2010年1月31日掲載

2009年12月号(通巻249号)

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[tweet] コラム〜ICT雑感〜

アイルランドの急成長の背景

 最近、世界各国がアイルランドの産業振興策に注目しています。

 30年前までは、アイルランドの産業といえば、ジャガイモと移民とまで揶揄されヨーロッパの最貧国と言われていました。ところが、2007年には1人当たりの国民総生産がEUの中でルクセンブルグに次いで第2位、OCED諸国の中でも第4位にランキングされています。かっての貧しい農業国が、北欧諸国のようなICTを中心とした先端産業に支えられた科学技術立国を実現させてしまったのです。人口400万人ほどの小国のこととはいえ、このような変貌を遂げたことに対し、世界の国々のみならず日本の地方都市も注目しない訳がありません。

表:OECD諸国の一人当たり国内総生産(名目GDP)(米ドル表示:暦年)
表:OECD諸国の一人当たり国内総生産(名目GDP)(米ドル表示:暦年)

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 OECD諸国の一人当たり国内総生産(名目GDP)において、アイルランドは1990年が19位、2007年には4位となっています。日本は逆に1990年は8位、2000年には3位となりますが2007年には19位となり、まったく逆の位置関係になっています(表)。アイルランドでは1990年代にICTを始めとする先端産業の集積が経済成長に大きく貢献していたようです。私がアイルランドを訪問したのは、外資企業の誘導が功を奏した後の1998年でした。その時すでに、IBM、コンパック、インテル、デル、ヒューレットパッカート、マイクロソフト、シティバンクなどの米国企業455社が進出し、アイルランド人8,000人を雇用しています。日本企業も富士通、NEC、日立、松下、アルプス電気、オリンパス、CSKなどのICT企業や武田薬品、藤沢薬品、花王、などバイオ関連企業など74社がアイルランド人4,500人を雇用しています。

 アイルランドが外資導入に成功した理由には、

  • 公用語として英語も使用しており、特に米国資本にとって好都合であること
  • 教育に力を入れていたため教育レベルの高い労働力を提供できること
  • 外資に対し法人税をEU圏で最低の12.5%に抑えたこと
  • 小国ゆえ産業界と政府とのコンセンサスができやすかったこと
  • 首都ダブリン市内やその近郊に産学官連携によるビジネスパーク、ビジネスセンター、テクノパー クなど知識集約型産業向けの用地が整備されていたこと

などがあげられています。

 その後について政府担当官は、ソフトウェア産業や電気通信サービス産業の育成にも力を入れたいとして、ICT技術者、技能者を育成するための学校を増やしたいと言っていました。事実、自国からもハイレベルな世界的な企業が次々と生まれています。その結果、米国に次いでソフトウェア輸出大国にもなっているようです。

 現在の日本の状況を見ると、小国とはいえアイルランドのことが思い出されてなりません。科学技術に関しては新政権も前政権同様に重視する方針のようですが、先の2010年度の予算を巡る仕分け作業のいきさつをみる限り、新政府は科学技術に対してあまり重要視しているようには思えません。子供手当で育った次世代が大人になった時、時代に適合していく様々な先端産業群が育っていなければなりません。科学技術の振興と人材育成には息の長い継続的な投資が必要です。

社会公共システム研究グループ
常務取締役 高橋 徹

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