2007年8月号(通巻221号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<世界のニュース:移動通信サービス>

新興市場における携帯電話を活用した金融サービスの動きが活発化

 携帯電話を利用した決済サービスは、世界各地で見られるようになってきた。欧米やアジアの先進地域では、携帯電話を使った小口決済が中心となる一方、アフリカ、東南アジアの発展途上地域では、銀行口座を持たない人のために生活の基盤となるサービスの提供を模索する動きが広がっている。

■ボーダフォン、ケニアで「M-PESA」を商用化

 ボーダフォンはケニアの移動通信事業者、サファリコムと共同で、ケニアにおいて携帯電話を利用した支払いサービス「M-PESA」のトライアルを2005年10月より開始している。このサービスを利用するには、携帯電話加入者がサファリコムの代理店でサービス登録を行って自己のアカウントに料金を充填する。これを活用し、同じサービスに加入するサファリコム・ユーザーへ送金したり、この口座を銀行口座のように利用して商品を購入することも可能となる。携帯電話間の送金では、携帯番号が口座番号として利用され、受理する側はSMSで送金の通知を受ける。

 M-PESAは、銀行口座を持たない携帯電話ユーザーを主なターゲットとしている。ボーダフォンでは、このサービスの提供に当たり英国政府が設立する新興市場向けプロジェクトに対する企業向け基金より支援を受けている。トライアル・サービスに続き、M-PESAは2007年より商用化へと移行している。

■マクシス等、携帯電話を利用した国際送金サービスを開始

 マレーシアの移動通信事業者、マクシス・コミュニケーションズは2007年5月、携帯電話ユーザー間での海外送金サービスを開始した。このサービスでは、フィリピンのグローブ・テレコムとアライアンスを結成して提供、両国間では銀行口座を持たない人々も海外への送金が可能となった。

 携帯電話を活用した海外送金サービスは、これまでにも発展途上国や業界団体を中心としていくつか動きが見られる。GSMアソシエーション(GSMA)は2007年2月、海外送金の試験プログラムを発表した。GSMAはマスターカードと共同で、国際送金サービスをコアとなって運営する「グローバルハブ」を構築する。このプロジェクトには、インド最大の携帯キャリア、バーティ・エアーテル、インド国営銀行、フィリピンのスマート・コミュニケーションなども参加している。この計画では、移民や出稼ぎの労働者が祖国の家族に対し、より安価な手数料で送金を可能にすることを狙いとしている。(本誌2007年7月号を参照)

■ノキア、ボーダフォン等と共同で提言をまとめた白書を発表

 新興市場の金融市場でのサービス提供をもくろみ、企業の動きも活発化してきた。ノキア、ボーダフォン、ノキア・シーメンスの3社は2007年7月、携帯電話を利用した金融サービスを活性化するための提言をまとめた白書「The Transformational Potential of M-Transactions」を発表した。

 この白書は世界銀行等の金融組織からの有識者の助言を得て作成されており、携帯電話の金融サービスを活性化するために障害となる規制や慣習についてまとめている。ここでは、これを変革する提言として4項目を挙げている。これは、(1)携帯電話の金融サービスを潤滑に行うため、デポジット(保証金)規制における上限を見直すこと、(2)移動通信事業者によるクリアリング・システムへのアクセスを許可すること、(3)顧客調査を徹底し、十分なマネーロンダリング防止策を立てること、(4)携帯電話を利用した金融サービスのスキームを統一させるため、十分な協議をすべきである、としている。

■新興市場における携帯電話を利用した金融サービスの現状と課題

 このように移動通信業界では、新興市場における金融サービスへの注目度が高まっており、プレイヤーの動きも活発となっている。新興市場では依然として金融インフラが整っておらず、銀行等によるサービスも提供されていない地域も多い他、移民や出稼ぎ労働者といった低所得者層を支援するという社会貢献的側面も大きい。このため関連する政府機関やNPOはこれを強く支持する姿勢を見せている。携帯電話業界では新興市場への期待が高まり、さらにノキア、ボーダフォンといった業界のオピニオン・リーダーが本腰を入れ始めている。

 しかしその一方、新興市場における携帯電話の金融サービスでは、過去に様々なイニシアティブが結成されたり、実証実験が繰り返されたものの、十分な顧客を獲得することができずに頓挫したケースが数多い。最大の要因として、携帯電話を活用したサービスの利便性や信頼性を得られなかったことが挙げられる。さらにこのような地域では、携帯電話の盗難事件もより頻繁に発生しているため、端末に支払い機能を搭載させる点についてはより懸念が高まることになる。

【図表】100人当りの銀行の支店、ATMの普及状況と携帯電話加入者数 さらに、白書でも議論されている新たな規制の枠組み作成に関しては、長期化することが予想される。新興市場では、欧州におけるEU(欧州委員会)のようなそれぞれの金融機関を統制する機関がないケースが多く、国境を越えた新たな枠組みの議論を行うことが比較的難しく、特に金融業界ではこのような動きに対して悲観視する声が強い。携帯電話業界の大きな期待にも反して、新興市場における携帯電話の金融サービスは、前途多難といえる状況である。

宮下 洋子
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