2008年12月号(通巻237号)
ホーム > レポート > 世界の移動・パーソナル通信T&S >
世界の移動・パーソナル通信T&S
<トレンドレポート>

FCC、テレビ「ホワイト・スペース」の開放を採択

■FCCによる3つの重要な決定

 大統領選挙の投票日の11月4日に、米国連邦通信委員会(FCC)は重要な3つの決定を行った。第1は、放送、娯楽業界などの強い反対で議論が白熱化していたテレビ「ホワイト・スペース」の周波数を、来年2月の地上波テレビのデジタル化完了以降、免許不要で利用できるようにすることを、5委員全員の賛成で決定したことである。テレビ「ホワイト・スペース」は、テレビ放送波の干渉を回避するためチャンネル間に設けているそれぞれのローカル・エリアでは使用していない周波数のことである。地上波のデジタル化によって電波干渉が軽減されるようになること、また周波数検知技術の採用などによって干渉を避けてテレビ「ホワイト・スペース」の利用が可能となる見通しがついたことで、その利用可能性が検討されていた。テレビ放送に使われている300〜400MHz帯の周波数であり、壁なども透過するなど比較的長い距離の伝送が可能で、使い勝手がよいとされる。大容量で低価格の無線ブロードバンド通信が実現すると期待されている。

 第2は、米国第2位の携帯電話事業者、ベライゾン・ワイヤレスによる同第5位のオールテルの買収承認である。この買収でベライゾン・ワイヤレスは100を超える重複地域の営業権を放棄することになったものの、米国第1位の携帯電話会社となる。第3は、米国第3位の携帯電話会社スプリント・ネクステルによる、WiMAXに特化するキャリア、クリアワイヤの買収承認である。いずれも消費者団体などから市場支配力が強まる恐れがあるとして反対意見が出されていた。一方、注目を集めていた、相互接続(補償)制度とユニバーサル・サービス・ファンドの改革については、委員の意見がまとまらず今回は議題とせず先送りされた。以下にテレビ「ホワイト・スペース」の開放についてレポートする。

■テレビ「ホワイト・スペース」の利用を巡る動き

 グーグル、マイクロソフト、インテルおよびデルといった米ハイテク業界は、2009年2月に迫った地上波テレビのデジタル化後に、テレビ「ホワイト・スペース」を有効活用しようという計画を、6年間にわたって強力に推進してきた。日常の業務運営から引退し慈善活動に多くのエネルギーを費やしているマイクロソフトのビル・ゲーツ会長は、去る10月20日にFCCのケビン・マーチン委員長に直接電話して、「低廉なブロードバンドの機会を提供し、革新的なアプリケーションのための新市場を創設する」ことを助けるであろうテレビ「ホワイト・スペース」を活用することの必要性を強調したという。同氏は3月にもテレビ「ホワイト・スペース」の活用は、伝統的な技術では普及が困難な農村地域のインターネット接続を劇的に拡大するだろうと発言している(注1)

(注1)Bill Gates speaks out on ‘white space’ (Dow Jones Newswires / 23 October, 2008)

 これに対して、干渉による画質の低下を恐れるテレビ放送業界(NBCユニバーサル、ウォルト・ディズニー、CBSおよびニューズ・コープなど)や、同周波数を利用するワイヤレス・マイクのメーカーおよびワイヤレス・マイクを利用する娯楽業界などが強く反対していた。

■FCCがテレビ「ホワイト・スペース」機器の実験結果を公表

FCCの技術およびエンジニアリング部門は、同研究所が実施したテレビ「ホワイト・スペース」を利用する機器(WSD)テストの公募に応じたプロトタイプ5機種(注2)による「テレビ・ホワイト・スペース用機器のテスト結果に関する第2次報告書」を、去る10月15日に公表した。テストは研究所内と実際の外部環境の下での双方で、干渉が起きるかどうかを検証したものだ。400ページにわたる「第2次報告書」の冒頭の「Executive Summary」を以下に紹介する。

(注2)第2次テストのために提出されたテレビ「ホワイト・スペース」用機器は、Adaptrum、the Institute for Infocomm Research(12R)、Microsoft、MotorolaおよびPhilips Electronics North America(Philips)の5社から提出された。

 「FCCの研究所は、『テレビ・ホワイト・スペース』用プロトタイプ機器の周波数検知(spectrum sensing)および送信能力に関する測定調査の第2フェーズを完了した。これらの機器は、テレビ放送帯域の周波数のなかで各ローカル・エリアでは利用されていない周波数(ホワイト・スペース)で動作することになるであろう、免許不要の低出力の無線送信機器の能力を実証するために開発が行われてきた。この重要な点については、われわれは『コンセプトの証明(proof of concept)』の責任を果たしたと確信している。現在位置確認(geolocation)およびデータベース・アクセス技術と組合せた周波数検知は、適切な技術基準があれば、今日でもこれらの機器をオーソライズするために用いることができること、また、将来開発され承認されるであろう機器に関する問題についても、それが周波数検知だけを用いる機器であっても、対処可能であることにわれわれは満足している」

 この報告書はこれまでの議論に終止符を打って、テレビ「ホワイト・スペース」問題に事実上ゴーサインを出したものと受け止められている。FCCのマーチン委員長は、「ホワイト・スペース」がブロードバンド接続を低廉なコストで実現する手段になり得るとして、「ホワイト・スペース」の開放を承認する方向で委員会の投票に臨む、と上記の報告書の公表に合わせて記者会見で語っていた。推進派のグーグルやマイクロソフトなども歓迎のコメントを発表している。

 これに対し、全米放送事業者協会(NBA)と加盟各テレビ放送会社は、FCCの進め方が標準的規範に沿っていないと反発し、FCCの「第2次報告書」について一般から意見を募るよう求めた。NBAなどは、FCCが「報告書」の要約において、テレビ「ホワイト・スペース」の使用については問題ないと結論づけているが、実際の詳細な実験結果からは、深刻な問題(干渉)が考えられる、と懸念を示している。たとえば、「ホワイト・スペース」を利用する機器は、使われていない周波数を検知する「spectrum sensing」技術を採用するが、肝心のこの技術の信頼度が低いと指摘している(注3)。さらに、無線産業と放送業界は「ホワイト・スペース」を免許不要かつ無料で開放するのではなく、免許を前提とする競売にすべきだと主張していた(注4)

(注3)米放送団体がホワイト・スペース開放に異議、FCCに意見募集を要請(techon.nikkeibp.co.jp /article/NEWS/2008.10.20)

(注4)FCC moves to open up idle airwaves for gadgets (online wsj.com / October 16, 2008)

■FCC、テレビ「ホワイト・スペース」の開放案を採択

 FCCは11月4日に、それぞれのローカル・エリアで使用されていないテレビ周波数(ホワイト・スペース)を免許不要で利用できるようにする規則制定に踏み切ることを、5委員全員の賛成(1委員は部分的に反対)で採択した。テレビ「ホワイト・スペース」と呼ばれるこの300〜400MHzの周波数帯は、到達距離が長いうえに建物の壁も透過するので、無線ブロードバンドの提供に最適な周波数帯と考えられている。FCCのプレスリリース(注5)も、「本日採択されたこれらの規則は、ブロードバンド・データ通信およびその他のサービスを提供するための新しい革新的なタイプの免許不要の機器を、使用されていない周波数(テレビ「ホワイト・スペース」)で利用できるようにするものである」とその意義を強調する一方、放送業界などの懸念に配慮し、その払拭のために二重三重に干渉回避措置(safeguards)を講じた案となっている。以下にその具体的内容を紹介する。

(注5)FCC adopts rules for unlicensed use of television white spaces (FCC News / November 4, 2008)

 「これらの規則は、テレビ『ホワイト・スペース』で免許不要の機器を利用できるようにする用心深い第一歩を提供するものであり、既存(incumbent)サービスを有害な干渉から護るための多くの回避措置(numerous safeguards)を含んでいる。これらの規則は、固定およびパーソナル/ポータブルの両方のデバイスを免許不要で認めることにしている。これらの機器は、周波数検知(spectrum-sensing)技術に加え、現在位置確認(geolocation)機能とフル出力および低出力のテレビ局およびケーブル・システムの送信局(headend)などの既存サービスに関するデータベースへ、インターネット経由で接続できる能力を備えていなければならない。このデータベースは、その場所でどの周波数が使われることになっているかを『ホワイト・スペース』機器に知らせる」

 しかし、次のようにも述べている。「FCCは、また、現在位置確認機能とデータベースへのアクセス能力を持たず、有害な干渉の発生を回避するための周波数検知技術だけに依存する機器についても、より厳密な認証プロセスに従って、認証するであろう」

 「すべての『ホワイト・スペース』機器は、FCC研究所による機器型式認定(equipment certification)を受けねばならない。FCC研究所は、すべての関連する諸要件に合致しているかを確認するため、サンプルの提供を求める」

 「審査は公開されたプロセスで行われ、すべての申請はFCCが行動する前にパブリック・コメントのため公開される。これらの機器は、「動作成績の確認(Proof of Performance)」基準に基づき、FCC研究所によって、研究所内および各種の実際環境のもとでテストされ、免許を与えられたサービスに干渉しないことを確認する。(10月15日に公表された)研究所のレポートおよび勧告もパブリック・コメントに付される。これらの機器の認定は、FCC全体の承認(Full Commission)を必要とする予定である」

 「FCCは、テレビ『ホワイト・スペース』機器の導入を綿密に監視しモニターする予定である。FCCは、有害な干渉を引き起こす機器が発見された場合は、迅速に市場から排除するよう行動するであろう。また、FCCは、起きるかもしれない干渉を除去するために、適切なアクションをとることを、責任のある関係者に求めるであろう。」

 データベースにアクセスすることなく、信号の送出前に免許を受けたサービスの信号を端末が検出して干渉を回避する方式の認証にあたっては、認証プロセスをデータベース方式よりも厳しくすると、FCCの無線通信局の幹部が無線ブロードバンド業界(WCA)のパネル・セッションで述べている(注6)。テレビ放送事業者がこのような周波数検知技術の信頼性に批判的であることに配慮した結果とみられているが、認証プロセスの具体的内容については今後明らかにする予定である。また、端末がGPSなどの技術で自分の位置を確認し、免許を受けたサービスの地理的な位置情報をまとめたデータベースの情報と照合することで干渉が起きるのを未然に防止する方式についても、データベースの構築、運用を誰が行うのか未だ決まっていないという。テレビ「ホワイト・スペース」を利用する端末の送信出力についても明らかにされていない(注7)

(注6)米FCCが「ホワイト・スペース」の開放を決断、通信業界からは歓迎の声(techon.nikkeibp.co.jp /2008.11.06)

(注7)テレビ「ホワイト・スペース」を利用する端末の送信出力について、モトローラ社の幹部は、固定端末は4W、移動端末は100mWになるだろうと見ている(上記《注6》の記事による)。

■世界戦略を念頭に歓迎するハイテク企業と反発強める放送業界

 テレビ「ホワイト・スペース」の開放を最も積極的に推進してきた一人であるグーグルのラリー・ページ共同創業者は、自身のブログの中で、「一人のエンジニアとして、FCCが政治よりも科学を重視する決断を下したことに、非常に満足している」とし、さらに「長年、放送関係のロビー団体などは、FCCのエンジニアたちに彼らの仕事をさせず、この技術に関する恐怖と混乱を広めようとしてきた」と批判している。ページ氏は今回のFCCの裁決を称賛し、(テレビ「ホワイト・スペース」の開放により)大規模な技術革新が促進されるだろう、と語っている(注8)

(注8)FCC、ホワイト・スペース開放案を可決(japan.cnet.com / news / 2008.10.05)

 グーグルやマイクロソフトなどの米ハイテク企業は長年、FCCに対し、このテレビ「ホワイト・スペース」を免許不要で利用可能にするよう働きかけてきた。その狙いについてページ氏は前掲(注8)の記事で、「これらの周波数帯域の信号の到達距離は、(2.4GHz帯を使う)今日のWi−Fi技術のそれよりもはるかに長い。つまり、われわれは間もなく『ステロイドを使った(強力な)Wi−Fi(Wi-Fi on steroids)』を手に入れることになるだろう。また、より少数の基地局でブロードバンド・アクセス・サービスを展開できるので、より低いコストでより広範囲をカバーできる」と語っている。

 グーグルのページ氏は、無線ブロードバンド業界(WCA)の展示会(11月4〜6日)で開催されたシンポジウムの席上、FCCのマーチン委員長と対談して次のように述べている(注9)。ページ氏は、Wi−Fi向けチップが2008年に全世界で8億個出荷されるという予測と、その単価が5米ドルまで下がっている事実を指摘し、免許不要で利用できる周波数帯と賢い技術の組み合わせが、こうした成果を生んだと主張した。テレビ「ホワイト・スペース」で今後同じ物語を作りたい、というのがページ氏の期待である。

(注9)「ホワイト・スペース」開放は全世界に広まる(techon.nikkeibp.co.jp / NEWS / 2008.11.10)

 一方、マーチン委員長は、ページ氏がテレビ「ホワイト・スペース」で干渉を避ける手法をわれわれに示すなど、グーグル社の参加がテレビ「ホワイト・スペース」の開放に至る今回の決断に大きく寄与したと高く評価した。さらに、マーチン委員長は、テレビ放送が全世界でほぼ同じ周波数を採用している点を指摘し、「ホワイト・スペース」を利用した機器が米国で成功したら、同様の動きが全 世界に広がる可能性があり、そうなると膨大な市場が生まれると期待を表明した。

 両氏の対談が終了した後の記者会見でページ氏も、FCCにテレビ「ホワイト・スペース」の開放を求めた背景に、こうした世界規模の市場への展望があったと語った。英国の通信・放送規制機関であるOfcomでも同様の議論が行われていると指摘したうえで、「FCCの決断には、全世界が追随する傾向がある。まずFCCに着目するのは妥当な手順だと考えた」という。マーチン委員長は、「われわれは全世界に・テレビ向け周波数でこうした使い方が可能であると説明できるように(制度)設計をした」と語っている。

 テレビ「ホワイト・スペース」は、有線ブロードバンドの普及が遅れている人口密度の低い地域や、一般家庭向けの無線ブロードバンド・サービスの提供に効果を発揮するだけでなく、事業所内のビジネス向け通信網を無線で効率的に構築できる可能性もある。「ホワイト・スペース」を利用する機器であれば、ビル内すべてをほぼカバーする無線サービスを提供でき、Wi−Fiに比べてアクセスポイントの数を少なくすることができるからだ。

 一方、テレビ業界などは、テレビ「ホワイト・スペース」の使用は、テレビ放送の妨げになるとして、長年にわたって同周波数の開放に反対してきた。開放反対派は、数人の議会指導者らとともに、FCCに対し採決前に意見を述べる場を設けるよう求めていた。全米放送協会(NBA)のワートン副会長は声明の中で、「放送局などが提起した重要問題に対処しようというFCCの試みには感謝するが、電波干渉のないテレビを重要視する米国民は皆、今日のFCCの採決結果に懸念を抱くだろう」、「FCCは、『ホワイト・スペース』に関する採決を推進することにより、テレビの未来にとって極めて重要な手続きにおいて、意味のある一般公衆あるいは専門家の評価や審査を回避したようにも見える」として、ページ氏が「ホワイト・スペース」で干渉を避ける手法をわれわれに示した強い不満を表明している(注10)。問題が法廷に持ち込まれる可能性もありそうだ。

(注10)FCC、ホワイト・スペース開放案を可決(japan.cnet.com / news / 2008.10.05)

特別研究員 本間 雅雄
▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。