2005年5月号(通巻194号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<世界のニュース:ネットワーク・スタンダード>

P2P通信の動向

 1996年に登場したICQのインスタント・メッセンジャー、1999年ナップスター、2000年グヌーテラ(Gnutella)などのソフトウェアが、P2Pの概念を一般へ注目させる契機となった。特にナップスターに代表されるファイル交換を目的にしたものは、著作権問題といった側面で負のイメージを残した。しかしその後も、ビジネスの可能性から、様々な形態のP2Pが提唱され、ビジネスモデルが作られている。ここでは、特に電話、メールなどの通信に関与するP2Pの現状とその展望について考

■P2Pとは

 P2Pとは、仲介者(ブローカ)を介さないブローカレス通信の研究の中から確立されてきた概念でネットワーク上で自由平等な立場で自立分散したピア(Peer)が存在し、情報要求者や情報提供者の役割を演じながら、ピア同士のコミュニケーションを仲介者を介さず直接行うことを理想とする通信形態、及び通信技術の総称である。よって、基本的に仲介者が行っていた役割を、ボランタリーに分担して目的のコミュニケーションを行うことになる。P2Pのメリットとしては、ネットワーク管理負荷の分散、システムコストの削減、既存PCの有効活用、動的なネットワーク構成が可能といったものが挙げられ、逆にデメリットとしては、認証が困難であること挙げられる。

■P2Pの分類

  • コミュニケーション要素による分類
    情報伝達、情報配信、情報探索(グルーピング)、情報ポリシーなどの各モデルが提案されている。?例えば、情報探索モデルでは、情報の探索に仲介者を介さず要求者役のピアと提供者役のピアが直接互いにふさわしい相手を探索、発見、ダイレクトコミュニケーションするモデル。

  • アーキテクチャによる分類
    ネットワーク上に分散配置された二つ以上のピア間のシステムの設計思想として、大きく別けて二つあり、一つは情報探索(グルーピング)からピア同士(Peer-To-Peer)でダイレクト・コミュニケーションを行う、純粋なP2Pモデル(グヌーテラ等)で、もう一つは、奉仕者(サーバ)により情報探索(グルーピング)を行い、その後ピア同士のダイレクト・コミュニケーションを行う、従来通信とのハイブリッドなP2P(ナップスタ−等)である。

■有線通信でのIP電話と無料IP電話ソフト「スカイプ」の動向

 一般的なIP電話はVoIP(Voice over Internet Protocol)により、インターネットやイントラネットなどのTCP/IPネットワークを使って音声データを送受信する。よって、仕組みは違えどもビジネスモデルとしては従来の通信と同様に通信会社などの仲介者(ブローカー)のサーバ「SIPサーバー」が介在して、通話したい相手同士を結びつけて、その後はP2Pで通話する、ハイブリットなP2Pである。

 そんな中、スーパーノードによるグルーピング等の概念により純粋なP2P(Peer-To-Peer)の環境で一般のIP電話のサーバに相当する役割を実現するソフト「スカイプ」(Skype)が、注目を集めている。P2P技術を使ったファイル交換ソフト「カザー(KaZaA)」を開発したNiklas Zennstrom氏とJanus Friis氏の2名が設立した企業(Skype Technologies S.A.)が開発したものだ。

 スカイプは2003年7月に登場して以来、2005年4月に1億回ダウンロードされ、18ヵ月余りで全世界で3,000万人、日本では90万人に利用されている。また、純粋なP2Pとしてだけではなく、ビジネスサービスとして、一般電話への発信を可能にしたサービス「スカイプアウト」と、最近導入された一般電話からの着信を可能にする「スカイプイン」など、従来型の通信との接続部分で、ハイブリッドな環境で独自のサーバによる課金管理などを行うビジネスを展開、新たな通信形態として知名度を上げつつその利用者を増やし続けている。

 通信事業者が行う、一般のIP電話の普及動向を見てみると、例えば、フランスの通信事業者の統計によると、IP電話ユーザー数は100万人を突破したとされている(この数字には、スカイプなどの無料IP電話ソフトのユーザーは含まれていない)。なお、2004年末時点では、フランスの固定電話回線数は3,300万回線で、ADSL加入者数は630万人だった。仏新電電ヌフ・テレコムでは、同社のADSL加入者の約半数がIP電話を利用していると見積もっており、その数は27万人に達する。

 また、調査会社大手IDCによると、米国内のIP電話(VoIP)加入者は、2005年の300万人から2009年には2,700万人に達する見通しであり、一般電話と比較したIP電話の格安通話料金が普及の要因になっているとしている。また、IP電話市場はすでに、ボナージュ(Vonage)が急成長しているのに加えて、既存の電話会社や、年内にはケーブルTV(CATV)会社などが相次ぎ参入することで競争が激化が予想される。

 これらのことから、欧米の有線通信マーケットでは、回線交換の電話より安い、一般のIP電話に対しては違和感が無くなりつつあり、更に無料IP電話ソフト(スカイプ)も、ビジネスマンなど一部イノベータには使用され、一般にも知られてきたといった状況にあるといえる。

■無線通信での展望

次に、無線通信でのIP電話を考える。インターネットへの無線での接続方法としては無線LAN等を用いた形態となり、無線を介してインターネットにダイレクトに接続される環境(エリア)を考えなければならない。ドイツでは、ドイツ・テレコムはこれまで国内4,000ヵ所の接続ポイントを建設、さらに年内に4,000ヵ所を増設する計画である。ここに、イギリスのクラウド(The Cloud)が参入を宣言し、クラウド社長のジョージ・ポーク氏は、今後数年間で同国内に5,000〜1万の接続ポイントを建設し、移動通信事業者あるいはインターネット接続業者との提携を通じてサービスを販売するとしている。

 クラウドはイギリスでも、2002年設立以来、既に5,400ヵ所のホットスポットを建設、2004年からベンチャー資本の3i、アクセルパートナーズの支援を受けつつ、現在毎週100カ所以上の割合で接続ポイントの新設を進めている。
このように、無線LANは今のところビジネスユーザーの利用が中心で、エリアもビジネスユースを想定したエリアから拡張されつつある。次に、こうした公衆無線LAN環境を利用して発達するであろう、通信事業者の介在するIP電話と無料IP電話ソフトの無線通信での違いを検討してみた。

 既存の無線通信事業者のサービスは、基本的に、何時でも、何処でも、誰とでもを実現するために、より効率的に、安全に通信が行えるよう仲介者の役割を果たしている。通信事業者が介在するIP電話も基本的にこの延長線上あり、モバイル・セントレックスなどで実現されている。

 一方、P2PのIP電話ソフトの代表として、スカイプでアクセス系に無線LANなどを利用して、簡易携帯電話の様な使い方を検討する。スカイプ端末が待ち受けに入ると、接続される無線LAN基地局提供者等には、単なるデータ通信にしか見えないが、無線部のセッションを張り切りにされることから基地局側が無線リソースの占有を防ぐ対策を行う可能性が高い。よって、接続エリアや時間帯によっては、待ち受け時に常時無線回線を確保しておくのが困難になると考える。ここが、常時接続状態にできる有線系の環境との大きな違いで、無線回線そのものが成立しないことから、スカイプインサービスを使っても回線が切れている場合と同様に動作すると考えられる。よって、着信時の仕組みとして、位置登録や未接続な状態からの呼び出しなどを検討しないかぎり、着信側の使い勝手は、通常の携帯電話より劣るといえる。このことからスカイプは、限られた時間、限られた場所、限られた相手との通信(特に着信)といった条件が場合によって混在することになり、移動通信の基本概念が実現できなことが想定される。

 これは、元々スカイプそのものがボランタリーな思想の元でインターネットの物理レイヤーの存在が前提に作られているので仕方が無いことだ。現在はこういった背景を理解しつつ利用している一部リテラシーの高いユーザ使用が中心の為か、通話料無料の為か、動作に関する不満は無いが、今後、普通の携帯電話と同じように使いたいと考えたユーザーが増えた場合に、問題として顕在化する可能性がある。
市場では、単なるIP電話ソフトとして、PDAなどを介した物から、携帯電話機の機能とする動きもある。米国では、モトローラが、スカイプをプリインストールしたWi−Fi携帯電話を用意すると明言している。また、2005年2月10日にはドバイの携帯電話機メーカーi-mateが、新しい無線LAN携帯電話「i-mate PDA2K」と「i-mate PDA2」に、製造段階でスカイプをプリインストールすると発表し、世界初のスカイプ・プリインストール無線LAN携帯電話が登場するようである。

 このようにP2Pの無線通信の分野は、Wi−Fiのエリア拡大と共にIP電話、スカイプを中心に変化しつつある。ただし、スカイプは、スカイプアウトやスカイプインで従来型の通信との接続サービスを展開しているが、そのビジネスモデルは不透明である。仮に、このまま拡大して何千万ユーザーが形勢された場合に、その基盤を使って何か新しい事業などが起こると、影響は甚大なものになる可能性もあることから、今後の動向に注目したい。

グローバル研究グループ
チーフリサーチャー 有川 順進

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