2005年3月号(通巻192号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<世界のニュース:市場・企業>

SKテレコム、米国でMVNO開始へ

 2004年から欧州、米国を中心に再びMVNO誕生の動きが活発化しているが(本誌2005年2月号参照)、移動通信事業者が所在する本国以外でMVNOとして事業を展開する動きが出始めている。また、インターネット・サービス・プロバイダーや固定通信事業者のような携帯電話以外の情報通信サービス事業者の市場参入も最近の傾向と言える。この双方に該当するMVNOがこのたび米国で誕生することとなった。

SKアースリンクのロゴ
<SKアースリンクのロゴ>
 韓国SKテレコムは2005年1月27日、米インターネット・サービス・プロバイダー、アースリンク(EarthLink)と共同で、MVNOとして米国で携帯電話事業を開始すると発表した。両社は2005年2月、それぞれ2億2,000万ドルを出資することにより計4億4,000万ドルの初期株式資本で合弁企業SKアースリンク(SK-EarthLink)を設立し、2005年9月までに米国で携帯電話事業を開始する予定である。サービス提供に際して、同社は米国内の既存事業者のネットワークを借り受けることになるが、現在のところ、ネットワーク提供事業者は明らかにされていない。しかし、業界ではSKテレコムと同じCDMA方式でサービスを提供しているベライゾン・ワイヤレスもしくはスプリントPCSがネットワークを貸与するであろうとの見方が強い。また、同社の2005年の詳細な事業予定は数ヵ月以内に発表される見込みであるが、韓国に比べて未だに音声利用が多い米国の携帯電話市場で、先進的な無線データ・サービスを提供し、2009年までに年間売上収入最大24億ドル、また330万人の顧客を獲得することを目標としている。同社はこの目標を達成するために様々な顧客を対象とし、セグメント別のマーケティング活動を行うことを計画している。

 米国での事業におけるSKテレコムの役割は、韓国の携帯電話加入者数シェア50%以上に相当する1,800万人以上の加入者を獲得する一因となった、「技術力およびキラーコンテンツ」を提供することである。一方、アースリンクは同社がこれまで米国における事業を通じて得たものを役立てる。同社はインターネット・サービスのほか、創始者スカイ・デイトン氏が2001年に設立したWi−Fiアグリゲーター、ボインゴ・ワイヤレスを通じたホット・スポット・サービスの提供やブラックベリー端末の販売、同端末でのVoIPを利用した音声サービス、インターネットサービスなどを行っている。そのため、そのサービス経験、18,000以上の小売店といった確立された販売チャネル、ネットワーク・データ・センター、ビリング機能などを活用することができる。更にインターネット・サービスの総加入者540万人のうち、新会社のターゲットと合致する顧客へ携帯電話サービスを訴求することもできる。

 これらの強みを合わせたSKアースリンクの米国携帯電話市場参入はSKテレコムとアースリンクの両社にとって大きな意味を持つと言える。米国の携帯電話普及率は2004年第3四半期時点で約59%、韓国では同時期に約75%に達しており、米国に比べて市場は成熟化している。このような事情を踏まえてSKテレコムCEOのキム・シン・バエ氏は米国市場進出について「成熟した国内市場への依存度を低くするため、また今後10年間収入を得ることができる新たなパイを作るために新事業で国際市場へ参入することは当然のことである」と述べている。同社は2004年3月に発表された「新価値管理」政策の下で、本格的にグローバル事業を運営しており、今後もビジネス・チャンスを求めて更なる海外進出を目指すとしている。2004年4月には中国において中国聯通との合弁会社UNISKによりモバイル・インターネット・ポータル・サービスの提供を開始するなど、これまでにも海外市場への進出を試みているが、それらと比較すると、今回の米国でのMVNO事業はこれまでの海外事業の中で でも出資規模は大きい。そのため、同事業は同社の今後の海外展開の試金石となる可能性も高い。

 一方、アースリンクは固定網による音声、データ、インターネット、携帯電話など個々のサービスをバンドルすることにより割引を実施する事業者が増えている米国における競争に勝ち抜くため、新たな価値を顧客に提供することが必要であった。また、同社は将来を見据えてインターネット・サービス以外に収入源となる事業を探しており、既に提供しているWi−Fiから展開しやすい携帯電話事業へ参入することが最も適していると判断したと考えられる。SKテレコムとアースリンクは、前者の3Gサービスと後者のWi−Fiサービスを融合させることにより、顧客を魅了するサービスを作り出すと述べており、うまくいけば米国での競争において他の事業者との差別化を図ることができるかもしれない。

 欧州や韓国、日本などでは携帯電話市場は飽和状態に近づいており、新たな収入源として海外市場へ進出することも主要選択肢の1つとして考えられる。その場合、海外に周波数や設備を持たない事業者にとってMVNOは短期間、低コストで事業を開始できるため有効であると言える。しかしながら、一方では通常の携帯電話事業者に比べると提供するサービスにも多かれ少なかれ制約が生じることも事実である。今後、携帯電話事業者が海外で事業を展開する方法としてMVNOが適しているか否か、SKアースリンクの動向に関心が集まっている。

移動パーソナル通信研究グループ
リサーチャー 武井 ともみ

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