2008年9月号(通巻234号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
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北京五輪と中国方式3G・TD−SCDMA商用実験のその後の状況

 本誌2008年5月号「中国3G方式TD−SCDMA商用実験が開始」で紹介した中国方式3G商用実験は、先般閉幕した北京五輪までの数カ月間で引き続きいろいろな進展が見られている。この間、5月下旬には中国の通信キャリア再編方針が工業・情報化部(MIIT)などの政府機関から正式発表されているが、これに応じる形で中国聯通(チャイナユニコム)の保有しているCDMA網の中国電信(チャイナテレコム)への売却、中国聯通と中国網通(チャイナネットコム)の合併について、各社の香港上場会社から取引の詳細内容や手続きがすでに発表されており、9月16〜17日に開催される各社の臨時株主総会で最終決議が行われることが決まっている。この正式なキャリア再編の動きに同調するように、中国移動が4月から実施してきているTD−SCDMA方式商用実験についても、MIITの強力なバックアップが伝えられる中、設備や端末などの大量調達が段階を追って進められている。本稿では最近の同方式商用実験の動きについて、北京五輪の動きに絡めて現地報道から探ってみることとしたい。

 中国独自3G方式TD−SCDMAの商用実験が2008年4月1日に、中国移動により北京五輪の競技開催地6都市を含む8都市で開始された。実験開始時当初の報道によれば、中国国産ベンダ5社(中興通訊(ZTE)、新郵通等)及び韓国の2社(LG電子、サムスン電子)から75,000台の端末(うち15,000台はデータカード)を調達する形で開始され、TD−SCDMA端末を専門に販売する直営ショップも新設された。写真1:当初販売された端末しかしながら、最初の段階での評価は厳しいものが多く、カバレッジの狭さ、室内での接続困難、TV電話の低品質、端末価格の高さなど、欠点ばかりが多く伝えられた(【写真1】参照)。この状況を危惧したのか、3月に行政機関統合で新設された工業・情報化部(MIIT)のトップに通信業界とは全く違う畑から就任した李毅中部長(大臣)は、TD−SCDMA実験状況の問題点の報告を自ら中国移動側に週単位で求めつつ、北京五輪開幕を控えた段階でその対応を強化したという。当初は実験主体である中国移動自身も、実際は同方式の採用には積極的ではないといわれていたが、5月下旬の通信キャリア再編正式方針発表を機に、同社のTD−SCDMA商用実験への注力が強化されたようにみえる。李部長はトップダウンとスピードの速さから相当の辣腕であるとの報道もあり、これに伴って中国移動のTD−SCDMAへのコミットメントが明確になったことは以下のようなことでも証明される。

■第2期端末調達とモバイルTVとの融合

6月以降、それまで中国網通と中国電信がそれぞれ個別に実施していた山東省青島と河北省保定の2都市のTD−SCDMA実験についても中国移動に移管され、実験都市すべてが中国移動によって実施されることとなった。また、TD−SCDMA端末の第2期大量調達が中国移動により実施され、20万台を確保、北京五輪の大会関係者やボランティアなどにその半分の10万台を無償で提供するなど、明らかに力の入れ方がこの数カ月間で変化した。同時に市販される残りの10万台についても、有力な大手販売代理店との間でコミッションなどを拡大し、販促活動を強化した。さらに、この間には、長らく論争があったモバイルTV標準についても、通信系が推す標準でなく放送系が推進してきた中国独自標準CMMBを実質的に採用することが確定、TD−SCDMA端末とCMMBによるモバイルTVの融合が具体化し、一部地域では端末も販売されており、ネット上の動画でも各種評価が行われている。この動きは産業界全体の最適化がミッションであるMIITの路線に合致するもので、通信・放送融合を具体化する一例として位置づけられている模様である。

■北京五輪直前と開催中の状況

 その後、北京五輪開幕直前にはCMMBを搭載したTD−SCDMA端末を含めてさらに34万台(こ の他にデータカードも)が追加調達されていると伝えられる。なお、北京五輪期間中に携帯電話関係で話題を集めていたのは、限定的なモバイルTVよりも、写真付メール(MMS)、ストリーミングやダウンロード方式による五輪各競技の実況中継や録画であったようである。中国移動と中央電視台(CCTV)は共同で「モバイルTV五輪チャンネル」など、WAPを利用したストリーミングサービスを提供している。中国移動は携帯電話分野の北京五輪公式スポンサーとして、その他にも「五輪クイズ」など北京五輪に絡めた各種イベント系サービスも提供した。

 その後、TD−SCDMAについては、五輪期間中には既存の10カ所の実験都市に加え、第2期実験地域としてさらに省都及び大規模都市合計28都市に商用実験を拡大することを政府が認可したことが明らかになり、その投資額は300億元(約4,500億円)を超えるレベルになるとされている。8月27日に行われた中国移動の2008年6月期中間決算発表においても王建宙総裁が公式にこのことに言及し、今後の拡大については既存GSM網と設備共用する形でコアネットワークを建設するという。最近の株価下降の傾向はあるものの、依然毎月700万加入を超える純増を継続する中国移動の財務状況は、このTD−SCDMA拡大に対する投資を問題にしないレベルに達していることも拡大を促す背景のひとつであろう。

■今後の展望

 中国移動以外のキャリアも、分離・合併手続きが順調に進んでいるように伝えられており、CDMA網を買収する中国電信も今後設備投資を拡大するため社債の発行を行ったり、再編後のFMC等の融合サービスへの戦略を明示したりするなど、中国の通信市場は急速に動き出した感がある。キャリア再編作業は2008年10月目処に完了し、3Gライセンスは2009年初頭にも再編後の3社に発給されるといわれている。現場レベルでの組織の統廃合についてはまだ一定の時間がかかり、TD−SCDMAについても依然として技術的改善事項は相当残されているものと思われるが、これに同期して周辺の3G関連のコンテンツに関わる上位レイヤ系サービスなども含め、さまざまなレベルで矢継ぎ早に各種の検討が進んでいくものとみられる。

町田 和久
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