2007年11月号(通巻224号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<世界のニュース:ネットワーク&スタンダード>

スプリント、「AIRAVE」でCDMA対応フェムトセルを採用

 米スプリントは2007年9月、フェムトセルを用いたFMCサービス「AIRAVE」を開始した。フェムトセルは、宅内への設置を想定した低出力の超小型携帯電話基地局であり、コンシューマ向け固定ブロードバンド回線やCATV回線を通じて移動通信網と接続する。移動通信事業者にはインフラコストの削減を、ユーザーには宅内で安価かつ高品質な携帯電話サービスが受けられるといったメリットをもたらすことから、その動向に注目が集まっている。これまでフェムトセルは、移動通信網との接続に3GPP標準となったいわゆるUMA(Unlicensed Mobile Access)技術の一部を取り入れたり、大小多くの機器ベンダーがW−CDMAとGSM方式対応の製品を発表するなど、3GPP系の通信方式をメインターゲットに検討と開発が進展してきた感があったが、世界初の商用サービスはCDMA2000 1x網での提供となった。CDMA2000対応のフェムトセルについては、その詳細が明らかにされていないが、本稿では「AIRAVE」が採用するサムスン電子製のフェムトセルの公開情報等から、その仕様やネットワーク構成の概要を考察する。

■サムスン電子のフェムトセル「UbiCell」

 サムスン電子のフェムトセル「UbiCell」は、2007年2月の「3GSM World Congress 2007」や2007年3月末の「CTIA Wireless 2007」で展示された。この時期には、W−CDMA(HSDPA)とCDMA2000 1xへの対応や、サービスを提供する通信事業者の免許エリア外で装置が不正利用されることを防ぐGPSユニットの搭載が明らかになっている(この機能は、スプリントの「AIRAVE」で実際に利用されている)。また、現在サムスン電子がウェブサイト上に提示しているそれぞれの方式対応のフェムトセルを見ると、発表当初から公開されていた筐体がCDMA版の方に採用されており、しかもこれが世界初のCDMA2000対応フェムトセル(同社発表)としてリリースされたことから、かなり早い段階でスプリントへの採用が決まり、CDMA2000版の開発がW−CDMA版よりも先行していたか、少なくとも同時に進行していたものと推察される。

CDMA2000 1x対応フェムトセル「CDMA UbiCellTM」 W-CDMA/HSDPA対応フェムトセル「WCDMA UbiCellTM」
CDMA2000 1x対応フェムトセル
「CDMA UbiCellTM」
W-CDMA/HSDPA対応フェムトセル
「WCDMA UbiCellTM」

 同ウェブ・サイトには、屋内の「CDMA UbiCell」から屋外の基地局方向へのハンドオーバのみが可能であることを示す図が提示されている。スプリントの「AIRAVE」では、屋外から屋内へのハンドオーバに対応していないが、これは「CDMA UbiCell」の仕様であると言うこともできる。なお、この仕様は個人ユースを前提に設計したフェムトセルとしては妥当なものであると考えることができる。なぜなら、ユーザーが日常利用しているADSLやCATV回線に相乗りして移動通信網と接続するフェムトセルの場合、通信の遅延品質を保証することが不可能であるため、迅速な処理を要するハン ドオーバ制御は難しい。また、ユーザー認証処理も無視できない負荷となる。業界でも、フェムトセルにおけるハンドオーバ制御の扱いは課題として認知されていたが、サムスン電子としては、あえてフェムトセルへのハンドオーバをサポートしないことでこの課題をクリアしたということであろう。

■フェムトセルのネットワーク構成

 サムスン電子のウェブサイトには、CDMA対応フェムトセルとW−CDMA対応フェムトセルのそれぞれについて、ネットワーク構成図が提示されている(図1および図2)。

図1・図2

 CDMAとW−CDMAのネットワーク構成上の違いは、基地局制御機能(BSCもしくはRNC)の実装位置である。CDMAの方は、フェムトセルに基地局制御機能が実装される代わりにネットワーク側の装置を不要としている。それ以外の構成は同等であり、どちらにも別途SIPサーバ等の呼/セッション機能を担う装置が描かれていないことから、両方式とも、固定ブロードバンド回線やCATV回線上に張られたIPトンネルを使って、各方式の制御信号をそのまま移動通信網に透過させているものと思われる。

■CDMA2000対応フェムトセルの標準化

 W−CDMA/GSM対応のフェムトセルについては、移動通信網との接続方法として、既存のUMA技術の流用を含めたいくつかの案が提案されており、サムスン電子のW−CDMA版もそのうちの一つのパタンに当てはめることができる。しかし、CDMA対応フェムトセルに関する情報は見当たらない。フェムトセル技術の標準化はフェムト・フォーラムが推進しているものの、CDMAについては対応を表明するベンダーも少ないことから、しばらくは各社の独自仕様となるかも知れない。

グローバル研究グループ 石井 健司
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