2010年11月10日掲載

2010年9月号(通巻258号)

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コラム〜ICT雑感〜

映画「ジェイン・オースティンの読書会」とSNS

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 2007年に公開された映画だが、ノンフィクション作家の日垣隆氏が著書のなかで薦めていたのを読んで、最近になってDVDを借りてみた。推薦の理由は読書会の良さがよく分かるということだったと思うが、確かにこの映画を見るとちょっと読書会をやってみようかという気が起きてくる。

 悲しいことがあった友人を元気づけるために、読書会が企画される。年齢や経歴が様々な5人の女性と男性1名が参加することになり、それぞれリーダーを決めて毎月一冊ずつ読んで語り合う。オースティンの6つの長編小説を媒介に、それぞれの人生に対する考え方が取り交わされる。ジェイン・オースティン(1775〜1817)は、「高慢と偏見」や「エマ」で知られる英国の小説家である。愛読者ではないので、読書会で交わされる意見やそれに託された思いは、正直なところ良く理解できなかった。これから見る人は、きちんと読んでからの方がよいかも知れない。それでも、この映画は十分に楽しむことができた。それぞれの私生活における出来事を絡めて、互いの思いが錯綜しながら心のつながりができていく様子が、上手に描かれているからだ。映画の冒頭に携帯電話で話す街角の人々を映すカットが続くのは、この映画が人と人とのコミュニケーションを描いているというメッセージなのだと思う。

 ところで、ジェイン・オースティンの長編は著作権が切れており、プロジェクト・グーテンベルク(http://www.gutenberg.org/)でテキスト化され、無料で提供されている。アマゾンのkindleやアップルのiBooksでも手に入るので少し読んでみた。日本語翻訳版がないのは残念だが、英語であれば割と快適に読める。例えばkindleにはマーカの共有機能があるので、色々な人がどこで感動したのかを知ることもできるだろう。もしかしたら、ヴァーチャルな読書会はいたるところで始まっているのかも知れない。先日公開されたアップルiTunesの最新ヴァージョンには、音楽を媒介とするSNS機能が組み込まれた。好みのアーティストをフォローしたり、趣味の近い人がどんな曲を聴いているのかを知ることができ、互いにコミュニケーションができる。同じ発想は書籍でも可能だし、特定の書籍をテーマにする電子会議室自体は随分昔から存在する。今後は、こうしたコミュニティが成立するハードルが一層低くなっていく。

 ネットワーク上で意見をやりとりすることと、実際に集まって話をすることの間には、依然として大きな隔たりがあるように思う。しかし、どのくらいリアルに近いコミュニケーションが交わせるかどうかは、技術や工夫によって変わってくる。人と人とのコミュニケーションがどこまでヴァーチャル化できるのかについて、今後も様々な試みがされるはずである。ところで、映画では6人が読書会に向けて、それぞれ本を読むシーンが効果的に入る。つまらない感想だが、これがもし電子書籍で読んでいるシーンになると、今のところ何となく軽く見えて絵にならないような気がした。人の感覚にしっくりなじむまでには、多少の時間がかかるということだろう。

法制度研究グループ部長 小向 太郎

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