2010年9月27日掲載

2010年*月号(通巻256号)

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InfoComモバイル通信T&S

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[tweet] 巻頭”論”

M2Mプラットフォームによる情報の資産化

 最近の2カ月、この欄で「インフラ・ネットワークの重層化」が進展することを述べてきました。それは、(1)当面、無線ネットワークの3Gが基盤でLTEがオーバーレイしていく、(2)高速大容量の光ファイバー回線やWi−Fiが加わる、さらに(3)マルチメディア放送などが合わさり、複数のネットワーク技術が一つ又は少数の端末でシームレスに融合されていくと予測したものです。この前提として、映像系を中心にデータトラフィックが百倍以上(正直言って予測不可能なレベル)になること、特にダウンロードが大量化すること、ソーシャルメディアなど発信が即時化して情報流通の集中化が加速すること、が挙げられます。サービス面ではユビキタスの特長(今だけ、ここだけ、あなただけ)から無線ネットワークが基盤となることには変化はありません。

 こうしたネットワークの重層化が進展する構造下では、従来以上にネットワーク・インテリジェンス機能を発揮するプラットフォーム・レイヤが主役になると思っています。現在のところは、認証、課金、配信、検索など対人サービスが主流となっていますが、センサーや位置情報などのデバイスの発達と無線ネットワークの普及に伴って、M2M(マシン・ツウ・マシン)プラットフォームの役割が高まって収集・蓄積される情報を活用する=情報資産化する動きが加速することでしょう。直接の人対人の通信ではないM2M通信ではデバイスの発達によって無限のポイント(地点、時点)からの情報を収集・蓄積することが可能です。こうした大量の情報処理を能力面およびコスト面で可能とする技術としてクラウド(仮想化)技術が現実化して分析・評価・意味付けが可能となっていますので、情報資産を活かす新たなサービス創造が出来るようになっています。情報資産の重要性に気付き始めた米国の事業者の間でM2Mプラットフォームの主導権競争が活発化しています。また、中国でもM2Mとほぼ同義の「物聯網」が国策的に提唱され新しいブームとなっていることも注目されます。

 情報資産の活用と言うとこれまでは高付加価値サービス、例えばライフログやハイエンド商品のアフターフォローなど商品価値の向上がユビキタスサービスの中心でした。例えば、NTTドコモのiコンシェルがこの典型です。さらなる発展が期待されるところです。一方、新規市場として、大量情報の蓄積が新しい価値=コンテンツを生み出します。検索広告や商品の推奨情報など初期的な対人サービスは既に普及していますが、今後は、クラウド技術を活用したM2Mサービスが発展するでしょう。例えば、話題となっているスマートグリッドは、電力需要・供給情報を資産化しコントロールするという、M2Mプラットフォーム・サービスの典型的なアプリケーションの例です。米国では早くからこうしたM2Mプラットフォームによる情報資産についての取り組みが進んでおり、特にスマートグリッドの分野では、AT&T、IBM、Cisco、Oracle、グーグル、マイクロソフトなど多くの企業によってスマートメーターとクラウドコンピューティングを結び付けたM2Mプラットフォームの取り組みが盛んに行われています。AT&Tとベライゾン・ワイヤレスの主要モバイル通信事業者は、MVNOやソリューションベンダーを通じてSIMを提供すると同時に、 M2Mプラットフォームを自社内や子会社を通じて構築しています。適用分野はまだ自動車や高級品の盗難・紛失への対処や車両運行管理を行うフリートマネジメントが中心ですが、今後はリアルタイムの交通状況を収集して渋滞情報としてカーナビに提供するサービスや家庭内・オフィス内の電力消費情報から最適化した使用パターンをITで制御するサービスなどが想定されます。

  我が国では、こうしたM2Mプラットフォーム・サービスは花粉情報サービス(NTTドコモ)などまだ限定的なものですが、今後は携帯電話機を含めて様々なデバイスが開発されて情報の収集・蓄積方法や範囲が多様化され、M2Mプラットフォームの構築が加速されていくと思います。ICT分野から見る限り、スマートグリッドを電力事業の送配電業務と捉えてはいけません。分散発電、電力消費といった電力の需給情報を資産化することでBtoBでも、BtoBtoCでも新しいビジネスが可能となります。需給の最適化技術はICT産業の最も得意とする分野であり、通信ネットワークが情報資産によって活用される途です。

 ユーザー/消費者の利用(使用)時点での情報は、生産者/販売者にとっては最も貴重な価値ある情報です。“ケータイ”(電話機およびSIM)を利用した情報収集の方法の多様化が図られることにより、さらに情報資産の重要性が高まって行きます。人の手では大量かつ複雑過ぎて収集出来ず、また、ひとつひとつは無視されるような小さな情報の集積が社会経済を成り立たせているという原則に立ち戻ることが大切な時代を迎えている訳です。

株式会社情報通信総合研究所
代表取締役社長 平田 正之

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