2004年10月号(通巻187号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<世界のニュース:政策・規制>

フィンランドのアクセス・発信市場分析に欧州委員会が疑念を表明

 2004年8月3日欧州委員会は、フィンランド規制当局FICORAが実施した移動体アクセス・発信市場の市場分析結果についての委員会調査を、2ヵ月延長することを決定したと発表した。FICORAは、市場分析に基づいて、シェア50%超のテリアソネラが市場支配力を有すると結論したが、委員会はこれを支持する証拠が欠けているとの疑念を表明している。

■フィンランド当局の判断

FICORAは以下の基準に基づいてテリアソネラをSMP指定した。

  • 高い市場シェア:テリアソネラの市場シェアはトラヒックで計測して60%である。他事業者のシェアはエリザが29%、フィンネットが10.5%、他1社が0.1%となっている。
  • 高い参入障壁:移動体市場は周波数制約により免許数(事業者数)が限られている
  • 規模・範囲の経済、および強い財務力
  • 対抗的購買力の欠如
  • 大手独立プロバイダはテリアソネラのネットワークをホストとしている

 この結果、FICORAはテリアソネラにSMP義務として、サービス・プロバイダへのアクセス提供義務、相互接続義務、非差別義務、ローミング交渉義務を課すことを提案している(ここでのサービス・プロバイダとは、電波配分を受けず移動通信サービスを提供する企業で、ネットワーク設備を保有し料金設定に自由度を発揮するもの(MVNO)から、単なる再販業者までと、広い範囲を指すと考えられる。独立プロバイダとはネットワーク事業者と資本関係を持たないプロバイダ)。

■欧州委員会の批判

 これに対し欧州委員会はFICORA宛ての公開の書面で以下のような点を挙げて、FICORAの市場分析結果に問題があると批判している。

SMP指定の論拠が十分でない。

  • フィンランド市場の現状から見て、市場シェアが50%以上という事実だけではドミナンスの証拠として不十分である。
  • ネットワーク事業者にアクセス提供義務は課されていないが、近年の市場動向からフィンランドの独立プロバイダはそのような環境でも商的交渉を通じて3つの全国事業者(テリアソネラ、エリザ、フィンネット)と協定を結んできたことがわかっている。
  • 小売市場の競争が卸売市場へ与えるインパクトが分析されていない。

 アクセス提供義務がないにも関わらず、事業者とサービス・プロバイダへの間に協定が締結されてきたという事実は重要である。また、欧州委員会は、フィンランド市場では、独立サービス・プロバイダが小売市場で近年急速に高い消費者評価を受けてきたと見ている。このためネットワーク事業者の側にプロバイダを引き留めようとする強いインセンティブが存在すると考えられる。実際、プロバイダに応じて、料金体系も異なるのである。確かにネットワーク事業者のシェアに注目すると、テリアソネラが圧倒的な支配力を持っているように思えるが、市場の現実に照らすと、独立サービス・プロバイダが強い立場にあり、ネットワーク事業者の支配力を抑制していることが窺われる。ちなみに、テリアソネラとエリザは、MVNOとも契約関係を結んでいる。委員会が批判しているのは、事業者とサービス・プロバイダとのこのような関係についてのFICORAの分析が不十分な点である。委員会の見方は、FICORAの挙げたSMP指定根拠、「対抗的購買力の欠如」という事実認識とも正面から対立するようである。

 小売市場のダイナミズムとしては、MNPの影響も指摘されている。フィンランドのMNPは2003年6月に開始したが、以降、短期間で大手プレーヤーから小プレーヤーへの顧客シェアのシフトが生じており、競争に明らかな進展があったとみなされている。

FICORAはテリアソネラに、アクセス提供の非差別義務を提案しているが、この義務は、卸売市場および小売市場の双方で現在起きている市場発展を阻害する恐れがある。

  • 非差別義務を課すと、アクセス料金が市場プレーヤーに知れ渡るところなり、テリアソネラの交渉における立場を不利にする可能性さえある。そのため結果的にアクセス・発信市場の料金競争に悪影響を与えることになるかもしれない。

 要するに、フィンランドのアクセス・発信市場は規制せずとも自由な商取引を通じて競争が機能していることが推測されるが、仮にそうであるとすれば、介入は不適切ということになる。

  FICORAは欧州委員会による第2段階調査の結果を待って、最終決定を2ヶ月延期しなければならない。この期間に委員会は、FICORAのSMP決定について、拒否権を発動するか否かを決定する。

 シェアの大きさのみでは、SMP認定にはつながらない。フィンランドの例は、特定のネットワーク事業者のシェアが非常に大きいにもかかわらず、SMP指定を受けないことがあり得るという1つのわかり易い例となった。しかし、このような判断は、サービス・プロバイダが十分活発であり、ネットワーク事業者と伍して競争しているという事実があってこそなされたという点は重要である。フィンランドは、特定のネットワーク事業者のシェアが非常に高い点ではわが国の市場と類似しており、その意味から興味深い面もある。しかし2つの市場の実態は非常に異なっており、同列に比較することはできないのである。もう1つ重要な点は、欧州委員会が移動体アクセス・発信市場を将来的に規制対象から除外したい意向だということである。2005年末に予定している関連市場勧告の見直し時には、この市場がリストから外される可能性は十分にある。着信を除けば移動体は規制撤廃−EUレベルではこの大きな流れが背景にあることも忘れてはならない。

移動パーソナル通信研究グループ
リサーチャー 八田 恵子

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