2008年7月号(通巻232号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<世界のニュース:政策・規制>

中国の通信キャリア再編がようやく正式決着

 中国でここ何年もの間議論されてきた通信キャリア再編にようやく決着がついた。これまでの6社体制から3社体制に再編されるとともに、再編の完了後にはこれら3社に3Gライセンスの発給が行われることとなった。実際の再編3社のスタートは2008年10月ごろになると見られ、3Gライセンス発給は早ければ来年早々となる見込みであるが、これにより中国の通信市場の様相が大きく変化し、端末やコンテンツ、アプリケーションなどの上位レイヤ分野など、マーケットの変節点になる可能性もある。

■再編方針発表当日の動きと経緯

 再編方針が正式発表される前日の動きから振り返ってみたい。5月23日、中国共産党中央組織部から各通信キャリアに再編について非公開の通達が行われたと見られ(各社トップは共産党の党員)、一斉にこのことが中国のIT関連サイト等で報道された。これを裏付けるように、同日昼過ぎには香港に上場する中国4大キャリアのうち、中国移動(チャイナ・モバイル)を除く3社(中国電信(チャイナ・テレコム)、中国聯通(チャイナ・ユニコム)、中国網通(チャイナ・ネットコム))の上場会社が株式取引を停止した。そして翌24日、工業・情報化部(MIIT、「部」は日本の「省」に相当)、国家発展改革委員会(NDRC)、財政部の連名により「電気通信体制改革の深化に関する通告(以下「通告」)」が正式に発表され、遂にキャリア再編方針の全容が明らかになった。

 今回のキャリア再編は、2002年の旧中国電信南北分割以来の大型再編である。この背景には、当初より取り沙汰されていた、3Gライセンス発給に際し、重複投資や過当競争を回避するため適正なキャリア数が求められていたことだけでなく、ここ数年、世界の通信キャリアの中で株式時価総額トップとなっている中国移動の突出した業績でも示されるように、固定から携帯への代替が顕在化したことから、各社の不均衡な状況が耐えられない限度に近づきつつあることが大きな要因であるといえよう。一方、すでに中国移動によりこの4月から中国方式3G・TD−SCDMA方式の商用実験が開始され、2008年8月の北京五輪期間中の3G提供に概ね目処がついたことも挙げられる。また、5年おきに開催される最大の政治的イベントである中国共産党大会が2007年秋に開かれ、この結果を踏まえた2008年3月の全人代(国会に相当)で各種の政策の大枠が決まり、行政側の組織再編も行われたことなど節目の時期にあたっていることも大きい。特に辣腕との高い評判があり、石油業界出身で数々の組織を立て直してきたといわれる李毅中氏が統合・新設された工業・情報化部(MIIT)部長(大臣)に就任したことも、政策実施のうえでその存在感を示しているように見える。もともと今回の再編方針発表は5月17日の「世界電気通信の日」に発表予定であったと見られるが、5月12日の四川大地震の発生により公表スケジュールが若干遅れたものと伝えられている。

■キャリア再編方針と今後のスケジュール

 政府の正式キャリア再編方針を示す「通告」の内容は概ね以下のような内容となっている。これまでの電気通信分野における体制改革の経緯と最近の携帯・固定の不均衡状態などの市場環境に鑑み、さらなる改革の必要性を論じたうえで、改革のガイドライン(「指導思想」)として「3Gの発展を契機とし、既存ネットワーク資源の合理的配置、全業務(フルサービス)経営を実現」することをベースに後述する既存事業者の再編を「奨励」するとともに、4G標準化制定への積極的関与などのイノベーション(中国語では「創新」)支援、非対称規制を含む監督管理体制の強化、「三網融合(いわゆるトリプルプレー)」など業界の協調的発展といった政策的措置を行っていくという内容である。

 具体的なキャリア再編方法については、(1)中国移動が旧鉄道部系で固定事業者の中国鉄通(チャイナ ・ティエトン)を吸収合併、(2)これまでGSM網とCDMA網の両方を運営してきた中国聯通がCDMA網を中国電信に売却、(3)CDMA網売却後の中国聯通は中国網通と合併し、新・中国聯通を設立、(4)衛星系事業者の中国衛通(チャイナ・サットコム)の基本電気通信サービスを中国電信に移管する、というものが主な内容である。また、これらの再編が完了したのち、各社に3Gライセンスを発給、フルサービスを実現するということになっている。これにより、これまでの6社体制から中国移動、中国電信、中国聯通の3社体制に移行することとなる。

図1:キャリア再編の概要

 しかしながら、今回のキャリア再編はかつての再編のように中国国内に閉じた不透明な形での実施はすでに許されなくなっている。このため資本市場のルールに則った手順を踏んで進められることになるため、一定の時間を要することとなる。中国キャリアのうち、香港株式市場に上場している中国移動、中国聯通、中国電信、中国網通の4社は、国有企業である親会社(集団会社)から、香港に別に存在する上場会社(中国電信は中国国内登記の会社)に資産等を移した形で上場が行われ、ここに海外の機関投資家を含めた株主が少数株主として株式を一部保有している。このため、香港の上場資産の売却や合併が再編内容に含まれる中国聯通、中国電信、中国網通の3社については、中国の国有企業の「大株主」にあたる国有資産監督管理委員会(SASAC)の指示も踏まえ、上場会社間の取引を国際的資本市場のルールに則って完了せよとの指示が再編方針発表とともに出されている。この上場会社間の手続きが終わった後に各社の親会社を含む集団企業としての総体の再編が行われるという順番で進められる。中国移動による中国鉄通の吸収合併については、前者の上場会社は直接関与はしないものの、親会社の重要取引は上場会社の報告事項でもあるので、他の再編と合わせたタイミングで進められるものと見られる。

 6月2日にこれら3社の上場会社が発表した取引予定条件は、中国聯通がCDMA網を総額1,100億元(約1兆6,500億円)で中国電信に売却、中国聯通と中国網通は株式交換方式(交換比率は1:1.508)による買収を通じ中国網通が吸収されて上場廃止となるが、詳細な資産評価などのデューデリジェンスや内部の組織体制改変などが今後実施され、8月の北京五輪をはさみ、最終合意内容について9月ごろの上場会社各社の株主総会での議決を経て、最終的に親会社の再編を含めて中国政府の認可を経ることになると考えられる。したがって、関係各社がすでに説明しているとおり、再編完了までは早くても今年10月以降と見られ、その後の3Gライセンス発給は2009年初頭以降であると考えられる。

図2:キャリア再編スケジュール

■再編に対する評価と今後の展望

 中国聯通、中国電信、中国網通の3社は上述条件の発表とともに取引を再開したが、取引停止をしていない中国移動も含めて見てみると、株式市場からの反応はこのキャリア再編に対してあまり芳しいものではない。中国移動については固定の中国鉄通を吸収することなどからこれまでの極めて良好な財務状況に対してマイナス的要素と受け取られたこと、他の3社については再編手続きがすべて完了し、内部組織の統合や関連人員の受け入れなどや、3Gが開始できるようになるまでにはまだ相当程度の時間を要するために、逆に中国移動の一人勝ち状況を助長しかねないという考え方があるものと思われる。実際に中国の各ITサイト等で報道された業界関係者や識者の再編に対する見方を見ると、この再編により市場の不均衡が是正され、競争が最適化されるといった肯定的意見がある一方で、基本的に中国移動の一人勝ち状況は何も変わらず、単にキャリアの組み合わせを変えたにすぎないなどの否定的意見も少なくない。

 しかしながら、今回の再編方針発表により今後のスケジュールが具体的に示されたことで、通信・ICT業界全体への注目度が高まったことは間違いないと考えられる。すでにこの数年、再編や3Gの行く末が不透明な中でも、中国のインターネット関連産業は引き続き急拡大し、新たな変貌を遂げている。モバイル関係でも2Gという限られた技術を最大限活用したサービスも行われている。今後いわゆる上位レイヤサービスや各種プラットフォームなどの進展も中期的に期待できるものと思われる。また、海外キャリアが今後この再編に対してどのように反応するかも注目される。中国移動は商用実験の流れからTD−SCDMAを、中国電信はCDMA網取得によりcdma2000 1xEV−DOを、新中国聯通はW−CDMAをそれぞれ採用する可能性が高いといわれている。したがって、現中国聯通には韓国のSKテレコムが、中国網通にはスペインのテレフォニカがそれぞれ上場会社に対して少額出資とともに戦略的提携関係を結んでいるが、再編後の各社が最終的にどの3G方式を採用するかによって海外キャリアがどのような提携を模索していくのか、3Gや今後の3.9G、4Gへの移行に鑑み、高速環境下で各種アプリケーションや周辺プラットフォームが充実することで発展が期待されるモバイルコンテンツ分野への海外からの投資が進んでいくのかなどの点は十分その動向を注目すべきであり、富裕層がさらに拡大しつつある中国の現状に即し、より質の高いものへのニーズが拡大していくのではないかと予想される。

町田和久
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