2010年11月29日掲載

2010年10月号(通巻259号)

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巻頭”論”

周波数の移行・再編〜オークション制度には周波数利用政策および展望のオープン化が必要

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 政府は9月10日閣議決定した追加経済対策の一環として規制改革を取り上げ、その中に「電波の有効利用のための制度の見直し」を盛り込みました。また、それに先立って8月31日に総務省のICTタスクフォース「過去の競争政策のレビュー部会」「電気通信市場の環境変化への対応検討部会」(注)が開かれ「ワイヤレスブロードバンド実現のための周波数検討ワーキンググループ」中間とりまとめが付議、発表されています。

(注)同日、「光の道」戦略大綱が併せて発表されています。

 ICTタスクフォースの中間取りまとめの中では、2020年に向けた周波数確保の目標として、移動通信システム等急激なトラヒックの増加が見込まれるシステムについて、2015年までに300MHz幅以上、2020年までに1500MHz幅以上を確保する旨が述べられています。これは米国FCCが今年3月に議会に提出し勧告した「国家ブロードバンド計画」において、今後10年間で500MHz幅をモバイルブロードバンド向けに新たに確保するとした規模を上回る前向きなもので大いに評価できるものです。

 さらに、この中間取りまとめでは、周波数の確保に際して必要となる周波数の移行・再編を支援するための枠組みとして、周波数移行に係るコストについて、移行後の周波数の利用者が負担または電波利用料を活用する、移行計画の策定にあたっては関係者の意見を踏えて検討を行う、等が提言されています。

  一方、閣議決定された経済対策の中の規制改革では、(1)割り当て済みの電波の周波数移行・再編方策を今年度に検討・結論を得て来年度に措置すること、(2)再編に要するコストについて市場原理を活用して負担する等オークション制度の考え方も取り入れた措置についても、同様のタイムスケジュールで進める旨が発表されています。

 確かに、昨年8月の衆議院総選挙における民主党の政策集「INDEX2009」において、「適当と認められる範囲内でオークション制度を導入することも含めた周波数割当制度の抜本的見直し」を掲げていましたので、政策の流れに沿ったものと言えます。その当時、私はオークション方式か、利用料方式かに関して、“技術面、市場・需要面双方とも変化の大変激しい電波関係産業においては、オークションの果し得る役割は限定的であると考えています”(情総研ホームページ、ICR View2009年8月掲載「マニフェスト(政権公約)と情報通信産業・サービス」)と述べました。現在でもこの考えに変化はありません。特に、新技術や新サービスに必要な周波数については、方式や技術的整合、サービスや製品の展開など種々の要素を勘案しても将来の変化を予測することは困難です。従って、将来のどこかで方針の見直し・変更、周波数の移行・再編が避けられないものと覚悟して、その時に対応が容易な制度設計を予めしておく必要があると思います。もし、オークションによって長期間(10〜25年)、使用権が固定的に取得されてしまうと後からの周波数の移行・再編が大変難しくなることでしょう。もちろん、獲得した周波数の転売を認めることで一部は解決可能でしょうが、それでも周波数利用計画全体の整合性の確保は保証されないので電波の体系的な有効利用からは好ましくありません。そもそも電波管理が国家に独占的に委ねられている理由は、有効利用を図り得る体系を確保・維持することにあります。確かに、オークションに付される周波数だけに限定すれば入札という競争によって経済価値が適正に評価され有効利用が進むという考え方は一理有ります。しかし、それはオークションに付されるその時点で判断される電波の利用方法を基準にしており、将来、違う形の利用方法があり得ることに着目していません。オークションの果し得る役割は限定的との考え方のポイントはこの点にあります。

  オークションであれ、審査による割り当てであれ、想定どおりに利用が進めば大きな問題は有りません。問題は免許発行後、数年も経つと事情が変わり、技術や需要が大きく変化することがしばしば起こっていることにあります。こうした場合には、新技術や新サービスの時に生じない追加コストの問題が発生します。つまり、既存の免許を受けた事業者が周波数を移行したりサービスを変更する費用が追加的に発生し、これを誰が負担するのかが改めて問題となる訳です。政府の規制改革で指摘されているとおり、再編後の周波数を新たに利用する者が市場原理を活用して負担するという考え方は電波利用の全体の整合性を図る立場とも矛盾せず妥当なものと考えられます。

 本来、新技術・新サービスを進める際の新規の電波免許は、言葉としては反語的ですが、オークション方式ではなく審査による割当て方式の方が、その後の変化に応じられるよう免許期間や電波利用料の水準、さらには今回の政府の規制改革で指摘されているように免許期間途中での移行・再編の方法などについて弾力的な制度設計が可能なので望ましいと言えます。また、免許を受けた後の期間途中での移行・再編の場合の追加的な電波免許では、既存事業者か既存技術・既存サービスを用いた方式が想定されるので、移行・再編にかかるコストがある程度経験的に積算可能であることからオークション制度の考え方を一定の幅の中で運用することは意義あることと考えます。

 もちろん、その前提として、周波数の将来の利用計画(移行・再編計画を含めて)を政策展望はもとより、具体的な周波数帯やそれぞれの利用技術・サービスの種類、免許期間などをオープンにして進めることが何よりも重要です。短期的な景気動向、経済情勢や競争事情、事業者の思惑などに左右されることなく、また、直接的な財政上の収入確保を目的とするのではなく、無線を活用する情報通信サービスの利用者の利便を向上し、情報通信産業の発展や国際競争力の強化に資する枠組みを構築する必要があります。周波数の移行・再編に際してのコスト負担に基づく収入も、一般財政収入ではなく電波利用料の一部としてプールするなど電波の有効利用のために使用するのが本筋です。それによって、電波利用料が安定的に維持されるばかりでなく、中長期的に無線関連の情報通信産業からの継続的な税収確保につながることでしょう。

株式会社情報通信総合研究所
代表取締役社長 平田 正之

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