2010年7月22日掲載

2010年6月号(通巻255号)

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InfoComモバイル通信T&S

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[tweet] 巻頭”論”

通信市場では大きな変化が目白押し

 2010年度が始まって2カ月余り、最近、情報通信の分野では大きな動きが続いてます。これはネットワーク事業者だけでなくユーザーにとっても大きな変化の兆候と言えるものです。

 例えば相次ぐスマートフォンの発売と販売激化に始まって、SIMロック解除論争、iPadの登場(=タブレットPCの拡大)、Wi−Fiの利活用、無線ルーターの普及、ツィッターやユーストリームなどソーシャル・メディアの浸透、さらには、“データARPU>音声ARPU”の進展など、端末からネットワーク、サービスに到るまで本当にいろいろな変化が表れています。最近のこうした動きを総合的に捉え将来の方向を占ってみたい。また、何故、こうした変化が短い間にまとまって起こるのか、その底流を考えてみます。

  iPhoneが火をつけたスマートフォンやiPadなどのタブレットPCの登場は、単純な端末機能の向上という枠を超えた新しい世界を作り出す原動力となっています。広く世界を対象としたアプリケーション・ストアの出現や電子書籍・電子新聞の一般化をもたらし、また、人々の活動において、ツィッターやユーストリームなどが社会化現象(socialization)を起こしています。情報通信のユーザーにとっては新しい時代が始まった感じではないでしょうか。

  また、ネットワークとしても従来の3Gや光ファイバー回線だけでなくWi−Fiの利活用が進み、さらには、コグニティブ無線ルーターが必要となる状況となっています。つまり、ユーザーが音声ではなくデータトラフィックをより多く利用するようになり、特に、映像を多く流通させるようになったため、ひとつのインフラ・ネットワークだけでは満足せず不十分と感じ始めていると思います。これまでは、ネットワークは統合的に提供されることを良しとし、ネットワーク事業者も契約によってユーザーを囲い込むことを第一義として来ました。その結果、今回の携帯各社の決算で明らかになったように、データARPUが音声ARPUを上回る勢い(予想)となっています。ユーザーは雪崩を打つように大きくデータ利用に進んでいます。こうなるとデータ通信では料金も定額契約が一般化していますので、ユーザー側がむしろ環境や状況に応じて最適なネットワークを選択することが起って来ます。それこそ無線ルーターの出番であり、Wi−Fiの価値の再認識に繋がるものです、無線ルーターが繋ぐのは3Gなどのモバイル回線だけではありません。固定の光ファイバー回線をも接続します。FMCが言われて久しいですが、いよいよインフラ・ネットワークが本格的に融合する時代となりそうです。

 SIMロック解除の問題もこうしたユーザーの利用方法の変化の流れから見る限り、当然、ロックフリーの方向でしょう。通信事業者がユーザーを囲い込むのではなく、ユーザーがネットワークを環境や状況、目的に応じて使い分ける時代なのです。無線ルーターばかりでなく、テザリングが可能な携帯端末も登場しています。囲い込み戦略のために、「SIMロックは武器、渡せない」(産経新聞 2010.5.15)との意見も見られますが、ユーザーの立場からは大きな時代の流れ利用動向に沿ったものとは言えません。SIMロック解除を前提としたネットワーク作り、インフラ・ネットワークの重層化が進んでいくことになります。

 ネットワーク事業者ではなくユーザーが主役のネットワーク利用の時代では、基盤となるのは当分の間、無線ネットワークの3Gでしょう。その上に高速大容量を特色とする光ファイバー回線が加わり、 Wi−Fiが参加する形が大勢となると思います。もちろん、地域によってはWiMAXもあり得るし、ADSLも可能です。さらに、無線の高速大容量方式であるLTEが加わって、ネットワークの重層化が一層進展します。ユーザーの立場からは誠に望ましい姿です。高速ブロードバンド回線が環境や状況に応じて使い分けられる訳ですから、コグニテイブな無線ルーターの利用が必要となるでしょうし、その小型化簡便化が求められます。

 一方、ネットワークの重層化をさらに拡大して考えると、マルチメディア放送の存在が浮かび上がって来ます。携帯端末が映像放送受信機となり、ワンセグとは違って個別課金可能な放送サービスが出現します。こうなるとネットワークの重層化は通信だけでなく放送にも及ぶことになります。今夏には、マルチメディア放送の無線免許が下りると言われていますが、単に放送分野の多様化ではなく、ユーザーの視点に立ってネットワークの重層化に沿った方向を期待したいところです。

 最後に、こうしたネットワークの重層化の流れの中から今後の市場構造の変化を占ってみます。先ず第一に、引き続きプラットフォーム・レイヤが主役ではありますが、乱立気味のアプリケーション・ストアの淘汰が始まり、良質なアプリケーション/コンテンツは残るでしょうが選別がより厳しくなりそうです。個別課金・回収が可能となっていますので、良質なコンテンツに注目が集まり、ワンコイン・レベルのサブスクリプション・モデルが普及・拡大すると予想します。プラットフォーム・レイヤに対してアプリケーション/コンテンツ・レイヤの復権の兆しがあります。

 また、ネットワーク・レイヤでは重層化の進展に従って定額料金のさらなる革新が進むことでしょう。段階型定額料金の一般化は新しい姿をした従量制でもあり、それぞれのインフラ・ネットワークの共通の方式となると思います。携帯だけではなく固定でもダブル(段階型)定額料金が必要な時代です。こうした段階型定額料金制度によって、ネットワーク制御との整合が図られ、プラットフォーム・レイヤとの協調関係が保たれるのです。ユーザーから見れば自分の生活(使用パターン)に合わせて段階型定額料金を選別組み合わせることがポイントとなり、また、ネットワーク事業者による融合的な段階型定額料金やサービスの組み合わせに合致した機器やチップの開発を求めることになります。そこでは携帯も固定も放送も含まれるでしょう。

 残念ながら、この四半世紀、我が国では通信サービス提供の個別化が残置されて世界の流れとは違う方向となってしまいました。世界の先頭に立った通信市場の改革もサービスの融合化が図られず止まってしまっています。これは新しい姿の“ガラパゴス”現象ではないでしょうか。ネットワークの重層化のための規制緩和や政府の支援策、またNTTの事業活動の融合など情報通信産業構造の抜本的な議論が必要です。25年間大きな変化なしでは世界とは隔絶してしまいます。

株式会社情報通信総合研究所
代表取締役社長 平田 正之

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