2010年6月1日掲載

2010年4月号(通巻253号)

ホーム > InfoComモバイル通信T&S >
InfoComモバイル通信T&S

※この記事は、会員サービス「InfoComモバイル通信ニューズレター」より一部を無料で公開しているものです。

[tweet] サービス関連(コンテンツ・放送)

東京国際アニメフェア2010に見るアニメコンテンツ配信の動向

 2010年3月、東京ビッグサイトで「東京国際アニメフェア2010(TAF2010:Tokyo Internatinal Anime Fair 2010)」が開催され、国内外の大小アニメーターやテレビ局などの各種コンテンツ事業者200社以上が出展した。

  今年で9回目を数えるイベントとなったこのTAF2010は、展示会であると同時に、期間中にコンペティションや各種イベント・シンポジウムも開催される大規模なもので、アニメの現状をあらゆる角度からとらえられる場となっている。今回はパブリックデーが土日に設定されたこともあってか、入場者数も13万人を超えるものとなった。海外からのビジネス来場者数も前年比106%と、衰えを知らない日本アニメのパワーを感じさせるものであった。

  昨年も同様のレポートをお伝えしたが(2009年4月号参照)、今年はその内容も踏まえつつ、昨年との違いに主にフォーカスしながら、アニメ産業を取り巻く現状についてお伝えすることとしたい。

<参考>東京国際アニメフェア2010 概要

出所:東京国際アニメフェア2010公式サイト

開催時期 2010年3月25日(木)〜 28日(日)
【ビジネスデー】3月25日(木)/ 26日(金)
【パブリックデー】3月27日(土)/ 28日(日)
会場 東京ビッグサイト
出展企業数 44社(うち海外59社)
※2009年:255社(うち海外56社)
来場者数 132,492名(速報値)
※2009年:129,819名

 筆者が訪れたのはビジネスデーだったため、会場内はスーツ姿のビジネスマンの姿が目立った。また海外からの来場者もあちこちで見かけたが、その多くはアジア地域からの訪問者のように見受けられた。

【会場の様子】
【(左・右)会場の様子】
【会場の様子 】

中小アニメスタジオの活気

 筆者がTAFを訪れたのは今回が3回目であるが、一昨年・昨年と比べ今年は、全体として大手コンテンツホルダーよりも中小規模のスタジオやその集積地が、いきいきと活気を持っている印象であった。例えば東京都練馬区は、例年よりもやや力の入りを感じさせる大きめのブースで出展していた。東京都の北西部、練馬区から三鷹市あたりにかけては、アニメスタジオが集中しており、いわばアニメ基地となっているエリアである(特にスタジオの集中している杉並区・練馬区・武蔵野市・三鷹市近辺を総称して、それぞれの頭文字を取った「SNMM」などと呼ぶこともある)。練馬区はアニメ産業を区の重点事業のひとつに据え、アニメ産業のさらなる発展と区内経済の振興に役立てようとしている。ブース内では各スタジオの作品や区の取り組みなどについて紹介を行い、活況をアピールしていた。

【東京都のアニメ集積地である練馬区もブースを出展】 【東京都のアニメ集積地である練馬区もブースを出展】
【(左・右)東京都のアニメ集積地である練馬区もブースを出展】

海外アニメーターの取り組み〜中国の勢い目立つ

 昨年のTAF2009では、台湾が6企業からなるブースを出展していたが、今回は見当たらなかった。代わってプレゼンスの大きさを感じさせたのが中国勢。例年出展している<中華人民共和国文化部>(日本の文化庁に相当)のほか、今年から新たに<中国成都市商務局>が独立したコーナーを構えていた。

  成都市は四川省の省都であり、比較的内陸に位置する。中国南西部の中心都市のひとつで、科学技術や金融、通信などの中枢として機能しているところである。ブースの説明員に話を聞いたところ、「成都は長い歴史がある一方で、新しいものを積極的に取り入れようという意欲も強く持っており、アニメを生み出すのに適した土壌がある」とのことだった。

  展示されていた作品は、パンダを主人公としたものや、成都の街を舞台としたものなど、見る人に中国を想起させる、しかしどこか新鮮さも感じさせるものであった。アニメのタッチを見ても、Pixarなどアメリカのスタジオの作品を彷彿とさせるような、あのつるりと立体感のあるキャラクターデザインが目立ち、最初から国際展開を視野に入れて制作されていることが伺えた。

【中華人民共和国文化部のブース。左は日中合作アニメ「三国演義」、
右は中国国産アニメで大人気を誇る「喜羊羊と灰色狼」】 【中華人民共和国文化部のブース。左は日中合作アニメ「三国演義」、 右は中国国産アニメで大人気を誇る「喜羊羊と灰色狼」】
【(左・右)中華人民共和国文化部のブース。左は日中合作アニメ「三国演義」、右は中国国産アニメで大人気を誇る「喜羊羊と灰色狼」】
【中国・成都市のブース。今回初出展とのことだった】 【中国・成都市のブース。今回初出展とのことだった】
【 (左・右)中国・成都市のブース。今回初出展とのことだった】

 また今回は、中東・ドバイからの出展があったのも印象的である。ドバイで2008年より開催されている、アニメをはじめとしたエンタテインメント系コンテンツや商標などのライセンシング見本市「ドバイ国際キャラクター&ライセンシングフェア」の商談ブースで、展示作品があったわけではないが、<中東から日本のアニメフェアへの出展>という点が新鮮に映った。中東では現在、日本のアニメが一部のマニアの間でアンダーグラウンド的に広がりつつある。しかしその多くはネット上の海賊版によるものとのことである。中東には、宗教上の戒律が厳しい国もあり、考慮すべき課題は多い。しかし正規版ライセンス契約が締結でき、放送や販売などのチャネルが利用できるようになれば、今後時間はかかるかもしれないものの、日本アニメにとって期待の持てる市場のひとつになるのではないかと考える。

携帯配信はもはや当然か

 昨年は、ポスターにモバイルポータルのURLやQRコードを掲載したり、QRコードを印刷したカードやパンフレットを配布したりといった企業が多かった印象があるが、今年はそういった携帯端末にかかわるような盛り上がりをさほど感じなかった。また実機によるモバイルマンガ配信のデモ  コーナーや、非接触型リーダーを経由したプレミアムコンテンツのダウンロードサービスなども、各社かなり縮小していた印象があり、携帯へのアニメコンテンツ配信がもはや「新しいもの」ではなく、当然のものとして定着しつつあるのではないかという感がある。

日テレの実機デモコーナー。昨年は端末が10台くらい展示してあったのだが、今年は台数もスペースも半分近くに縮小

iPhoneのアプリケーション「ibutterfly」と「もやしもん」のタイアッププロモーション

キャラクター商品取り扱いブースの増加

 (アニメの)キャラクター、もしくはキャラクターを商品化したもの(いわゆる二次創作物)の盛り上がりが感じられた。キャラクターグッズの販売や展示に力を入れるアニメーターが多くみられた(例:電通など)ほか、日本全国のご当地キャラクターを紹介する<ご当地キャラ紹介>コーナーなども設置されていた。都道府県レベル、さらには地域商店街レベルまで、さまざまなキャラクターを紹介することで、地域経済の振興につなげたいという意図があるものと思われるが、少し違った見方をすれば、デジタル化の進展、それに伴うケータイコンテンツの普及や(特に海外における)海賊版の流通などにより、アニメコンテンツそのものが徐々にコモディティ(=日用消費財)化し、大きな収益が上げにくくなっており、新たな収益の柱として周辺産業であるキャラクタービジネスに期待が集まっている結果とも言えよう。


電通ブースでは、「豆しば」のキャラクター商品を多数陳列・販売

「全国ご当地キャラクター一覧」。「まりもっこり(札幌市)」、「せんとくん(奈良県)」など、地域経済振興を見込んだご当地キャラクターらのマップ

北海道で販売されている「ガラナ」飲料(ガラナの実を使ったほろ苦い炭酸飲料)。ご当地キャラクターは、地元の特産物などをモチーフに、大胆なアレンジやネーミングを施したものも多く、「まりもっこり」のように最初からウケ狙い目的のものもある。


奈良日航ホテルに貼ってあった奈良観光振興ポスター。ポスター画面下部のせんとくんをアップで撮ったもの。「まっててね。」「まってるよ。」というキャッチコピーと鹿とともに映っているせんとくんがちょっぴりシュール】

アニメ産業の今後の方向性

 先日、アップルの新製品「iPad」が米国で発売され、キンドル(アマゾン)なども含めた、いわゆる「電子書籍(eブックリーダー)」に世界中から注目が集まっている。これは<デジタルコンテンツの出口>(=ウィンドウ)が増えることを意味するが、同時に一方で、今後は世界規模で、コンテンツのコモディティ化が急速に進展し、マンガや雑誌といったコンテンツを、語弊はあるが<気軽に使い捨て、読み捨てる>傾向がますます強くなるであろうことも推測される。そうした中で、キャラクターグッズのように「形」を持つ商品に軸足がシフトするのはいわば当然の流れであろう。

  アニメの広がりを国際的な意味で考えると、日本のアニメに感化され、世界各国でアニメを独自に作り出そうという機運が高まっている。特に中国は現在、国策として政府が補助金を投入し、アニメ基地を作ったりアニメーター養成学校を設立したりしている。前述の成都市も積極的である。成都高新技術(ハイテク)開発区政府は、各アニメーターの開発コストを削減させる目的で、ビデオ編集・ソフトのテスト・モバイル技術などの各種機能を統合した「デジタルメディア公共技術サービスプラットフォーム」を構築したという。このように開発環境(=アニメ制作インフラ)を整備することで、より高品質な作品を、より低コストで製作できるよう、政府が尽力しているのが、現在の中国の姿である。今後、中国の独自3G携帯技術であるTD−SCDMAと同様、開発されたアニメ制作インフラやそのノウハウを、新興国をはじめとする諸外国へ展開しようとする動きもみられるかもしれない。

  <文化>という人々の気質や智恵が編み出すソフトウェアを、<テクノロジー>でサポートし大きく成長させようという発想は、「神の手」「匠の技」といった言葉に現われているように、アニメーター自身の創造性を重視してきた日本アニメ界には、さほど強く見られない傾向のように思われる。しかし、他の産業を考えても同様であるが、中国のようなアニメ新興国が、最新の技術を導入もしくは開発することで、効率的に、短期間でチェーンを構築し成熟させたいと考えるのは当然であり、さらにそうした中からこれまでになかったような斬新な作品が誕生する可能性はまったく否定できない。<文化>と<技術>のどちらが良い悪いといった問題ではなく、現在のアニメ産業を考えた時に、世界の多勢は技術オリエンティッドだというのが現実なのではなかろうか。

埋田 奈穂子

InfoComモバイル通信 T&Sのサービス内容はこちらこのコーナーは、会員サービス「InfoComT&S ?World Trend Report」より一部を無料で公開しているものです。総勢約20名もの専門研究員が海外文献を20誌以上、常時ウォッチしております。

詳細記事(全文)はT&S会員の方のみへのサービスとなっておりますのでご了承下さい。
サービス内容、ご利用料金等は「InfoCom T&S」ご案内をご覧ください。

▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。