2009年10月1日掲載

2009年8月号(通巻245号)

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InfoComモバイル通信T&S

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[tweet] 巻頭”論”

情報通信プラットフォームの構造的変化
〜21世紀型ビジネスモデルの追求

 前回のiフォンの発売の際、タッチパネルによる優れたユーザーインターフェイスに注目が集まり大きな話題になりましたが、端末(ターミナル)製品に限って言えば海外の市場で評価された特徴は日本には既に様々な機能を持つ端末製品が存在していたため、米国等で経験されたような大さわぎにはなりませんでした。もちろん、iフォンの使い勝手の良さは定評のあるところであり、発売当日のユーザーの反応はマスコミが多く伝えるところとなっていますが、販売数だけから見るともっと多数販売された端末シリーズがあるのもまた事実です。

 iフォンの特質は一見して分かるユーザーインターフェイスよりもっと深層にあると考えた方がよいと思います。音声通話で始まった携帯通信サービスが大変身を遂げたのは20世紀が押し詰まった1999年にドコモのiモードがインターネット・メールとWebアクセスを開始したことに拠ります。つまり、音声からデータ通信へ、IP通信への途が切り開かれた訳です。これは単に通信メディアが変わっただけではなく、音声が主として1対1の通信を行っていたのに対し、Webアクセスでは1対多の通信が前提となり情報配信業=インフォメーション・プロバイダー(IP)という業種がモバイル上で花開く契機となりました。iモードやEZweb、Yahoo!ケータイなど携帯事業者が展開したビジネスモデルは20世紀最後の本当に優れたモデルと言えるものです。通信事業者、機器ベンダー、IP(インフォメーション・サービス・プロバイダーやコンテンツ・プロバイダー)などをWin−Win関係で統合的に結び付けたエコ・システム、即ち、垂直型統合システムを構築したところが特徴です。それまでの通信事業者、機器ベンダーとユーザーの間に新しくIPが加わり、音楽、ニュース、映像、ゲームなど多様なサービスがサーバーを通じて提供されるようになりましたが、その一方ではやはり限界もありました。Win−Win関係はIPまで、個人はやはり利用者の地位のままに止まっているというモデルには変わりはありませんでした。個人の情報発信はSNSのような個人的活動を別とすれば、ビジネスモデルとしてはエコ・システムの中には取り込まれていないのです。

 例えば、ゲームソフトの開発者が個人であった場合、やはりIPに売り込むことが必要となる構図には変化がなかったのですが、iフォンの発売とともにアップルが始めたAppストアはこの隘路を見事に克服してしまいました。IPの数に比べて、個人の情報発信者は千倍、万倍にもなり得ます。こうなると世界中の個人がプロバイダーとして参入可能となり、サーバーは世界を相手に接続してサービスを提供することになります。個人を含めてWin−Win関係を築いたこと、即ち個人を含めたレベニューシェアが確立したことは、まさに、21世紀型のビジネスモデルの登場と言えるでしょう。このような新しいモデルは出来上がってしまえば当り前に映るのですが、その革新性は世界中の大企業ベンダーやサービス・プロバイダーが同種のアプリケーション・ストア方式への参入を続々と表明したことでよく分かります。第2段階としては既存の広告モデルとの競争、第3段階はお互いのレベニューシェアのあり方の競争へと発展していくことでしょう。

 残念ながら、iモードに代表される20世紀末タイプのモデルには多くの通信事業者が参入しましたが、21世紀型であるアプリケーション・ストア方式には通信事業者の動きが十分に見られません。支配的事業者となる通信分野においてはオープン化政策により通信事業者の活動領域が制約されて来ましたが、携帯通信事業のような競争促進化政策が効果を上げている分野では、通信事業者によるアプリケーション・ストアの展開がもっと積極的に見られても良いはずです。携帯通信事業者は、トラフィックの急増とインフラの拡充はあるものの収入は伸びないと言う、いわゆるホッケースティック・カーブ論に悩まされているからなのでしょうか、この種の21世紀モデルでは先駆者とはなっていません。収入構造を変革するためにも新潮流であるプラットフォーム・モデルの開拓とアップル等の先行者と同様に連携・統合型モデルへの挑戦が必要となっています。

株式会社情報通信総合研究所
代表取締役社長 平田 正之

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