2006年11月号(通巻212号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S

ノキア、オープンな近距離無線通信技術「ウィブリー」を発表

 フィンランドのノキアは、2006年10月3日に業界オープンな近距離無線通信技術「ウィブリー(Wibree)(注)」をプレスリリースした。同社はこの技術を、主に携帯端末とその周辺機器群を接続するための、超低消費電力を最大の特徴とするオープンな通信規格であると位置付けている。しかしながら、同様な領域への適用を目指して既に標準化・商品化されている規格が存在している。本稿では、これまで報道されているWibreeの特徴を整理するとともに、既存の標準化規格との比較を通して、その位置付けを考察する。

(注)Total Telecomの報道によれば、Wibreeの名前は、無線(Wireless)を示す「Wi」と、映画ロード・オブ・ザ・リングに登場する出会いの村の名前「Bree」を組み合わせたものとのことである。

■Wibreeの概要

 Wibreeは、低消費電力・小型・低コストの面で既存の近距離無線技術を補完する位置付けでノキア・リサーチ・センターが開発した。特にBluetoothと組み合わせて機器に搭載することを強く意識しており、当初からWibreeスタンドアロンチップだけでなく、Bluetoothとのデュアルモードチップの開発が計画されている。Wibreeが具体的に狙う適用領域は、携帯端末やパソコンと、ボタン型電池で駆動される周辺デバイス(時計、ワイヤレスキーボード、玩具、スポーツ用センサーやヘルスケア用センサーなどのアクセサリ)との間の無線接続であり、デュアルモードチップを前者に、スタンドアロンチップを後者に適用する狙いである。

 現時点で公表されている仕様としては「利用周波数帯2.4GHz(産業科学医療用バンド)」、「伝送距離0〜10m」、「物理レイヤのデータ伝送速度1Mbps」程度である。最大の特徴としている超低消費電力は、Bluetoothの基本仕様をベースに「周波数ホッピング・スペクトラム拡散ではなく、単一周波数を使用(ただし、干渉する周波数は回避)」、「音声データ送受信機能省略」、「伝送プロトコルのオーバーヘッド削減」、「アイドル時のアルゴリズム改善」等の工夫を加えることで実現しているとの説明がなされている。また、デュアルモード時はアンテナを共用し、時分割で切替えるとのことである。

 Wibreeを市場で早急に展開するため、ノキアは半導体メーカー、デバイスベンダ、認証事業会社等とフォーラムを設立して同規格の仕様策定を進めている。現在のメンバーは、ブロードコム、CSR、エプソン、ノルディック・セミコンダクター(以上4社は対応チップを開発)、スント(周辺機器を供給)、太陽誘電(認証事業)とノキアの7社である。最初の試作チップと商用規格が2007年の第2四半期中にリリースされ、スタンドアロンチップは2007年下半期に、その搭載機器が2007年末から、デュアルモードチップとその搭載機器(携帯端末)は2008年以降に登場する見込みである。

■競合する標準化規格との比較

 Wibreeは、その適用例から無線PAN(Personal Area Network)の一種と考えられるが、無線PANのための規格はIEEE(米国電気電子技術者協会)の802委員会で検討・標準化され、商品化が進んでいる。Wibreeと主要なIEEE無線PAN規格(下位レイヤ部分)の概要を表1にまとめる。

表:無線PAN規格

 表1から分かる様に、IEEE802.15の各無線PAN規格はそれぞれの適用領域を住み分けている。Bluetoothを基準にすれば、旧UWBは近距離だが高速性を、ZigBeeは低速だが低消費電力性を狙っている。

 一方、Wibreeは「Bluetoothの低消費電力版」と位置付けられ、同規格と競合するものではなく融合するものとされている。また、Total Telecomの報道によると、ノキア・リサーチ・センターの幹部自身、Wibreeを「電力・価格・サイズ・使いやすさの4点でBluetoothを拡張するもの」と述べているが、ここで挙げた4つの特徴は、正にZigBeeが他のIEEE802.15規格との間で差別化を図っている部分である。仕様上、伝送速度に若干の差はあるが、Wibreeで省略された機能のペナルティーによる実環境での実効性能を想定すると、実質的にはZigBeeの適用領域と大いに重なっている様に思われる。

■無線PAN市場におけるWibreeの位置付け

 Total Telecomの報道によると、ノキアの幹部はZigBeeを「よりホームオートメーション向け」であると述べたとのことであるが、裏を返せば、同社はWibreeをZigBeeと競合させずに市場で済み分けさせることを狙っていることが伺える。同社が現在世界でトップシェアの携帯端末ベンダであることと、既に多くの携帯端末に搭載されているBluetoothとの融合を強く意識していることを考慮すれば、少なくともWibreeの短期的なメインターゲットが、携帯端末とその周辺機器市場であることは間違いない。さらに、もしWibree規格がほとんどBluetooth規格のサブセットであるならば、WibreeをBluetoothの事実上の省電力プロファイルと位置付ける意図がノキアにはあるのかも知れない(同社はBluetooth規格の主導会社でもある)。そして、Bluetoothとのデュアルモードチップ(無線方式の共通性から、デバイスレベルでの融合はZigBeeよりも有利)を携帯端末に搭載し世界中に広めることで、ゆくゆくは無線PANのデファクトスタンダードとしてより広範囲な市場に展開するという戦略があるかも知れない。

 現時点では、一部のベンダから提案されている位置付けのWibreeであるが、Bluetoothと一体化して、一挙に最有力無線PAN規格となる可能性を秘めている様に思える。

主任研究員 石井健司
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