2009年6月号(通巻243号)
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サービス関連(通信・オペレーション)

中国・キャリア3社の3Gサービスがほぼ出揃う

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 本誌2009年5月号(前月号)にて、中国における通信キャリア再編後の各社決算状況と3Gへの展望について、現地報道における論調を踏まえながら紹介させていただいた。5月17日に中国聯通が「正式試験商用」という形でW−CDMA方式の3Gを開始しており、これで他の先行している2社(中国移動、中国電信)を含め、ある程度足並みが揃った感がある。今月号では、各社が具体的にどのような3G端末を販売しているか、あるいは3Gに関連してどのようなサービス展開を行おうとしているかも含め、特に現地から毎日伝えられる最新の情報をベースに極力具体例を挙げつつ紹介したい。

中国移動(チャイナ・モバイル)

 中国発の3G世界標準、TD−SCDMA方式を採用する中国移動は、2008年4月から商用実験という名目で一部都市で3Gサービスを開始している。同8月の北京五輪の際には五輪関係者を中心に端末が配布されるなど、中国政府の数々の支援政策を背景に正式サービスへの準備のための大規模入札や設備対応およびその検証作業が進められてきた。2009年1月初めに3Gライセンス正式発給が行われると、そのまま正式サービスに移行したが、それに相前後して昨秋の金融危機顕在化以降の大規模総合景気対策の一環(国産技術の振興は「自主イノベーション」のカテゴリーにある)にも位置付けられるとともに、「電子情報産業調整振興計画」やTD−SCDMA研究開発基金によるベンダー向けの資金的支援など予算措置も受け、他の2社に先行する形でさまざまな動きが進んでいる。

【図1】中国移動の3G公式サイト
【図1】中国移動の3G公式サイト
出典:中国移動のホームページより抜粋

 2009年5月末時点での中国移動の公式サイト上の情報によれば、携帯電話端末は11機種が掲載されている。内訳は中国国産ベンダー(中興通訊(ZTE)、聯想(レノボ)、宇龍酷派(CoolPad)、多普達(DoPod)等)の6社7機種、外資ベンダーではサムスン、LG、モトローラの3社4機種となっている。このほかに特に力を入れているのは本誌前月号でも紹介した3Gデータカードや同モジュールを内蔵したネットブック(小型モバイルPC)である。3Gネットブックは4月末から発売され、内外のPCベンダー(ヒューレットパッカード、デル、レノボ、ハイアール、方正、清華同方)から7機種が提供されている。

 また、最近のニュースによれば、TD−SCDMAやWi−Fiに対応したG3電子ブックリーダー(「G3」は中国移動3Gのブランド名。アマゾンのキンドルに類似)の発売が近々予定されていたり、日本のワンセグに相当する中国のモバイルTV標準CMMB(China Multimedia Mobile Broadcasting)チップを排他的にTD−SCDMA方式3G端末に搭載するとの内容で放送系事業者と合意に達するなど、端末面での各種強化策が矢継ぎ早に行われている模様である。

 TD−SCDMA方式については、かねてよりその技術的問題が指摘されてきたところではあるが、この一年前後で状況は確実に変化してきているように感じられる。上述のように海外ベンダーが同方式の端末等を提供することも増え、いわゆるエコシステムが充実しつつあり、中国政府の同方式に対する資金措置を含む大規模な支援が明確になったことも大きい。中国移動は米グーグルが中心的存在にあるOpen Handset Alliance(OHA)に加盟しているが、AndroidプラットフォームベースのO-Phoneを早ければ6月にも販売開始すると伝えられている。O-Phoneはiフォンと同じようにアプリケーションストアからユーザーが好きなアプリケーションを自由に選択・搭載できるタッチスクリーン式の端末である。すでにヤミ市場では多数のiフォンが出回る中国であるが(詳しくは今月号掲載「世界にひろがる中国の模倣品ケータイ『山寨機』」を参照)、同端末の発売を機に端末だけでなくアプリケーションを含む周辺ビジネスモデルが大きく変化する可能性を秘めている。

中国電信(チャイナ・テレコム)

 2008年10月に旧中国聯通からCDMA網を買収した中国電信は、もともと技術的に移行が容易であるといわれていた2G・cdma2000 1xから3G・cdma2000 1x EV−DOへの対応を1月のライセンス正式発給以降短期間で対応し、当初伝えられていたよりも早い4月から一部地域で3Gサービスを開始した。「天翼」というCDMAブランド名のもと、地域ごとに提供機種数などにばらつきがあるようではあるが、5月末時点の中国電信公式ホームページ上では、携帯電話端末として、内外10ベンダーから16機種、データカードについては6ベンダーから9機種が掲載されている。携帯電話は、外資系ベンダーとしてはノキア、サムスン電子、LGの3社、中国ベンダーでは華為技術(Huawei)、宇龍酷派、海信(ハイセンス)などが端末を提供している。

【図2】中国電信の3G公式サイト
【図2】中国電信の3G公式サイト
出典:中国電信のホームページより抜粋

 中国電信も中国移動と同様に、2Gとの違いあるいは家庭のブロードバンドが実質1Mbps程度といわれる中国ではその差異が感じられやすい3Gデータカードの展開に注力している模様である。報道でも北京にある中国電信ショップで3Gデータカードが品薄、品切れ状態になっていると伝えられている。
中国電信に特徴的なのは、まだ立ち上がったばかりではあるが、固定とのバンドルサービス(セット販売による割引プランなど)であろう。家庭向けブロードバンド「我的e家」サービスに携帯電話用インスタントメッセージをバンドルし、PC・携帯電話どちらからでもインスタントメッセージが利用できるような「天翼Live」をマイクロソフト(MSN)と共同で進めていくという報道も最近伝えられた。

中国聯通(チャイナ・ユニコム)

 5月17日は、ITU(国際電気通信連合)が定めた「世界電気通信の日(中国語では『世界電信日』)」であったが、グローバル化、国際標準への意識が強い中国では、毎年通信関連の節目的イベントが行われる日として認知度が高い。中国聯通の「3G正式試験商用」はこの日に開始された。W−CDMA方式を採用する中国聯通については、一年以上前から商用実験を行っていた中国移動、技術的に移行がソフトウェアレベルで可能といわれるCDMA方式の中国電信に比べ、最もスケジュール的にタイトな状況にあった。実際、当初は本サービスとしてこの日に開始したい意向もあったようであるが、それには間に合わず、「正式試験商用」という半ば矛盾するような表現になったことからも伺える。設備スケジュール短縮への負荷が大きすぎ、現場の工事担当者が自ら命を絶ったという悲しいニュースも一部で伝えられた。その一方、国際的に実績のあるW−CDMA方式を採用した中国聯通は、他の2社に比べて優位性も大きい。携帯専門サイト「友人網」でのウェブアンケート調査を見ても、「3Gではどのキャリアを選ぶか」の問いに対し、「様子見」が半数以上であることを除くと「中国聯通のW−CDMAを選ぶ」とした者が最も多かったことからも見て取れる。

【図3】中国聯通の3G公式サイト
【図3】中国聯通の3G公式サイト
出典:中国聯通のホームページより抜粋

 17日の正式試験商用のタイミングでは、44機種の「商用実験」が行われるとされているが、中国聯通の公式サイトを見ると、携帯電話端末では内外18社から37機種、3Gデータカードは2社から3機種、3Gネットブックは内外3社から3機種が提供されている。携帯電話端末を提供するベンダーは中国国産ベンダーとしては華為、中興、ハイアールなどの大手、外資系ベンダーではノキア、ソニー・エリクソン、サムスン、LG、モトローラ、フィリップス、そして日本のシャープとなっており、すでに世界で先行している3G方式であることから外資系ベンダーの数が最も多い方式となった。特にシャープは、他の日本の端末ベンダーが昨年くらいまでにほぼ撤退する中、薄型テレビ分野では中国でも人気の高い「アクオス」の知名度など現地マーケットのニーズに即した対応を行っている点で非常に興味深い。中国聯通は現地報道によると前述の中国移動も加盟するOHAへの加入が伝えられるなど、今後のハイエンド端末、コンテンツプラットフォームへの注力の方向性が感じられる。これまでアップルとiフォン導入についての報道が伝えられてきた中国聯通であるが、アップルのビジネスモデルで行くのか、キャリア主導のアプリケーションストア型で行くのか、今後の行く末が注目に値する。

 中国では3G開始を機に、携帯電話やその周辺のソフト、ハードに至るまで、短期間に様々なビジネスが生まれてきそうな予感もある。また、政府によるさまざまな振興政策についてもそれと上手く同期がとれているように見える。さらにそう遠くない将来を視野に入れたLTEへの移行についての準備も行われつつある。常に過当競争や混沌、あるいは知的財産権問題と表裏一体にあるものの、そのスピードの速さや前例にとらわれない動きが進む中国の状況は3Gを中心にまた目が離せない状況になった。

町田 和久

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