2009年11月11日掲載

2009年9月号(通巻246号)

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InfoComモバイル通信T&S

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[tweet] 巻頭”論”

コグニティブ無線ルーターの革新性

 先々月の7月15日に画期的な製品のニュースリリースが行われました。当社情報通信総合研究所と同じビルに本社を構えるNTTブロードバンドプラットフォーム社(NTTBP/小林忠男社長)から発表された、ポータブルコグニティブ無線ルーター(Personal Wireless Router:PWR)がそれです。この製品、PWRが発表された直後に、いくつもの新聞やインターネット上で特徴の紹介や高い評価が表明されています。また、8月からフィールドトライアルのモニター募集が受け付けられていますが多数の応募があったとのことです。

※小林NTTBP社長は「無線は回線速度を早くしようとすればエリアが狭く、エリアを広くすれば速度が遅くなるのが宿命。こうした、お客様の要望とのギャップをどう埋めるのかをテーマにしてきた」(7月20日付電経新聞)と語っています。

 このPWRは無線インターフェースとしてWAN側が3G/HSDPA/EDGE/GPRSとWiFi、LAN側がWi−Fiに対応しているばかりでなく、WAN側にイーサネットインターフェースを搭載している優れ者です。120gの小型・軽量で、省電力・スタンバイモード機能を有し、長時間のバッテリー使用が可能であり、自動認証機能や接続・設定が簡単に行える機能も有しています。もちろん、製品それ自体には更なる小型化、長時間のバッテリー使用などユーザーサイドが求める多くの課題が残されているのは、他の無線エレクトロニクス機器と同様なのですが、ここでは、このPWRが持つコグニティブ機能の革新性について述べてみたい。

※無線ルーターとしての機能にも、インフラ・ネットワークに接続する無線機器を爆発的に増やし(国内に4,000万台のWi− Fi端末)、ユーザーの特質に応じて利便性を高めるという革新性がありますが、既に、いくつかの製品が発売・発表され ていますのでここでは詳しくは取り上げません。

 今回のPWRはポータブルということで、どこでも持ち運べてどこでも無線LAN環境を自分で構築できるものです。それも、3G/HSDPAと公衆無線LANとに、まさに、コグニティブに(認知して)接続できるのです。WAN側では場所に応じて最適な無線方式を判別してネットワーク接続を提供することができるので、それぞれの端末はPWRに接続してあれば、接続する無線方式を意識する必要がありません。これは何を意味するのでしょうか。ユーザーにとっては、身の回りにあるWi−Fi端末がどこでも適切なインフラ・ネットワークに接続している環境が構築できるのでエリアや速度、機器の特質に見合った多様性が確保できることになります。ユーザー(正確には、PWR)がインフラ・ネットワークを状況に応じて自動的にその都度選択するのですから、いわば究極のサービス選択の姿でしょう。

 これは回線サービスを提供する通信事業者側からすると、契約時や機器選択時にユーザーに働きかけていたポイントがサービス提供時点に移り、かつ、多種多様な重層的なネットワーク接続をユーザー自身が自動的に選び得る事態となります。主導権がいよいよ提供側から利用側に移行して、さまざまなネットワーク接続の組み合わせ・連携が現実化する画期的な(立場を換えれば破壊的な)状況と言えます。ネットワーク間競争が同一/同種方式下のエリアと品質で行われるのはもちろん、異なる方式の間での重層的な競争、それも一社ですべて提供する必要はないので組み合わせ・連携の妙が新しい競争の要となると予想されます。こうなると、大手は大手なりの、挑戦者は挑戦者なりの戦略が成 立して多様な競争が生れることでしょう。また、組み合わせ・連携の先には当然MVNOの進出や展開があると考えられます。

 今回、世界で初めて発表された、このコグニティブ機能付の無線ルーターは端末レベルの問題を超えてインフラ・ネットワーク事業者のあり方にまで重大な影響をもたらすものです。競争局面ばかりでなく、急増する無線トラフィックへの対応にも選択肢が拡大すると同時に、WiMAXやLTEなど新しいインフラ・ネットワークの展開方法にも影響を与えるかも知れません。多様化し数量を増やしているWi−Fi端末をインフラ・ネットワークに接続しつつ、インフラ構築とトラフィック・コントロールに対応し、かつ競争の効果とユーザーの利便性を高めるという多面的な革新性を有する、このPWRの製品化とさらなる課題解決に期待したいと思います。

株式会社情報通信総合研究所
代表取締役社長 平田 正之

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