2010年11月29日掲載

2010年10月号(通巻259号)

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コラム〜ICT雑感〜

上海万博に見る「光と影」

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5時間待ちの中国国家館、日本館を見学

 9月上旬、「電気通信協会」訪中団の一員として上海万博を見学する機会に恵まれた。電気通信協会と中国通信企業協会は毎年相互交流を行っており、今回の訪中は中国通信企業協会の受け入れのため、中国国家館など通常であれば5〜6時間待たないと入れないパビリオンにも待ち時間なしで入場することができた。また、外国のパビリオンとしては「サウジアラビア館」に次いで人気が高い「日本館」も待ち時間なしで見学をすることができた。

 中国国家館のハイライトは館内の壁に百メートル超に亘る宋の時代の人々の暮らしを再現した大パノラマ図である。しかも動画になっており、生き生きと当時の様子が偲ばれるものになっていた。日本館の展示は主に環境をテーマとした映像と劇の組み合わせになっている。日本では絶滅した「トキ」が中国との協力により、再び佐渡の空に舞う姿と、自然を守る重要性が高精細の画面に感動的に描かれている。中国国家館も3つの展示エリアの1つを「低炭素の未来」とし、環境をテーマにしたものとなっている。環境への取り組みについては万博会場の足は13路線までに拡大した地下鉄や黄浦江を渡る船など公共交通の利用促進、会場内では電気バス、電気自動車などのようなところに具体的な取り組みがなされていた。

【写真1 黄浦江から見た中国館と日本館】
【写真1 黄浦江から見た中国館と日本館】

【写真2 会場内の電気自動車】
【写真2 会場内の電気自動車】

 また、会場内では世界最大のモバイルキャリアである中国移動がTD−LTEネットワークの実証実験を進めており20MHzの非ペア周波数で上り・下り最大80Mbps以上のデータ速度を実現していると言われる。

【写真3 中国移動の実験バス】

【写真3 中国移動の実験バス】

 万博入場者数は9月半ばで5,000万人を突破しており、これから10月初旬の国慶節シーズンを控えているだけに会期末の10月末には目標とする7,000万人は達成される見込みである。

発展を続ける上海

 「中国の過去を知りたければ西安へ、現在を知りたければ北京へ、将来を知りたければ上海へ行け」と言われるように上海は人口2,000万人近くを有するアジアを代表する金融都市である。浦東国際空港から中国語で「磁浮」と呼ばれるリニアモーターカーが最大時速400km超で上海市内までの約30kmを7分半で走っており、市内も重層構造になった高速道路が張り巡らされている。
浦東側の高層ビル群の中には森ビルが建設した地上492mの上海環球金融センタービルが聳えている。2008年の北京オリンピックに続く上海万博は1964年の東京オリンピック、1970年の大阪万博の時代を経て高度経済成長を謳歌した日本の歩みをより大規模で、しかも超スピードで実現していくようである。中国はリーマンショックからいち早く立ち直り、日本を抜いて世界第2位の経済大国となり、世界経済を牽引するまでになった。その中核をなすのが中国成長のエンジンと言われる上海である。

【写真4 浦東国際空港⇔上海市内
リニアモーターカー】
【写真4 浦東国際空港  上海市内 リニアモーターカー】
【写真5 上海高層ビル群】
【写真5 上海高層ビル群】

発展の裏に潜む「影」

 しかし、日本の高度成長が生み出した歪み―公害、薬害、有害添加物、バブル崩壊、少子高齢化、年金問題・・・などが順調な発展を遂げる中国社会に大きな「影」を落とし始めている。一つは環境問題であり、今回の万博でも大きなテーマになっている。数年前には上海の内陸部にある太湖が汚染のため悪臭を放ち、大きな問題となった。また、不動産バブルが次第に膨らんできており、上海市内の高層マンションの値段は東京を超える相場となっている。上海から杭州までの間にも新築高層マンションが建設中であったが、値上がり目的の空室が多く見られた。「影」の部分で最も深刻な問題は急速に進む少子高齢化の問題である。30歳前後の働き盛りは既に一人っ子であり、今後定年退職する多くの高齢人口を彼等が背負わないといけない事態が今後5〜10年後には起こってくる。人為的な政策による少子高齢化だけにその影響の大きさは日本以上に深刻といえるであろう。

課題先進国としての日本の役割

 リーマンショック後の世界不況のなかで日本経済が持ちこたえているのは中国をはじめとするアジアの発展を取り込めていることが大きい。今後、中国の抱える「影」の部分が顕在化し、危機的状況が訪れた場合、問題は中国にとどまらず、日本の経済、社会にも深刻な影響を及ぼすのは間違いない。従って中国が抱える問題を日本がこれまで克服してきた経験と技術により未然に防ぐことが重要である。環境や省エネの分野においては日本の技術が生かせる余地が大きく中国側の期待も大きい。今回の訪中における中国通信企業協会との意見交換においても環境、省エネ、ICTを使った産業強化の日本の取り組みについて教えてもらいたいという要望が出された。

 課題先進国としてこれまでの経験と技術がビジネスとしても生かせると感じた今回の上海万博の視察であった。

常務取締役 グローバル研究グループ部長 真崎 秀介

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