2004年7月号(通巻184号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<世界のニュース:ネットワーク&スタンダード>

IEEE802.11n対応製品が2004年後半にも登場
〜MIMO技術により100Mbpsを実現〜

 IEEE802.11の最新技術、IEEE802.11n対応製品がはやくも2004年後半にも登場する見込みとなった。IEEE802.11nは、次世代無線アンテナ技術「MIMO」を用い、高い周波数効率を保ちながら100Mbpsという超高速通信を実現すると言われており、無線LANの用途を大きく広げるものとして非常に注目されている。以下、MIMOを用いたIEEE802.11nについて概況をまとめる。

 無線LANのチップ・セットおよび関連ソフトウェア開発ベンチャーのエアゴー・ネットワークス(Airgo Networks)は2004年6月14日、同社チップのOEM企業4社(SOHOware、Planex Communications、Askey、太陽誘電)がエアゴーのMIMO技術を用いて無線LAN製品の開発・生産を開始したことを明らかにした。2004年後半から2005年初頭に対応製品が続々と出荷される予定となっている。

 MIMOとは、Multi Input Multi Outputの略称であり、複数アンテナを用いた多重化技術のことである。送信側、受信側双方に複数のアンテナを並べて、同じ周波数チャネルの電波を空間で隔てながら並列に伝送する、いわゆる空間分割多重方式による伝送技術である。複数のアンテナを利用して複数チャネルによる同時通信を行うため、帯域を増やさずにアンテナ数の分だけスループットを向上させることが可能となり、4Gの有力技術として注目されている。MIMOでは単に符号を多重するだけでなく、複数の伝播路を持つことにより、隣接チャネルとの干渉にも強く、より高品質な通信が可能となる。

 今回エアゴー・ネットワークスはこのMIMO技術を、IEEE802.11に組み込み、世界ではじめて製品化するところまでこぎつけたことになる。これにより無線LANの利用可能性が大きく広がることが期待される。例えば伝送速度は最大100Mbpsまで超高速化される。また到達距離も既存の無線LAN機器の数倍に引き上げることが可能となる。よって、個々のアクセス・ポイントのカバレッジを拡大させることが可能となり、無線LANシステムの導入コストの削減も期待できる。

 MIMO技術のIEEE802.11無線LANへの適用は、エアゴー・ネットワークスだけでなく、多くの既存無線LANチップ・ベンダー、例えば大手ブロードコムなども開発を進めてきたが、エアゴーはこの分野で一歩抜け出たことになりそうだ。


図表1:MIMOの特徴


 また標準化団体IEEE自身も採用を検討しており、IEEE802.11の最新規格、IEEE802.11nに採用されると見られている。IEEE802.11nとは100Mbpsを超えるスループットを実現する次世代無線LAN規格である。標準化作業は2002年5月よりHigh Throughput Study Groupにて活動が開始され、2003年9月からはTask Group n(TGn)にて作業が進められている。

 IEEE802.11nで最も注目される点は、ユーザレベルでの「実効」スループットで100Mbpsを実現するという目標を掲げているところにある。実は現行のIEEE802.11は、例えば802.11bの最大伝送速度は11Mbps、802.11a/gは54Mbpsといわれているが、実際ユーザーが体感するスループットはこの半分程度にすぎない。しかしMIMO技術を採用することにより、実効スループット・レベルでも100Mbpsが実現すると言われている。

 IEEE802.11nの標準化完了は2005年〜2006年頃になりそうであるが、標準化前に製品投入され、市場が拡大するケースは少なくない。実際IEEE802.11においてもIEEE802.11gなどは先行ベンダーが標準化前に対応製品を投入し、その結果市場拡大が前倒しされたことを考えれば、今回のエアゴー・ネットワークスの発表は、今後の次世代無線LAN市場の動向に大きな影響を与えるであろう。


図表2:IEEE802.11の方式比較


図表3:プレネックス・コミュニケーションズが報道発表したPreIEEE802.11n製品

移動パーソナル通信研究グループ
リサーチャー 竹上 慶
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