争を促進するという狙いの下に存在理由がありましたが、米国で新たに見られるような新しい形のM2Mサービスの場合には、逆にイノベーションを阻害してしまうことになりかねません。

  これからの時代、通信サービスが前面に立つことなく、一般の商品・サービスの配達や通知・連絡、お届けなどと同様に、新商品・新サービスがもっと数多く登場して来ることでしょう。それだけモバイル・ネットワークがどこにでもあり、常に身近にある存在となったのですから、新しい市場や時代には新しい規制のあり方が求められています。米国の先進性には、ここでも学ぶものがあるようです。

株式会社情報通信総合研究所
代表取締役社長 平田 正之

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