2009年12月25日掲載

2009年11月号(通巻248号)

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[tweet] コラム〜ICT雑感〜

ネット動画ビジネスは離陸するか?

 KDDIの11月2日付け報道発表によると日本〜米国間光海底ケーブル「Unity」(総延長9,600km、最大4.8テラビット毎秒)の日本側陸揚げ工事が11月1日に完了した。米国グーグル、インドのバーティ・エアテル、マレーシアのグローバル・トランジット、香港のパックネット、シンガポールのシングテルとの共同建設により、日米間のインターネットや大容量化の進む企業間通信等の通信需要に対応するため2010年春の運用開始を予定している。またNTTコミュニケーションズは5月25日付けで、日米間海底ケーブルPC−1(総延長21,000km、最大3.2テラビット毎秒)を保有し、海底ケーブル事業を提供しているパシフィック・クロッシング(英領バミューダ)の全株式を取得すると報道発表した。両社ともアジア・日本・米国間のインターネット・データトラヒック需要の増大に備えるための投資であり、昨年来の景気低迷の影響で企業間通信等の伸び悩みがあるものの、2009年に入ってからのYouTubeをはじめとするネット動画サイトへのコンシューマ市場でのインターネット利用拡大の状況を見ると、今後の動画配信サービス普及へのタイムリーなインフラ整備といえる。

 動画コンテンツを充実したいグーグルと配信先を増やしたいテレビ局の思惑が一致し、TBSとテレビ朝日がグーグルと公式コンテンツパートナー契約を締結した。グーグル独自の違法投稿動画検出システムの利用をはじめとした違法投稿動画対応の運用確立の見通しが立ったと判断し、民放キー局としては初めて9月29日からグーグルの動画配信サービスYouTubeにTBSのニュースやテレビ朝日系列26放送局のANNニュースなどの動画を提供することになった。テレビ局としては、集客力の絶大なYouTube上の公式チャンネルから自社配信サイトへの誘導、地上波番組との連動企画などによりブランドプロモーション、番組プロモーションを図ることにより広告収入減収へ歯止めをかけたいとの狙いのようだ。視聴は無料で、広告収入をテレビ局とグーグルで分配する方式で、順調に滑り出せば今後ネット上へのコンテンツ配信を行う流れが進みそうだ。一方、違法動画検出システムをまだ信頼できないとしてグーグルとの提携に踏み切らなかったフジテレビと日本テレビは、ヤフーの子会社となったGyaoへそれぞれ7%出資すると9月4日発表した。日本において権利処理済みの映像配信を行う最大の動画サイトであるGyao!において、フジテレビは9月7日からGyao!ストアでフジテレビOn Demandの支店を開店し、番組の不法投稿が横行する中、正当な動画コンテンツの株主としてきちんとした市場の育成を図りたいとしている。また、日本テレビはGyaoとの連携により、無料広告モデル、課金モデル、EC連携モデルなど、映像ビジネス全般にわたる協業の検討を行い、インターネットでの動画ビジネスのさらなる強化を図ることとしている。

 テレビ局の提携相手は多様だが、テレビ各社が動画配信へ本腰を入れ始めたのは確かで、ビジネスモデルとしては有料課金型と無料広告型とが混在し各社の模索がしばらく続く。NHKオンデマンドとフジテレビOn Demandは有料課金型を指向し、TBSオンデマンドは無料広告型を試行的に展開する。第2日本テレビは当初採用した有料課金型を断念し、ネットとテレビを組み合わせたクロスメディアで広告費を確保する方が手堅いと一旦無料広告モデルに戻し集客力を回復した。テレ朝bbは、ネットは現段階ではテレビという訴求力の大きいメディアから派生したツールという捉え方を崩さず有料と無料をバランスして展開している。番組に収録できなかった映像や、番組収録後のスタッフ反省会の 模様などテレビ番組と連動したコンテンツにアクセスが集まり、高コストで現段階ではその機が熟していないと考えられるネット独自のコンテンツを制作するよりリスクも小さい。

 個別に見ると、1月8日にテレビ東京と提携し、日本のアニメの海外ストリーミング配信で成功している米国ベンチャー企業クランチロールの取り組みが注目される。テレビ東京がライツホルダーであるアニメ「NARTO」を配信開始、世界各国450万人の会員へ月額7ドルで日本の放送から1時間以内に字幕付きで配信、1週間後には解像度を下げCM付きで無料配信している。有料モデルが成立しているのは、日本での放送と同日に配信していることにコアなアニメファンの欲求が合致しているからだそうで、そのため放送日の4〜8日前にはライツホルダーから映像と台本をもらい翻訳作業を実施している。放送直後の配信が違法サイトの追随を許さない歯止めにもなっており、昨年と今年を比較すると海賊版のダウンロード数は74%も減ったという(日本法人社長ビンセント・ショーティノ氏)。人気のある韓流ドラマなども配信しており、200タイトル、5,000本の映像が月額7ドルで見放題という価格設定も成功の要因となっているそうだ。

 携帯向け動画配信サービスも好調だ。NTTドコモとエイベックス社が5月1日に開局したBeeTVは、出演者や制作関係者らへの収益分配モデルでクオリティの高い作品づくりを狙い、パケット定額制の値下げの実施により加入のハードルが緩和され、月額315円で見放題の小額課金モデルで順調に成長し10月末で80万加入、月間10万人以上のペースで増加している。“旬”の俳優を起用した恋愛ドラマや芸能人のムービー・ブログなどに人気があり、不安視された1話2分の海外ドラマもリピーターを増やしている。ニコニコ動画との連携では、生放送の視聴も実現している。ソフトバンクモバイルもG.T.エンターテインメントと協力して携帯電話向けにオリジナル編集したスポーツ情報や芸能ニュースなどの配信を5月19日から開始し、番組をメールするサービスや、プロ野球、Jリーグの試合結果についてのチームごとの画像購入に独自性を発揮し、利用者の投票によって月間チャンピオンが決まる仕掛けを組み込んだ「S−1バトル」が好評で6月の投票数は80万票に達した。KDDIは「リスモ チャンネル」でドラマ、インタビュー番組を無料配信、現役アナウンサーが出演する地上波では描けないドラマに特徴を打ち出している。

 電経新聞5月18日号「どう向き合うネットとマスコミ(6)」の中で北島圭氏が引用しているテレビ朝日コンテンツビジネス局クロスメディア専任局長古川柳子氏の「メディア毎の議論はそろそろ終焉する、テレビ業界はメディア業界の一分野となり、自分たちの強みを生かす形で成長していくだろう」「将来のコンテンツ制作は多彩なスクリーンが前提となる。テレビのためだけのコンテンツを作るのではなく、1つの動画をどのメディアに、どのタイミングで、どういうデザインで出していくのかという戦略が大きな意味を持つだろう」との見通しが示唆に富む。離陸する兆しをみせているネット動画ビジネス成功のカギは、有料課金型と無料広告型とのバランス、メディア特性にあったコンテンツ制作、複数のメディアや物販などのリアルビジネスを有機的に融合させたビジネスモデルの構築にかかっていると考えられる。

マーケティング・ソリューション研究グループ 取締役 清水 博

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