2009年6月号(通巻243号)
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巻頭”論”

官製不況論を排す

 一時、情報通信産業において、特に携帯(モバイル)機器製造分野が不振に陥っていることを指して、官製不況としばしば言われました。不況原因の犯人捜しとして注目を集めるのに格好な話題でした。確かに携帯端末の年間販売数が4,000万台を大幅に下回る水準はメーカー各社にとっては大変な事態となっています。さらに、販売数が市場の構造変化から見て、急速に元の姿に回復する見込みは乏しいと思われます。

 この原因を、総務省当局による携帯通信事業会社に対するビジネスモデルの転換誘導策に求めたものが前述の「官製不況論」です。私はこの主張には賛成できません。理由は、1.携帯通信事業会社の従来の携帯端末販売モデルが取替え需要中心に移行して限界に達していたこと、2.従来の販売方法は携帯端末を頻繁に取替える顧客層に経済的に有利に働くモデルであったこと、3.拡大期ではなくサービスの定着期に入り既存顧客重視の施策が求められていること、などがあり、決して総務省当局主導であったとは思えないからです。むしろ、携帯端末の価格が適正化することによって新しい機能やサービスにつながり、多様化が図られることになりました。販売奨励金を利用した低価格販売に起因した超過需要がなくなり、国際競争力強化のベースが整ったものと理解すべきでしょう。

 但し、これだけでは何も問題は解決しません。どうやって携帯機器製造分野の成長力を高めるのか、即ちどうしたら携帯機器に対する需要を高められるのか、これが緊急の課題です。それには、第一に、世界で当り前に起こっているが日本ではまだ見られていないことに取り組むこと、例えば、2台目需要に応える機能やサービスを満たす低価格端末を開発すること、第二に、世界の潮流に乗ること、即ち、PDA=スマートフォン端末など小型で高能力なIT機器を開発すること(iフォンレベル以上のものを多様化する)、最後に、ネットワークサービスやアプリケーションと結びつく製品をリスクを取って独自に、又は携帯通信事業者やプロバイダーと連携して開発すること、が考えられます。要は、市場構造変化にいかに早く対応するかと言うことです。世界不況と言いながら、携帯機器製造分野は利用サイドから見るとICT化の進展および成熟に応じてまだまだ潜在成長力の大きい分野です。

 もちろん、携帯通信事業者も先進国では既に普及率が高くなって成長余力は少なくなり、その上サービスのコモディティ化が進むに従って定額制契約の比重が高まり、収入の頭打ちが顕著になって来ています。そこで新たな市場としてプラットホームビジネスに成長の糧を求めることになるでしょう。携帯機器メーカーもこうした需要サイドの変化をとらえた製品作りが必要です。iフォン、Blackberryなどに肩を並べる日本発の製品ブランドが欲しいものです。携帯端末では日本にはまだ世界に通用する製品ブランドがないのが残念です。逆に心配なことは、一部の携帯端末においてゼロ円又は1円の製品が再度出回っていることです。在庫処分的な取組みと想定されますが、もしこのような事態が続くのであれば、本来の国際競争力復活の道筋とはずれる姿となってしまい長い眼で見て決してプラスにはなりません。良い、売れる製品は販売手数料の大きさではなく、顧客視点に立ったマーケティングの中から生まれてくるのが本筋でしょう。

株式会社情報通信総合研究所
代表取締役社長 平田 正之

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