2004年7月号(通巻184号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<世界のニュース:市場・企業>

世界初の航空機内の高速ネット接続サービス、提供開始

 2004年5月、ボーイング社(米イリノイ州シカゴ本社)の一部門であるボーイング・コネクション(Boeing Connexion)と独航空会社のルフトハンザが、航空機内での高速インターネット接続サービス「コネクション・バイ・ボーイング(Connexion by Boeing)」の商用提供を開始した。航空機内でのインターネット接続サービスの商用提供は世界初となる。以下にこのサービスについて概観した。

■高度3万フィートで高速ネット接続


機内のWi-Fi接続の様子(ボーイング社のHPより)

 2004年5月17日、独ルフトハンザのミュンヘン発ロサンゼルス行きの452便がこの「コネクション・バイ・ボーイング」サービス導入の初フライトとなった。乗客が、機内に敷設されたIEEE 802.11b規格での無線LANネットワークに接続することで、電子メールやウェブ(VPNを利用し、社内プライベートネットワークに接続することも可能)を利用することが可能となった(但し、ボーイング社は、機内のLANを、有線、及び無線と有線の両方による構築とすることでも利用可能としている) 。

 サービスの利用料金は、1フライト中の無制限利用が可能なプランの他、従量制での利用も設定されている(参照:資料2)。ルフトハンザでは、ミュンヘン、及びフランクフルト発の全てのルフトハンザ長距離飛行便が2006年迄にこのサービスを導入する計画である。また、2004年中には、この「コネクション・バイ・ボーイング」は、ルフトハンザ(一部路線のみ)に加え、全日本空輸(ANA)、中華航空(CAL)、日本航空(JAL)、スカンジナビア航空(SAS)、シンガポール航空、ブリティッシュ航空、及びその他のサービス・パートナーの路線での利用を開始する予定となっている。


資料2:料金プラン


 このサービスのシステムは、航空機内ではWi−Fiによる接続であるが、航空機から地上までの通信は衛星回線が利用されている(参照:資料3)。衛星回線は、世界四大陸(欧州、中央アジア、アフリカ、南北アメリカ)をカバーする衛星通信事業者であるユーテルサットが、衛星回線容量の一定量をボーイング社にリース提供している(2003年8月にボーイング社と契約締結。契約金額は非公開)。北大西洋、及び欧州にて、ルフトハンザとブリティッシュ航空により実施された3ヵ月間限定の試験サービス提供においても、ユーテルサットが衛星回線を提供した(参照:資料4.試験提供について)。

<資料3:「コネクション・バイ・ボーイング」のしくみ>


*出所:ボーイング社のサイトより。吹き出しの記載は情総研にて加筆のもの

拡大表示するにはクリックしてください。


資料4:2003年実施の試験提供について(1〜3ヵ月間限定
で北大西洋上の空路で実施)


 また、日本においては、NTTドコモが、2004年4月、同サービスを、同社が提供している公衆無線LANサービス「Mzone」のユーザーへ提供することに向けた覚書をボーイング社と締結したことを発表した。これによりNTTドコモとボーイングは、国際線フライト中におけるモバイル通信サービスの提供に向けた検討を開始するとしており、このサービスの実現により、Mzoneユーザーは、国際線機内においても、日本国内と同じユーザーIDとパスワードを用いて、同サービス(NTTドコモでは「CBB」との略語を用いている)を利用することを可能とするとしている。また機内での利用料金については、後日NTTドコモの請求分と合算してNTTドコモから請求することとなるとしている。

 空港や航空機内でのインターネット接続は、ブロードバンド・インターネット接続プロバイダーにとって非常に大きなチャンスを掴む場になると着目されてきた。空港や航空機は、多くのビジネスマン顧客が利用するが、彼らの多くは空き時間を持て余していることが多いためである。また、国際線のビジネスマン利用は高い割合を占め、需要が見込める点からも、ビジネスユーズが着目されている。ピラミッド・リサーチ社のアナリストAnshu Dual氏は「ブロードバンド接続にビジネス客は喜んで代金を払うだろう。また、(航空機内は)顧客がこれまでインターネットへアクセスできないという限定的な環境におかれてきたこともあり、(今後は)チャンスのある分野とみることができる」とコメントしている。

 また、ボーイングは、旅客対象としてのみではなく、このサービスが、乗務員と地上との通信に利用できるという点において、航空会社の効率的かつ円滑な業務運営に貢献できる点をも強調し、例えば「コスト高価の高い機内メンテナンス監視」、「セキュリティの監視」、「乗客名簿の送信」、「エンターテイメントコンテンツの更新」、「遠隔医療診断」、等における利用をも提案している。

■船舶における導入

 実はこの「コネクション・バイ・ボーイング」、航空機のみならず、船舶における利用についても想定されている。衛星を用い、船舶内にWi−Fiネットワークを敷設し地上ベースのネットワークを活用することで、航空機と同様に、船舶内でも高速ネット接続が可能となる。ボーイング社は、船舶における「コネクション・バイ・ボーイング」の導入においても、業務改善という利点を強調している。このサービスの導入で、船舶の乗客のみならず、船長、クルーが、インターネット、及びファイアウォールで保護された社内イントラネットにアクセス可能となり、例えば、航海に関する情報の更新、クルー管理、安全対策強化が容易にでき、また(衛星回線における)帯域幅を増加することにより、遠隔で船のシステムや積荷を監視し、保守管理を強化し、最適な航空ルートを決定することができるとしている。また、このサービスの導入により、各種作業効率を向上させることが可能で時間・料金ともに競争相手に優位にたつことが可能であると強調している。ボーイング社は、100フィートのヨットから1,000フィートレベルの超大型タンカー、あるいはコンテナ船まで、あらゆる種類の船舶に導入可能であり、各種ソリューションの実現が可能としている。海上における利用については、2006年初頭までに、世界の主要な航路がこのサービスの対象範囲になる予定であるとのことである。

 今まで、本格的には進展してこなかった空路、及び海路におけるインターネット接続であるが、衛星回線の利用と安価なWi−Fiを利用したシステムにより、今後、本格的な普及に向け進展することを期待したい。

移動パーソナル通信研究グループ
リサーチャー 林 美彌子

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