2008年1月号(通巻226号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<世界のニュース:市場・企業>

グーグル「アンドロイド」によるモバイルOS参入が業界にもたらす影響

 2007年の携帯電話市場は1月のアップルの発表以降、「iフォン」が話題を独占してきたが、年の締め括りに来て大きな注目を浴びたのがグーグルの携帯電話参入の動向だった。11月5日の報道発表で、同社は巷で噂になったGphoneという端末開発ではなく、「アンドロイド」というモバイルOSを含んだ携帯向けソフトウェア群の提供、という形で携帯端末市場に進出することが明らかになった。その後、同社はソフトウェア開発キット(SDK)の公開やアンドロイド向けソフトウェア開発のコンテスト開催を表明する等、次々と同モバイルOSをめぐる戦略の手を打ってきているが、果たしてグーグルの活動は実際どのような影響を今後のモバイルOS、ひいては携帯電話市場全般に及ぼすことになるのだろうか?様々な報道が駆け巡る中で、海外の携帯電話市場のトレンド等を踏まえ筆者なりの見解について本稿で取り上げることにしたい。

■ 「オープン」のインパクトは?

 グーグルはアンドロイドの特色の1つとして、Linux環境がベースにありオープンな開発が可能であることを強調している。しかし現在のモバイルOS陣営の動きを見ると、このコンセプトそのものは決して目新しいものではない。複数規格が乱立するモバイルOS市場の中で、50%以上の過半数のシェアを占めるシンビアンも同様の発想の下、オープンソースのコンポーネントを取り込んでいる。また、アンドロイド以外にもLiMO FoundationやLiPS Forum等Linuxのオープン性を生かしたOS開発に取り組んでいるモバイルOSグループは既に存在する。よって、今回グーグルが主張する「オープン」志向は市場に全くなかった概念を新たに持ち込む訳ではない、ということになる。

 むしろオープンであることは強みというより、多数の開発者が参加する中でOS開発の全体的な方向性の統一感をどのように取っていくのか、その統率力という課題をグーグルに突きつけることになるのではないだろうか?その側面において果たしてグーグルに運営する力量はあるのか?過去にグーグルは様々な秀逸なアプリケーションを提供してきたが、それらはあくまでも自社内で内製したソフトウェア群である。先日、シンビアン側が東京で開催した同社セミナーにおいてまさにその点を指摘し、シンビアンが持つ卓越した能力としてオープン環境下での「インテグレーション」機能であることを主張していた。グーグルが選択した「オープン」な手法は、同社の力量を試されるポイントとなり、モバイルOS参入の成否を左右する1つのポイントとなってきそうだ。

■ 「無償」であることの意味合い

 アンドロイドのもう1つの重要なポイントは、ソフトウェア群が無償で提供される、ということである。同プロジェクトをリードするルービン氏は無償提供による開発コスト低減をアンドロイド採用の大きなメリットの1つとして強調している。これをモバイルOSを採用する端末ベンダーの視点で見るとどうであろうか?現状、モバイルOSが端末開発コストに占める割合は高くない、というのが一般的な見方で、ロイヤルティー・フィーで見るとウィンドウズ・モバイルで10ドル前半、シンビアンOSで4〜5ドル程度と言われる。これはモバイルOSが搭載される、現在の高機能端末の開発費の中で高くても数%程度だ。よって、現在の高機能・高価格なスマートフォン市場におけるモバイル
OS競争において、アンドロイドを採用するコスト面でのインセンティブは端末ベンダーにとってそれ程大きくないように思われる。特に米国や西欧等の成熟市場で今後拡大することが見込まれる、スマートフォン等のハイエンド端末市場におけるモバイルOSでは、アンドロイドがコスト面の優位性のみで他OSに対し有利な立場を確保できるかどうか、その見通しは不透明と言える。

 一方、モバイルOSを採用しない、エンベデッドOSが中心のベーシック端末についてはどうか。現在、世界の携帯電話端末の9割を占める同種端末は新興市場の成長と共に爆発的な普及が見込まれる。新興市場では、インターネットを利用する機器として携帯端末の存在が大きくなりつつあるが、ここにグーグルが食い込む可能性は十分あるだろう。ベーシック端末は端末価格全体も安いことからモバイルOS自体のコストが無償であることの意味合いも強まる。以上を踏まえ、グーグルとしては、ローエンド・ミドルエンド系の端末市場におけるアンドロイド展開、というのも戦略的な選択肢の1つになってくると思われる。

■モバイル・インターネット端末としての可能性

 上記2点に加え、アンドロイドが注目を集める理由となりそうなのが、モバイル・インターネット端末としての可能性だ。現在、複数存在するモバイルOS規格は基本的に音声中心の利用を前提としたもの、すなわちインターネット利用においてはモバイル向けに機能縮小されたOSを前提とした開発が進んできた。そのような中でアンドロイド、更にはiフォンのOSである「MacOS X」はインターネットのフル活用を可能としたモバイルOSの提供を行うことにポイントがある。インターネットとの親和性が高いモバイルOSの搭載によって豊かなインターネット体験がモバイル端末でも実現する可能性が大きく高まった。その点において、既存のモバイルOS規格の拡張というよりも、新たにインターネットに適応して開発が進むであろうアンドロイドやMacOSは、今後他モバイルOS陣営に対して、1つの大きなアドバンテージを持つことが十分に考え得る。

◇ ◆ ◇

 グローバルなトレンドとして、3G/3.5Gの普及や高機能OSを処理できる端末機能の高度化が進みつつある中、タイミング良く登場してきたモバイル・インターネット向けOSの存在は、今後の同市場の姿を大きく変える存在となる可能性がある。アンドロイドは既存の音声機能を前提とした携帯電話市場への影響で見ると、モバイルOS市場の現状を踏まえそのインパクトは限定的だと想定される。しかし携帯端末のモバイルPC化、引いてはモバイル・インターネット端末市場の成長を前提におくと、その存在を無視することは出来ない。SDK公開後、ソフトウェア開発環境の不備等が指摘されているアンドロイドではあるが、成否を含め、引き続き2008年を通じてその一挙手一投足が携帯電話業界のトップストーリーとして注目を浴び続けることになるだろう。

渡辺 祥
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